第11話

「蜜なのかい?」

そう問われ私はコクンと頷くと共に右手に持っている人参の切れ端を突き出す。


「ちょっとそのままで待っていておくれ」

と言うと私の手から人参を受け取りテーブルのお湯の入ったティーポットに入れた後、急いで自分の寝室へ入って行く。


暫く待っと着物を仕舞っておく紙の包みと若草色の帯に黒塗りで紅い鼻緒の下駄を持って出て来た。


包みから浴衣を出し私に着せ始めた。

白地に撫子の柄だそう。

とても可愛い柄。


若草色の帯を締めて黒塗りの下駄を履かせて貰う。

「日本美人の出来上がりだよ。鏡を見てご覧」

玄関脇に備え付けてある姿見前に手を引かれて行く。


そこに映るのはスラリとした可愛い女の子。

大きな黒眼と長い黒髪が印象的。


その場でクルリと回ってから姿見にニコリと微笑んむ。

甲斐犬だった私は黒眼が大きく写真を撮ると影絵みたいだったので嬉しい。


「私の娘の琥珀が高校生の頃に着ていた手縫いの浴衣だよ。身長がピッタリで良かった。着物なら背丈さえ合えば体格は何とかなるからね」


丁度蒸し上がった地獄人参茶をティーカップに注ぎながら黒眼おばばが言う。


何時も座る定位置にカップが置かれたので椅子に座る。

普段は私専用の深皿に飲み物を注がれるが今日は初めてカップで飲む。


一口飲むと痺れる様な魔力が口いっぱいに広がる。

地獄の使者になった私には良く馴染む魔力だ。


「やっぱり並みの魔力では無いね一万年物の人参は、この強い魔力と腕輪の魔力・・・あの薬で普通では犬が人化する事は無いが蜜の腕輪の強大な魔力を使い人化してるんだろうね。それも地獄の黒い魔力で。地獄の誰かが仕込んでいたのかもこの展開・・・・・でなければあんなに魔力の強い腕輪や宝珠必要無いからねぇ」


地獄の腕輪は地獄の象徴で強い魔力を含んでいる。

その上の宝珠。

腕輪や宝珠に特別な役割は無いが強大な地獄の魔力が内包されている。


いずれ”特人化促進薬”が無くとも地獄の魔力が蜜に馴染み自由に使い熟せる様になれば勝手に人化していただろう。

地獄の魔王は一体何を考えているのだろう?


その頃、一番最初、腕輪に宝珠を嵌めた秦広王(不動明王)は宋帝王(文殊菩薩)に呼び止められた。

「貴方、一体何を考えてあの様な行動を?」

「やはり貴殿にはバレていましたか」

物凄い黒い笑顔の秦広王。

「腕輪と宝珠これは特に能力は無いが内包する魔力量は莫大な物それこそが地獄の象徴。その魔力が身体に馴染み使い熟せる様になれば望む姿見に変化する事も可能に。」


これまた真っ黒い笑顔の宋帝王が頷きながら。

「貴方は蜜さんの人化がお望みと」


「私以外の魔王全員の宝珠と地獄使者これで蜜ちゃんの人化が早まり使者になった今の年齢で固定される」

「つまり若くて可愛い蜜さんが永遠に地獄のお使いをしてくれると・・・秦広王(不動明王)貴方は天才です。地獄の悪知恵袋と呼ばれる私の知恵の上を行く」


「そんな褒められた物では無い。可愛い女の子が世界の美味を届けてくれる。そう思ったら腕輪に宝珠をねじ込んでいたのだ。しかし他の魔王が宝珠を腕輪に付けるとは思わなんだが」


「私を含め他の魔王は貴方の行動を見て思ったのです。炎の化身、秦広王(不動明王)だけに爪に火を灯し倹約に勤しむ貴方が躊躇せずに大事な宝珠を蜜さんに与えた。これは何か裏があると」


二人してこれまた凄い悪い笑顔で。

『やはり若い女の子が「魔王のオジサマ、私がオジサマの事を思いながら選んだ世界の美味を召し上がれ」なんて口に入れてくれたら最高』

と二人してハモる。

魔王は基本的に中身が楽しみの少ないオヤジである。


オヤジどもの助平心の為に大変な事に巻き込まれてしまう蜜であった。




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