奇談その四十一 廃屋探訪

 小学校高学年当時、近所に空き家があった。出ると言われている洋館だ。

「探検しようぜ」

 空き家の中を探るのが当時の僕達の一番の遊びで、女子達に対して自分が大人なのだというアピールの場でもあった。同級生の莉緒は男子一番人気の子で、その莉緒が一緒に行きたいと言ったので参加希望者は激増した。だが、空き家探検は大人達の目を盗んで行わなければならない。空き家とは言え、勝手に入ると怒られるから、近所の空き地で花火をすると嘘を吐き、空き家まで行けた者だけが参加できるのだ。

 ところが、莉緒は両親が夜の外出を禁止していて参加できなかった。男子はがっかりしたが、尻込みする事はできない。

 二階の部屋の窓から顔を出して、外で待っている者に手を振る。それが確認されれば、ゴールした事が認められる。さすがに一人で行くのは誰もがためらったので、二人一組で行く事になった。ちょうど人数が、男五人、女六人。じゃんけんで勝った男子が六人目の女子ともう一度探検する事になった。

 まず最初に行く事になったのはクラスで一番大きい大津将太と一番小さい小平真菜だった。

「行くぞ!」

 将太は中へ入って行った。

 しばらくして二階の窓が開き、将太が手を振ってみせた。

「将太君、いつの間に行っちゃったの?」

 真菜が言った。

「小平、どうしてここにいるんだよ?」

 その場が騒然となった。何故なら、将太は確かに真菜と手をつないで入って行ったからだ。皆、大声で将太を呼んだ。しかし、将太はいつまでたっても出てこなかった。僕達は互いに顔を見合わせて、急いで交番へ走った。おまわりさんが探してくれたが、洋館のどこにも将太はいなかった。念のため、将太の家に連絡した。そこで更に驚く事があった。将太はずっと家にいたのだ。

「真菜ちゃんがいないよ!」

 女子達が泣き出して言った。今度は真菜がいなくなっていた。


 不思議な事に真菜がいなくなった事は全く騒がれず、何事もなかったかのように忘れ去られた。僕はそれ以来その洋館には近づかなかったのだが、三十年たった今、偶然通りかかってしまった。

「え?」

 その洋館の朽ちかけた表札には、ローマ字で「KODAIRA」と記されていた。

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