第191話お母さん! マグナガルとの再会
「.......これは一体?」
『あなたの肉体より魂を強制的に排除しました』
頭の中で女の声が響いた。
テレパシーのような力?
いや、それよりもこの声どこかで聞いたような気がする。
「お前は誰だ?」
『はい。私は霧妻博士が作ったエンデピオプログラムtype-01マグナガルでございます』
「マグナガル?」
なんだこいつ。
人工知能みたいなものか?
マグナガルは外国のニュースキャスターのような感情のこもっていない言葉で淡々と話す。
『あなたとは一度、ユスフィアで接触しております。厳密にはあなたの情報を集めた集合体とですが』
「はい?」
会った?
俺があの世界で会った人間や種族は限られている。
こんな機械っぽい喋り方のやつに会った覚えがないぞ。
困惑していると、『あぁ。では』と目の前に光の粒が集まり、3Dプリンターでフィギュアを生成するように外郭が形成されていき、金髪で巨乳のお姉さんが現れた。
「久しぶりだな。花島」
黒マントに木の杖を持ったお姉さんは微笑を浮かべながら俺を見る。
「......いや、誰?」
「あ? お前、ミーレとレミーから救ってやった恩人を忘れたのかい?」
忘れたというレベルでは収まらないほどに全く記憶にない。
異世界で色んな美人に会ったからこのお姉さんの事を上書き消去してしまったのか?
「すまん。思い出せん」
「......まぁ、データが破損する事もある。もしかしたら、こちらの世界に戻ってくる際に記憶が一部破損した可能性もあるか」
マグナガルは顎に手を当て、一人で納得してしまった。
それにしても、オッパイがデカイ人工知能だな。
霧妻って奴、意外に巨乳好きなんだなぁ。
と真下にいる白衣のオッサンに少しだけ親近感が湧いた。
「データの集合体と言ったな? 異世界に行くにはデータ化する必要があるのか?」
「人間の目や脳はユスフィアを感知出来ないように元々プログラムされていた。であるなら、肉体を捨てるしかない。霧妻博士は人間を情報化する為に実験をし、情報化に最適なものに辿り着いた。それが”魂”と呼ばれる元素の塊だったってわけ」
「元々プログラム? まるで、人間が何者かに作られたみたいな言い方だな」
マグナガルは目を閉じ、コクリと首を縦に振り。
「人間は超古代文明の最期の遺品。我々がロボットやAIを作るように、ある程度の知能や文明を築いた者は自分達に模倣したものを作りたがる」
「証拠は? 何かあるのか?」
「ない。だが、霧妻博士は仮定を立て、それを証明してきた。霧妻博士は仮定したもの全てを事実にする力を持っている」
マグナガルは真剣な目で霧妻博士の事を雄弁に語る。
だが、マグナガルにとって霧妻博士は生みの親であり、自身を誇張して発言するようにプログラムされている可能性もある。
全てに耳を傾けてはいけない。
と心を諭した。
「色々と聞きたい事はあるが、どうして俺はユスフィアに行かされたんだ? 死んで魂が抜けたから? 死んだ瞬間の記憶無いんだけど」
「魂を抜く=死ではない。花島の言い方だとユスフィアが天国や地獄のような場所になってしまう。ユスフィアはあくまで別世界であり、死後の世界ではない」
どういう事?
こちらの世界に戻ってから分からない事が多過ぎ。
全てに質問していたらとんでもない時間が掛かる。
ここは質問せずに、納得しとこう。
「花島。君はユスフィアに行くはずではなかった」
ん?
「2016年8月11日9:45。君は自宅近くの坂の上を自転車で走っていたのでは?」
「え? あぁ」
そうだ。
俺は外回りの途中、坂を下っている時に突然、意識を失い、眼が覚めるとホワイトシーフ王国近くの雪原に降り立ったのだ。
しかし、それをこいつが何故知っている?
「魂をユスフィアに送り込む際、魂を一度、元素を分離させる必要がある。元素に戻すためには本来あるはずのない地球とユスフィア間に疑似的な道を作り、魂をそこに流せば時間を掛けて分離されて行くのだが......」
「ちょ、待て待て! 俺は科学者じゃないんだ! もっと分かり易く教えてくれ!」
マグナガルに「え? こいつ、これぐらいの事も分からないのか?」と俺の事を蔑んだ目で見られる可能性もあったが、話について行けないのは更に困る。
マグナガルに話のレベルを下げるように要求すると、マグナガルは無表情で「承知致した」と答え、話を続けた。
「要するに、ワープホールのようなものを作れば人をユスフィアに送る事が出来るということだ」
「そうか。そのレベルなら理解出来るわ」
っうか、初めから元素とか、道とか分かりにくい表現使わずにそれでいいんだよ。
SF好きの奴は本当、こういうまどろっこしい言い回しとか、やり取り好きだよな。
ん?
でも、マグナガルの話を聞くに、ユスフィアに行くにはワープホールを通らなきゃいけないんだよな?
俺、そんなところ、通った覚えないぞ。
「我々は2016年8月11日9:45。人類を救うために何名かのクルーをユスフィアに送り込んだ。しかし、それと同時刻に予期せぬことが起った」
「予期せぬ事態?」
「一つしか生み出していないワープホールが世界中に無数に出現した。ワープホールは普通の人間には見えないし、魂よりも大きな物体が通り抜けられないので問題はないのだけれど、何故かワープホールを普通の人間が通り抜けてしまったのだ」
「......いや、それって」
背中に変な汗を掻いた直後、マグナガルは俺を指さし。
「花島君。あなたはただただ偶然にユスフィアに飛ばされたのよ」
「.......マジで?」
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