二度目の一次変電所
こうして二人は車を乗り継いで電線を遡る旅に出発しました。逆方向への車に乗ったりすることはそれから何度もありました。休んで眠っている間に車がUターンして、また同じ場所に戻ってしまったり、一人しか飛び移らないうちにその車が出発して慌てたりと、平穏無事な旅ではなかったのですが、それでも思ったほど日数はかからず旅は進んでいきました。
今、二人は広い野原を突っ切って走る大きな車の屋根の上にいました。道路からやや離れた場所に鉄塔が見えます。雷太郎君は空を横切る電線を懐かしそうに眺めていました。
「この調子だと結構早く着けそうだな、太郎」
電太君は寝転んだまま輝くお日様を見上げています。今日もよい天気です。白い雲も浮かんでいます。
「そうだね。なんだか懐かしい気分だよ」
雷太郎君は電線へ入り込んだ時の自分を思い出していました。こうして電線を遡る旅に出るなんてあの時は考えもしませんでした。ほんの数日前には自分もあの中を流れていたのかと思うと、何だか不思議な気持ちになるのでした。
「おい、太郎。何か見えてきたぜ」
遠くの方に施設が見えてきました。その施設に向かって空を横切る電線が全て集まっています。二つの角をはやした箱もたくさんあります。
「変電所だ!」
雷太郎君は叫びました。すでに二つの変電所を通り過ごしてきましたから、これは一次変電所のはずです。
「ほほう。だったらあれが最後の変電所か。いよいよ目的地に近づいて来たってわけだな」
電太君はぽきぽきと指を鳴らしました。雷太郎君も少し胸がどきどきしてきました。車は変電所に向かってどんどん近づいて行きます。変電所までは一本道です。
「おいおい、どうやらこの車は変電所に用があるみたいだぜ」
電太君の言うとおりでした。車は変電所に着くとそのまま門をくぐって中へ入りました。少し行くと駐車場があり、数台の車がそこにとまっています。この車もそこにとまると、ドアが開いて乗っていた人間が降りて行きました。二人の目の前には角が二つはえた箱もあります。電太君が起き上がって言いました。
「さてどうする、太郎。このまま動き出すのを待つか」
雷太郎君はその箱を見ているうちに、無性にベータ族に会いたくなってきました。きっとここではみんな必死の形相で、いい点が付くようにと祈っているはずです。それがどんなに無意味なことかも知らずに。雷太郎君の心の中に怒りとも哀れみとも言えぬものが込み上げてきました。
「それとも別の車を探して移るか。オレはどっちでも構わないぜ」
「電太君、ボクちょっと中に入って来るよ。君は好きにしていいから、どこかでちょっと待っていて」
雷太郎君は車から飛び出すと、箱の前にある接点へ飛びつきました。もう空中を飛ぶのは慣れたものです。
「お、おい、どうしたっていうんだ、太郎、おい!」
雷太郎君はその接点の繋ぎ目から電線の中に入って行きました。電太君はあっけにとられた顔をして、雷太郎君が電線に入って行くのを見ていました。が、また屋根の上でごろりと横になりました。
「まったく、太郎のヤツ、無駄なことを。でもまあいいか。車もすぐには動き出さねえだろ」
雷太郎君が何をしに行ったのか、電太君は薄々気づいていました。ここは放っておくのが一番だ、そう判断したのです。
箱の前にたどり着いた雷太郎君は周囲を見回しました。相変わらずたくさんのベータ族がいます。みんな一列に並んで箱に入る順番を待っているのです。
「同じだ。あの時と全然変わっていない」
この一次変電所を出た後で三郎君と出会ったのです。もし三郎君と友達にならなかったら今の雷太郎君もないはずです。雷太郎君の頭の中に三郎君の記憶がよみがえってきました。そして、それが雷太郎君に勇気を奮い起こさせてくれました。雷太郎君は覚悟を決めて箱の入口の前に立ちました。
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