賢者の贈り物

不韋ふい!」


 呂尚は3人を呼んだ。

「何かご用でしょうか、お祖父じい様?」

「今日はクリスマスイヴだな」

「はぁ…」

「ていうか、俺らクリスチャンではないし」


 呂不韋りょ ふい呂雉りょ ち(前漢の呂后)、そして呂布りょ ふ。いずれも太公望呂尚りょ しょうと同姓の者たちである。彼らは本来ならば、生前の罪に基づき地獄に落とされる予定だったが、そんな彼らを救ったのが「祖先」である呂尚だった。

 神々の使者である彼は、天界の自分の屋敷で、3人に自分の身の回りの世話をさせていた。


「お前たちにプレゼントをやろう」

「あ、ありがとうございます」

「まあ、榎本俊二の『えの素』の単行本じゃないですの!? 何てお下品なんでしょう!」

「ほほう、お前、すでに読んでいるのか?」

「誰が読みますか、こんな下品な漫画なんて!」

「読んでおらんなら、内容を知らぬハズだが?」

「……」

「俺、漫画さえ読まないほど本を読むのは大嫌いなんだけど」

「ただし、エロ本は除く。だろ?」

「ええ、まあ…」


 そうこうやり取りしているうちに、呂不韋が尋ねた。

「これは本当のクリスマスプレゼントではありませんね?」

 呂尚はニンマリした。

「そうだ。本題はこれからだ」

 3人の呂氏の子たちは生前の罪を償うために、祖先である呂尚の下で働いてきた。だいたい2千年前後の長い年月だ。

「お前たちの罪は償われた。そして、これがお前たちへの褒美、クリスマスプレゼントだ」

「おお、これは『転生チケット』…?」


 3人の目が輝いた。


 虹色に輝く雲から、3つの光の玉が飛び出し、地上を目指した。うまく行けば、あの3人は元日に新たな生を授かるだろう。

 今度こそは、より穏やかな、より幸せな人生を。

「Merry Christmas! & A HAPPY NEW YEAR! …うまく発音出来たかな? ハハ…。お前たち、今度こそは真っ当な人生を歩めよ!」

 呂尚は一足先に祝杯を挙げた。

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