第18話
”forest story” f-s3
フィクションです
初めてのお使いから薬を届けたり小さなお使いに慣れた頃。
買い物籠の大きさを中位にしても大丈夫になった日。
私は、お昼ご飯を買いに東京へ初めて行った。
その店は使い魔が来る事に慣れている古い洋館の老舗洋食屋さんでオムライスが名物だそう。
私に買い物籠を咥えさせ。
「色々な魔女や魔法使いの使い魔が昔から通ってるしその買い物籠を見れば私の使い魔だと判るから大丈夫。それに真っ黒な蜜はきっとあの店の五代目に気に入られるよ」
真っ黒な私が気に入られると言う不思議な言葉を胸に食器棚の間の暗闇に溶け込んだ。
現れたのは官庁街に程近い洋食屋さん目の前にある植込みの暗闇。
ランチ時をかなり過ぎているのにまだ数人並んでいる。これは味にかなり期待出来そう。
行列の一番後ろに買い物籠を咥えチョコンと座る。
他の人は立って並んでいるのに私だけ座ってて悪いな等とボーと考えていると蝶ネクタイをしたウエイターさせが前方から注文を聞いてボードにペンで書き込んでいる。
きっとランチ時に急ぐお客様の為に料理を出す時間を短縮する為ね。心憎い気遣い流石歴史のあるお店、これだけでこのお店好きになっちゃう。
そして最後に私の番。
私はウエイターさんに買い物籠をグッと示す。
使い魔に慣れている筈のウエイターさん、私を一目見て驚いている。何故かしら?
「真っ黒な使い魔、黒目が大きくてどこを見ているか判らない位に真っ黒・・・これはうちの”黒い秘密兵器”に報らせねば後々面倒になりそうだな」
ウエイターさん入口にいる若いウエイターさんを呼び注文が書いてあるボードを渡すと私の目の前にスタンドを立てた。
【本日のランチ終了しました】
えっ?何それ?私並んでたのに・・・お使い失敗?
何で!何で?
籠を咥えたままシュンとする私を見て慌てるウエイターさん。
「使い魔さんの分はちゃんと用意しますよ、大丈夫です。驚かせてゴメンね。意地悪じゃないよ泣かないで。その買い物籠を持っていると言うと黒蜜おばばの使い魔さんだよね?」
瞳を涙で潤ませ鼻をスピスピ言わせながら頷く。
「大丈夫絶対に用意するから安心して使い魔さんに会わせたい人が居るんだ。その人に会ったらウ〜ンとサービスしてくれるよ。それに泣かせて仕舞った謝罪に僕がレモンシャーベットを食べさせあけるから機嫌を直して。それと買い物籠のメモを見せてね」
レモンシャーベットと聞いて力強く籠をウエイターさんに差し出す。
籠を受け取りメモを読み何度か頷いた。
「蜜ちゃん、黒蜜おばばもこうなるだろうと予想してたみたいだよゆっくりお使いして来てと書いてあるから二階へ案内するよ。着いて来て」
入口を入った横の臙脂色の絨毯を敷いた階段を登り木製の重そうなドアを開けて貰い室内に入るとそこは、レトロモダンな内装。
椅子もテーブルも猫脚になっている使い込まれたアンティーク。
シャンデリアも豪華過ぎず室内を灯す光が暖かい色合い。
とっても調和の取れた良い空間、こんな場所で恋人とディナーを食べた後にプロポーズされたいわ。
キョロキョロと室内を見ていたら一番奥窓側の席の椅子を引いてウエイターさん私が座るのを待っていてくれてる。
それを見ても急がす優雅に歩み寄り座る前にお辞儀をしてから椅子にピョンと上がる。
買い物籠を手荷物籠でなく私の隣の席に置いてくれてるなんて買い物籠に意思があるのを判っているからだわ。
荷物で無く使い魔として扱ってくれてる。
流石、歴史あるお店ね。
「少しの時間待っててね蜜ちゃん。直ぐに”黒い秘密兵器”を連れて来るから」
再び聞く”黒い秘密兵器”一体何がでてくるの?
この時間帯二階には私以外にはテーブルを拭いているウェイトレスさんしかいない。とても静かな空間だったけど・・・。
通用口からドカドカと言う足音。
「俺より真っ黒い使い魔が来てる?それも黒目が大きな女の子で可愛いだと?何故直ぐに知らせなかたんだ!」
声と共に通用口が開き”黒い秘密兵器”が登場した。
白いコック帽に白い厨房着しかし顔と手が真っ黒に日焼けしている。
一目見れば解る。
”黒い秘密兵器”
秘密にしていても人前に出たら指を差されながら。
「あっ!”黒い秘密兵器”だ!!」
と叫ぶに決まっている位に黒い。
私を見つけた”黒い秘密兵器”さん顔を私の目に近づけ。
「黒目が大きいと言うか、どこをみてるか判らん。確かに俺よりも黒いし可愛い女の子だな・・・うん。気に入った!黒い奴に悪い奴はいない!」
ウェイトレスさんからメモを渡され目を通す。
「黒蜜おばばの新しい使い魔で蜜ちゃんか。俺のことは”五代目”と呼んでくれ決して”黒い秘密兵器”では無いからな?オムライス二つお持ち帰りね。直ぐに作って来るよ。待ってる間サービス品を食べててくれよ」
”黒い秘密兵器”もとい五代目さんが通用口へ消えて行くのを見ていると、私の前にビーフシチュー、サラダ、パン、スープそしてそれらを置いてくれたウエイターさんが。
「食後にレモンシャーベットをお持ちします。こちらに並べた品は秘密兵器からのサービスですので遠慮無くお食べくださいね」
えー!これサービスで食べて良いの?嬉しい!
さっそく頂きま〜す。
私用に食べ易く成るべく平で縁の少ない皿盛ってあるきっと使い魔用に皿があるんだろうな。
パンも食べ易く切ってバター既に塗ってある。
お辞儀してからスープを飲む。
コンソメが良いお味、市販のだとクドイのよね。
これ位アッサリした味の方が風味を楽しめる。
ビーフシチューは酸味が効いた他では無い味、でも食べて行く内に好きになる味。
ここに来たらまた頼みたくなるそんないつ来ても待っててくれる様な味。
パンがほんのり溶けたバターの塩味が沁みて何とも言えない食感。
このパンも自家製なんだろうな。
良いなぁ〜毎日食べたいなぁ〜。
サラダはシャキシャキでビネガーが効いてる!
ビーフシチューの後にたべると口の中が洗われる。
パンでお皿に残ったシチューを綺麗に吸い取りパクっと食べる。
ふーぅー。美味しかった。
コトリとレモンシャーベットの皿が置かれる。
見上げるとウエイターさんニッコリ笑って。
「ね?”黒い秘密兵器”に気に入られたでしょ?でなければサービスでこんなにいっぱい食べさせてくれないよ。レモンシャーベットは僕からのと秘密兵器からので特盛だよ。食後のコーヒーは如何いたしますか?」
もちろん私は・・・真っ黒繋がりで。
『ブラックコーヒー』
を頼んだ。
コーヒーを飲んでいると通用口から五代目さんがレジ袋を持ってやって来る。
「本来はケチャップかデミソースか一択なんだが両方入れて置いた。次に来た時に好みの方を指定してくれ。あと今日はお代は要らない代わりに一緒に写真を撮ってくれないか?どれ位黒さに差が在るか記録して残してこれからの参考にするんだ」
また”黒い秘密兵器”で無ければ考え付かない理由?
でもサービス満点の美味しい料理を食べさせて貰ったし私の事を気に入ってくれてる人の希望だもの断らないわ。
私は首を縦にブンブン振る。
嬉しそうにオムライスを買い物籠に入れてくれる。
その後お店の出入り口に出るとコックさんやウエイターさんウェイトレスさん皆んなが店頭に並んでいる。
五代目さんと私は真ん中に連れて行かれた。
連れて行かれた先いた背広姿のお爺さんは四代目さんだそう。
私を見てニコニコしている。
真ん前に三脚のデジカメラが設置されていて既にスタンバイOK。
シャッターのリモコンを持ったウエイターさんが。
「ハイ!チーズ!」
写真を撮り終へ皆んなにお辞儀してから買い物籠を咥えカメラの後ろにある植込みの暗闇にタッタッタ。
植込みに消えた私を見た四代目さん。
「初代の時に来ていた真っ黒な魔女の使い魔にそっくりだなあの蜜ちゃんは、まるで生き写しだよ。木造だったその当時の店が隣家の火事で燃えそうになり丁度その時お使いで来ていた真っ黒な使い魔が、蜜ちゃん見たいに主人である魔女の元に報せに行き”消火魔法薬”を持って帰り鎮火出来た。あの時店が燃えていたら店を再建する余力は無かったそうだ」
ポケットからセピア色の古い写真を取り出し皆にみせる。
無事だった店の前で写されたもので、火を消す時の煤で顔も身体も真っ黒な初代と真っ黒な犬の使い魔
の写真だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます