化け猫先生 ―宇喜多直家―
「やはりフォースタス様は無敵ですね、アスターティ様?」
私たちは、フォースタスと「ドクター・マーシレス」の「手合わせ」を観戦している。二人は驚異的な跳躍力で床を蹴り、天井を蹴り、透明強化ガラスの壁を蹴って、二刀流同士で文字通り火花を散らしている。
二人のキックでガラス壁や障害物などにひびが入っても、それらはすぐに自己修復する。私たちの身体と同じように。
「ドクター・マーシレス」、本名は猫の鳴き声みたいな響きなので、アガルタの一部の住人たちからはこう呼ばれている。
「化け猫先生」
生前のあの人の人生は、兵法家の呉起と同じく、女たちの血と涙にまみれていた。それゆえに、アガルタの少なからぬ住人たちに恐れられている。
さらに、恐るべき任務もある。
強力な新型ウィルスを生み出して、外界にバラまく。これは、戦争と同じく、地球上の人口爆発を抑えるための「必要悪」だ。それで、あの人はカエムワセト王子率いる通称「プリンスチーム」に属している。
ただ、これは同時に外界の医療技術の進歩を促すためのものでもあるのだ。
西施さんは、生前は病弱だったが、ここアガルタの精霊の一人となってからは、のびのびと幸せに暮らしている。そんな彼女の悩みは、最愛の人
范蠡殿は、プリンスチームの「汚れ仕事」の多くを引き受けている。世界各地に紛争の種を蒔き、影で操っているのだ。
「死の商人」…それが今の范蠡殿の仕事だ。そして、フォースタスに武芸の稽古をつけてもらっている「化け猫先生」は「死のドクター」だ。
「化け猫先生」はなかなかの美男子だ。だから、アガルタの女性住人たちからの人気はそこそこある。だけど、私はあの人を信用しづらい。
自分の妻や娘たちを犠牲にしてまで敵を仕留めた「梟雄」。フォースタスとはえらい違いだ。
私はフォースタスと一体化して、不老不死の身体を得た。アガルタの住人たちは私を二代目「女神アスタルテ」と呼ぶ。そしてフォースタスは「最後のバール神」として「バール・フォースタス」と呼ばれている。
フォースタスは「化け猫先生」に対して色々と不安を抱いているが、私もあの人を警戒している。あの人は伊達に「梟雄」扱いされてはいない。あの人はフォースタスに対して一種のライバル意識を抱いている。
私の心配が杞憂に終われば良いのだけど、どうも不安だ。
一体、誰があの人を止められようか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます