なかったことに【イタリア】
ナポリに住むSさんは郊外にある一軒家を買った。古いけれど綺麗に手入れされていて、部屋数も多かった。当初はそこをシェアハウスとして他の人に部屋を貸すつもりだったのだが田舎だったせいか人が集まらず、結局Sさんはそこに一人で住んでいた。
違和感は、住み始めた時からすでにあった。
屋根裏からのしのしと誰かが歩いているような物音が聞こえたり、ドアがひとりでに開いたりといったことが頻発していた。
中でもSさんが一番恐怖を感じたのが電気だったという。屋根裏の電気だけが、消したはずなのにいつの間にかついている。ある日の晩、Sさんは寝る前に屋根裏へ行き、確かに電気が消えていることを確認し、電気のスイッチに「電気は消した!」と大きく書いた付箋を貼り付けた。
朝起きると、いつものように電気がついていた。昨夜貼った付箋はそのままで、どうやら"犯人"はスイッチに触れることなく電気をつけたようだった。
そこでSさんは早速、電気の修理を依頼した。
「配線とか何かそんなものの不具合だと判明して安心したんです」
生身の人間がいつの間にか家に入り込んで生活しているかもしれない――実のところ、Sさんが一番恐れていたのはこれだった。だからスイッチが触られていなかったことに内心ほっとしていた。
ところが、修理に来た人がこんなことを言う。
「あぁ、ここだったんですか。何年か前に来たことがありますよ。一人暮らしのおばあさんでしたっけ。屋根裏に置いてある食べ物が齧られて以来ネズミが大嫌いで……」
前の住人は確かに、一人暮らしのおばあさんだったと聞いている。
おばあさんは屋根裏を食料庫として使っていたのだが、いつの間にかネズミが住み着いていたそうだ。米やパスタの袋が破られ中身を食べられていたため、ネズミ捕りの罠をしかけたり薬品をまいたりした。ある日、テレビ番組で「ネズミは明かりがついているところには出てこない」という話を聞いて以来、夜中になると屋根裏の電気をつけることにしたそうなのだが――
「足が悪かったからね、下の階にいても電気をつけたり消したりできるようにリモコンを付けてあげたんだ」
Sさんはそのリモコンをこの家で見たことがない。おばあさんが亡くなった時に家族がまとめて持って行ってしまったのだろう。
「ということは、犯人はそのおばあさんでしょ。それなら私がすることは1つだけ」
Sさんは家をリフォームすることにした。それだけで除霊できるのだそうだ。イタリア全土の事情は分からないが、少なくともナポリではそうなのだとSさんは言う。
Sさんは家の外壁の色を変え、内装も全て新しくした。それでなかったことにできたのだろうか。
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