信頼出来ない語り手のものがたり

明智紫苑

黄金のリンゴ

 真一は、リンゴ農家である。彼は元々農家の息子ではなく、元雑誌編集者の脱サラ農家である。

 そんな彼の今年の作物の出来はまあまあ良かった。とりあえず、出荷分とは別に自宅用をいくらか保存している。

 そんな真一はある日、インターネットで謎の商品を見つけた。

「食品用の…メタリックスプレー!?」

 彼はさっそく、問題のメタリックスプレーとやらを注文した。とりあえず、金色。


 数日後、問題のスプレーが家に届いた。

 真一は子供の頃から神話や伝説がらみのネタが好きだった。特にギリシャ神話が好きだったが、彼はネット上で問題のスプレーを見つけた時点で何やらもくろんでいた。

「よーし、これで本物の黄金のリンゴを作れるぞ!」

 どれだけ品種改良をしても、神話の黄金のリンゴを再現する事は出来ない。しかし、この人体に害がないというスプレーを使うならば、リアルでなおかつ食べられる黄金のリンゴが作れるのだ。

 真一は家の外で作業をした。家の中だと塗料が周りに付いて汚れるので、屋外の方が良いのだ。まずは、サッと薄く吹きかけて乾かしてから様子を見る。ムラにならないように均等に吹き付け、乾かしての作業を繰り返す。

「よーし、完成だ!」

 彼は、出来上がった黄金のリンゴを手にして上機嫌だった。これの写真を撮って、ブログに載せるのだ。

「そうだ、仕上げのフレーズがあるぞ」、真一は問題のリンゴにこう書いてみた。


「最も美しい女神に捧ぐ」


「よーし、これで完璧!」、上機嫌の彼は、写真を撮る前にトイレに行った。そんな彼は、肝心な事を忘れていた。この黄金のリンゴは、あのトロイ戦争の発端となった重大アイテムだったのだ。

 そして、神々が人間たちにトロイ戦争を起こさせたのは、人間社会の人口爆発問題を解決するためだった。

 真一がトイレから戻ってきた時、黄金のリンゴは消えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る