第4話 ヒーローもヒロインも遅れてやってくる
近藤を助ける、とは言ったが何も武力を行使する必要はない。あくまでも天道渡らを近藤から遠ざければいいのだ。実は天道渡とは昔からの知り合いだ(友達というわけではないが)。俺のケンカの強さは奴も重々承知だ。少し脅しをかけるだけで奴らが撤退する可能性はある。
俺は思い切りドアを開けて教室内に入り力の限り叫んだ。
「おいてめーら!ずいぶんと俺の舎弟をかわいがってくれたな!!覚悟はできてんだろーな!?」
「お前は、石川なのか?」
「おーう、久しぶりだな天道!俺に何度もぶん殴られてんのにまだ足りないらしいな!次は手足が動かなくなるまで痛めつけてやろうか!?」
「お前はさっきから何言ってんだ?俺は守君に貸した金を返してもらってるだけだよ」
「こいつの顔みればわかるよ。お前らがカツアゲしてることは!」
「そいつはいいがかりだよ~。何も証拠はないだろ?」
「証拠?そんなもん、お前ら殴り倒して無理やり吐かせてやる!!」
流石に威嚇は効いているらしい。奴らが後ずさりしているのが見える。あとは近藤をこちらに誘導できれば・・・。
「ふん、こっちだって引くわけにはいかないんだよ!渡さんやっちゃいましょう!」
「そうだよ向こうは一人、俺たちならやれますよ!」
天道の取り巻きが余計なことを言いやがった。怖気づいていた天道が勢いを取り戻してこちらに向かってくる。
「よしお前ら、俺たちの強さを見せてやろうぜ!」
やはり戦うことになってしまったか。できればケンカはしたくなかったんだが。しかし啖呵切っちまったのはこちらだ。今更引くわけにもいかない。相手は5人、近藤を守りながら戦うとなると少し厳しいがやるしかない。俺は自分を鼓舞しながらこぶしを振り上げようとした・・・が。
そのこぶしが止められた。
目の前に東条が立っていて右手で俺のこぶしを掴んでいた。
東条は俺だけではなく天道の取り巻きの動きも左手で牽制していた。ケンカに加勢するわけではなくあくまでもケンカを止める気らしい。しかし奴らの闘志はまだ燃えている。奴らも一度抜いてしまった矛を簡単に納める気はない。
だが奴らは動こうとしなかった。その理由はすぐにわかった。周りの視線が俺たちに集まっていたからだ。そのほとんどが女子でまるで俺たちを敵と認識しているかのような形相をしていた。この状況でケンカをするということは東条の意思に反し東条にも暴力をふるうことになる。そうなれば東条に好意を寄せている女子から怒りを買うことは必至だ。奴らも女子の本気の憎悪には戦いを挑まなかったようだ。こうして戦いは宣戦布告だけで終結した。
俺は改めて思い知った。ケンカしてできる擦り傷よりも女子に嫌われてできる心の傷の方がよっぽど痛いってことを。
・・・つーかこの状況、傍から見たら俺メチャクチャかっこ悪くね?あれだけ啖呵切っておきながら結局東条に諍いを止められて。ろくにケンカもできない口だけのヤンキーだったな・・・。
東条と二人教室を出た後、俺たちは自分たちのクラスに戻る。あれだけの騒動を沈めたことで東条には羨望の眼差しが向けられる。もちろん俺には怯えるような視線が時折送られる。
「東条、ありがとな。お前のおかげで取っ組み合いにならずに済んだよ」
「お礼なんかいいよ。友達がピンチなんだから駆けつけるのは当然だろ?」
「それはありがたかったんだけど、今回の騒動はお前が黒幕なんじゃねーの?」
「えっ?」
「実はお前は最初から守がいじめられてることを知っていて、守を俺らのグループに引き込めば俺は必ずあいつを助けるために天道たちとケンカすると思ったんだろ?すべてはケンカを止めることでお前の株を上げるために」
「俺が女の子からの好かれるためにそんな面倒なことすると思う?」
「あっ、それもそうか。何か疲れてるみたいだな。嫉妬と被害妄想でお前を敵役だと錯覚してしまったよ。せっかく助けてくれたのににそんな疑いかけるなんて。ごめんな」
「まあ、守と友達になりたかったのは本当だけどね。面白い奴だし」
「あいつはもしかしたら俺に助けを求めて舎弟になろうとしたんじゃないかと思ったんだ。俺がそばにいれば自分がいじめられることはなくなるんじゃないかって。
だけどこんな結果じゃ俺じゃなくてもよかったかもな」
俺は自嘲気味に笑いながら東条に問いかける。
「でも、智樹は助けに行った。守にとっても助けてほしいってのは言い出し難いことだったはずで、そのために舎弟になったなんてとても言えない。罪悪感や後ろめたい気持ちがあったかもしれない。けど、お前は守に言われる前に、言われなくても助けたいと思ったんだろ?それって結構勇気が必要だと思うし、守もホッとしてるるんじゃないか?お前はあいつを後ろめたさから救ったんだよ」
「そっか・・・。俺は誇ってもいいんだよな」
その日の放課後俺と天道、その取り巻きは生活指導室に呼ばれてこっぴどく叱られた。特に俺はそれなりに成績もよくまじめな生徒という評価だったので心底教師を落胆させた。守のクラスメイト(おそらく東条のファン)の密告により天道たちが守にカツアゲしていることが教師に告げられた。証拠は結局でなかったがそのような噂がでたのと今回の騒動も含めて厳重注意という形で話は沈着した。
説教が終わり帰ろうとすると、玄関で守と東条が俺を待っていた。
「すみません。僕のせいで兄貴が怒られたようなもんですよね」
「気にするな。あれは俺が勝手にやったことだ。あいつらがムカついたから一発殴ってやりたかったんだが、それを東条に邪魔されただけだ」
「でもわかってるんでしょ?僕が兄貴の舎弟になったのは、」
「だから最初から言ってんだろ?俺はお前の兄貴なんかじゃない。お前の友達だ。
友達がピンチだったら、助けるのは当たり前だろ?」
「ありがとう、ございます。でも本当に僕なんかが友達でいいんですか?」
「あのさ・・・、お前もう少し自信持てよ。お前だったら友達になりたいと思う奴はたくさんいると思うぞ。すくなくても俺はお前と一緒にいて楽しいと思ったよ。お前がもっと堂々としてれば、きっといじめられることもない。こんだけ人をおちょくってくるウザい奴そうそういないしな。・・・天道たちだってもしかしたらお前の友達になってくれるかもしれないよ?なんかあいつらと守ってちょっとだけノリが似てるし・・・。まあ、とにかくお前は」
そこで東条が急に笑い出した。
「何でここで笑うんだよ?俺今ちょっといいこと言ってただろ」
「だってお前・・・、長い鼻毛生えてんだもん」
「えっ、まさか・・・うわーホントだ!」
今度は守と二人して俺を指さして笑いやがった。
「守までわらってんじゃねぇよ!」
「鼻毛長いくせに話もなげーよな。どっちもカットすりゃいいのに」
「俺の話って鼻毛くらいどうでもよかったのかよ!?」
「ああもう、せっかくの見せ場が台無しですよ。責任とってもらえます?
鼻毛も話もなげーひと」
「お前のために見せ場作ったのにその言いぐさは何なんだよ!!」
「おいハナゲー」
「なんだそのネーミング!?鼻毛も話もなげーひとの略か?」
「「正解!」」
「お前ら!!人がまじめに話してるのによぉ!!!」
守はいつものように笑っていた。ついさっきまで金を強請られてた奴が大したもんだ。こんな笑顔が見れるなら誰かを助けるのも悪くないと思えた。
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