第135話お母さん! 魔法少女VSゴーレム幼女

 __ヴァ二アル国・上空__


 雲一つない青空を土煙が覆い、群れをなす虫が外敵から攻撃を受けて辺りに散るように人が狭い通路を走り抜ける。

 錯乱状態となった国民達は我先にと安住の地を求め、人を押し退け、前に進む。


 物語に出て来るお姫様のような金髪に砂の粒子が付着しているが、ゴーレム幼女は気にもせずに巣を追われた蟻の群れを眺めるように足元を見下ろす。

 新雪のように穢れがなかった柔肌や新調されたドレスのようにきめ細かな絹製の服の所々に泥や血が付着していても今の彼女は気にも止めない。


「___油断大敵!」


 ゴーレム幼女の背後に転移したミーレは無防備な背中に狙いを絞り、拳ほどの大きさの火球を便所の棒の先端部分から射出。


「___イキャアアアアア!!!」


 1000℃の熱の塊はゴーレム幼女の背中に命中し、黒煙を上げながら白い肌と服を焼き、次第に肉が焼かれる臭いが周囲を漂う。


「肉♪ 肉♪ 魔女の丸焼きってのも悪くないかもねー」


 赤髪の魔法少女は赤々とした果実のような潤いに満ちた唇を一舐めし、肉という単語の並びにリズムを付ける。


「___イキャアアアアア!!!」


「あれ? あんた、自己再生なんて能力あったっけ?」


 赤黒く焼き爛れたゴーレム幼女の肌はみるみるうちに再生し、10秒も立たずに元に戻る。

 ミーレと敵と認識したゴーレム幼女は雄叫びを上げ、ミサイルのように標的に向かって突進。


「アハハ! 前に進むだけじゃ当たらない___よっ!?」


 前から向かってくるゴーレム幼女を避ける為にミーレは闘牛士のようにヒラリと上にかわすが横から突然現れた岩石の龍に吹き飛ばされ、100m下まで落下。

 土煙を上げ、周囲に岩石が飛び散る中、ゴーレム幼女はとどめを刺す目的で落下したミーレと同じ軌道を辿った。



 ■ ■ ■



『シルフ! ホワイト!』


 丘を下り、町に戻ると目をそむけたくなる惨状が広がっていた。

 倒れた家の下敷きとなり、身動きがとれなくなる者、頭から血を流し人形のように動かない者、両親が見つからずに泣きながら瓦礫の山を歩く幼い兄弟。

 助けを乞う者を横目に俺と才蔵と天音はシルフと別れた宿屋に向かって足を回していた。


「一体何が起こっているのだ!?」


 長年敵からの襲撃を受けて来なかった平和ボケした国の住民である才蔵は取り乱す。


「うるせぇ! 俺にだって分かるかよ!」


 この惨劇の一旦にゴーレム幼女が関係している事は明白だった。

 遠目で見ても様子がおかしいのは判断が付く。

 しかし、それに至る過程も今現在、彼女に何が起きているのか説明するには情報が全くもって足りない。

 シルフやホワイトに先程からテレパシーの力を使って呼びかけてはいるが返答がなく、不安に駆られる。


 ____ドゴン!!!


「なんだ!?」


 上空から隕石のようなスピードで何かが落下し、砂の大地を揺らす。

 噴煙が舞った位置を確認すると今、俺達がいる場所からはそう遠くない。

 良く見えなかったが上空にいたゴーレム幼女の可能性も考えられる。


「才蔵。天音。先に行っててくれ... ...」


「花島!? いけない! 危険だ!」

「そうだ! 行くなら俺も一緒に行くぞ!」


 才蔵や天音は俺の腕を掴み、噴煙の先に行く事を止めようとする。

 先に行く事は細胞レベルで危険だと伝えており、三人はベタッとした嫌な汗を同時に掻いた。


「も、もしかしたら... ...。ゴーレム幼女がいるかもしれない... ...。んだ... ...」


 恐怖をかみ砕き、俺は強固なる意思を二人に向ける。

 目が血走っていたのか、二人はサッと視線を背け。


「わ、分かった。ここで別れよう。花島はあの土煙の元へ、天音はパス様の後を追ってくれ、俺はシルフとホワイトを探して花島に合流する」


 才蔵の作戦に異議を唱える者はいなかった。


「じゃ、じゃあ! 花島! 無茶しないでよ!」


 言葉を残し、天音は辛うじて立っている円錐状の塔に向かう。


「お、俺も行かないと... ...」


 足が重い。

 まるで、足に流れる血が鉄に変わってしまったように温かさを感じない。

 口の中にあった水分は一気に無くなり、喉が張り付き、息苦しさと不快感が増してきた。


 ___怖い。


 久しぶりにこの感覚を味わった気がする。

 確か、前は大丈夫オジサンによって救われた。

 でも、もう、大丈夫オジサンは俺の前に姿を現してはくれない。

 寄りかかる物は俺には何もない。


「は、花島... ...。お前... ...」


「__うおおおおっしゃああ!!!」


 心配する才蔵を横目に俺は自身の両頬を力いっぱい叩く。

 何事も俺は人任せに生きてきた。

 前にいた世界でもこの世界でもそれは変わっていない。

 だけど、この世界に来てからは少しずつだけど変わろうとしている。

 怖いものや面倒な事に蓋をせずに自分のペースで向き合ってきたじゃないか。


 才蔵や天音、ヴァ二アルの兄はヴァ二アルを”家族”だと言った。

 血も種族の繋がりもない者でも心と心は繋がっている。

 ゴーレム幼女と過ごした時間は一年程しか経っていない。

 だけど、あいつは俺の中でかけがえのない存在となっている。

 そいつが今、危険な状態になっているんだ。

 ここで、前に踏み出せなければ俺は一生後悔するし、自分を変える事なんて出来ないだろう。


「待ってろ! 俺が今、行くぞ!!!」


 両足に繋がれた鋼鉄の鎖を振り払い、俺は雷電のように大地を駆けた。

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