第34話そして吹田ジャンクショニアリング

「しまった!」

おもわず声をあげてしまう。


岡山方面は左だったのだ!

右と左のわからない男、名神高速上り方面に入ってしまった。


「ごめんねー、間違えちゃったから、つぎで一回降りて、もっかい入りなおそう。」


「いいじゃん、まっすぐ行こうよ?」

さすがに高速ではちゃんと締めないとと言ったのは、法円坂をあがる前、

ピンと張ったシートベルトが食い込むくらい前屈みになり、下からわたしの表情を伺ってくる。

半笑いで。


「まっすぐ行ってどうするの?」


「まっすぐ行ったらどこに行ける?」


「そうだな、京都、名古屋、静岡、もっと行けば東京?」

jazzyな展開、このままネズミーランドでも行くか?

まさか。


「米原は通る?」

言って前に向きなおる。


「通ろうと思えば通れるけど?どこに行くかにもよるとおもうけど。」


「米原から北陸道につながってるよね?たしか。」


「うん、たしかそうだとおもう。」


「じゃあ、のとじま水族館行きたーい。」

言って足元に放り投げてあった、コンビニの袋をがさごそ弄り、おっとっとを食べ始めた。


「食べる?」

言って、わたしの口へ放り込もうとしてくるが、かぶりをふり丁重にお断りした。


「でもなんで能登島なの?」


「んっとねー、昔、彼氏と行って楽しかったから。」


思い出をめぐる旅、きっとはっきり彼氏と言ったのは、件の、熊本出身の彼氏なのだろうと察する。

能登島、わたしにも心当たりがないわけではない、そうとなれば、藤澤清造の墓参でもするか。

それも悪くない気がしてきた。


大正期の破滅型作家として知られる北陸、七尾出身の藤澤清造、それはわたしが師として仰ぐ、西村賢太御代、そのひとが

菩提寺に建立した、西村師の生前墓と並んで立っているらしい。

いつかは行ってみたいと思っていたのだが、牛に引かれて善光寺参りな展開、悪くない。


「じゃあ、そうしようか? のとじま水族館、それからお墓参りも行きたいから。

決まりでいい?」


「やったぁ~~。」

ぱりぽりと、おっとっとを頬張りながら言う。


「じゃあ、決定!」

言いながら左手でハイタッチを交わしてみた。


「じゃあ、みーちゃんにお願いがある。」


「なーに?」

言って、窓に背中を押し付けるかたちで、わたしの方へ向き直り、またがさごそとビニール袋を弄りながら

今度は、たけのこの里を出し、

「食べる?」


ふたたびかぶりを振るわたし。

「まず、ナビをのとじま水族館にセットしてほしい。」

ばりぼり、たけのこの里を食べながら、「了解~」言って、タッチパネルを操作しはじめた。

岡山へは行ったことある道だから大丈夫だと、セットしようかと甲斐甲斐しくも聞いてくれた美沙を無下に扱いこの有様、

つぎこそは着実な旅路を。

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