第110話お母さん! 第一回戦は飯!

 トンネルのように薄暗い通路の先に光が見え、そこを抜けると円形状の闘技場が広がる。

 上を見上げるとこの国の住人だろうか?

 声援を上げてこちらに手を振る者や飲食をする者がおり、まるで、ショーを楽しんでいるようだった。


「さあ! 皆様! お待たせいたしました! 第23回王位継承戦の開幕です!」


 闘技場中央で司会業っぽいことをしている人物はマイクを使わずに、地声だけで会場内にアナウンスし、声の大きさに驚いていると。


「あいつは人に見えるが獣人よ。超音波で生き物に声を伝える事が出来る」と天音が教えてくれた。


 ほう。

 そういう能力か。

 エイデンの硬化能力は戦闘向きだが、あいつは戦闘向きとは言えないからエンターテインメントのような仕事をしているのかな?


「しかし、見世物みたいで気分悪いわね」


 シルフは腕を組んで不機嫌そうだ。

 まあ、気持ちは分かるっちゃ分かるがな。


 そういえば、こういう時にシルフと一緒に文句を言うロリゴーレムが今回は何故か大人しい。

 顔を覗き込むと額に汗を掻いて、青い顔を浮かべていた。


「どうした? そんなにあからさまに体調悪そうにするなよ」


 俺が声を掛けるとゴーレム幼女は腹を押さえながら。


「... ...腹いてえみそ」


「こんな大事な時に... ...。変な物つまみ食いしたか?」


「分からんみそ。あの婆に会った時から変みそ」


 ロストの村は衛生管理がまるで出来ていない。

 変な匂いもするし、謎の病原体があっても不思議ではない環境。


「しょうがないな」


 俺は腰を下げ、ゴーレム幼女に背中を向ける。


「おぶってやるから乗れよ。少しは楽になるだろ?」


 ゴーレム幼女はウチの大切な戦力。

 恐らく、大将戦で登場になるのでそこまでは温存しておきたい。

 一回戦目は相手の実力を測る上でも才蔵か天音を捨て駒で使うとしよう。


「... ...そこまでして私の体に触れたいかみそ?」


「ちょっと、善意に対しての第一声間違えないでくれる?」


「... ...くっ! ... ...礼は言わんみそ」


 こいつとはこの異世界で一番長い付き合いになってしまった。

 基本的に衝突ばかりだが、お互いが気に掛けているのは違いない。


「おー。軽い軽い」


 強い魔力を持つゴーレム幼女も背負うとそこら辺の小学生と変わらない。

 腕や足は飴細工のようで今にも折れてしまいそうだ。


「ここで王位継承戦についてのルール説明をしておきましょう!」


 おー。

 そういえば、ルールも何も知らなかったからこれは有難い。


「ルールは簡単! 五本勝負中三回勝利すればその時点でそのチームの代表者に王位継承権が授与されます! 試合ごとにルールは変更されるのでアナウンスをその都度お聞きください! また、全試合共通事項として武器や能力や魔法の使用は問題ありません! ただ、となります!」


 ん?

 直接的な攻撃が禁止?

 それでどうやって相手を倒すんだ?


 俺がアタフタしているとコロッセオの端にある鉄格子が音を立ててせり上がる。

 こういうのは猛獣が登場する演出と相場は決まっているが、恐ろしい獣が出ることはなく、メイドっぽい服を着た女性二人が炊き立ての米を持って司会の隣にやってきた。


 久しぶりに見る米に俺は涎が止まらない。

 しかし、どうしてバトルの前に米?


「さあ! それでは第一回戦を初める前にルールの説明だ! ルールは簡単! 制限時間40分以内に米を多く食べた挑戦者の勝ちだ!」


「なにー!?」


 まさかの大食い対決... ...。

 王位継承戦ってもっと血生臭いものじゃないの??


「ああ。言ってなかったっけ? 王位継承戦は格闘系のバトルはないよ」


 ヴァ二アルや才蔵達はそれを知っていたようで特に驚きもしない。


「ウチの子達、格闘系が得意なんですけど... ...」


 巨人族のホワイトは言わずもがな体が大きいし、エルフ族のシルフも魔法が使えて、ゴーレム族かつ魔女のゴーレム幼女も武闘派だ。

 王位継承戦というから血が流れるような闘いで魔法が使えるこちら側が有利だと思っていたのだけれど... ...。


「うーん。前まで格闘系もあったんだけど、血が流れるのは如何なものか。と議論になってね。それで随分昔に撤廃されてさ」


「... ...そう」


 この国は平和ボケしているとヴァ二アルが言っていたがまさかその煽りがここまで来ているとは思わなかった... ...。

 この国は異世界のくせにTPOにはうるさいようだ。


 コロッセオの反対側にはハンヌ陣営がおり、王子であるハンヌ、鈴音、半袖丸、双子の魔女のミーレとレミーが集まっている。

 それともう一人。

 黒いマントを羽織った人物がいるがあれも出場者なのだろうか?


「はいはいはーい! 私出る!」


 食に貪欲なミーレは大きな乳房を上下に揺らしながら手を挙げる。

 すでに涎が口から溢れ出ており、試合に対する熱意は確かなものであった。


 昔、魔法少女宅に一週間泊まっていたが、ミーレの胃袋は宇宙規模でクマを一匹平らげたあとに「腹減ったなあ」と言ったのには衝撃を受けた。

 格闘系の戦いがないことで魔法少女達の参戦は恐れるに足りないと思えたが、この大食い対決では向こうの方が有利かと思えた。


「さあ! パス陣営も早く出場者を決めてください!」


 司会はこちら側を急かし、魔法少女は用意された椅子とテーブルに座り、すでに目の前に置かれた炊き立てご飯を頬張っている。

 勿論、試合開始前に食べた飯はカウントされない。

 あいつはバカなのだ。


「ミーレ! 何食ってんだい!」


「だってこれ、美味しいんだもん!」


 敵陣営も流石に呆れた様子だ。

 しかし、それでもミーレは強い。

 この大食い対決では右に出る者など... ...。


「ふん。ここは俺が出よう」


 頼もしい言葉と共に一歩前に足を出したのは忍者である才蔵。

 心なしか自信が顔からにじみ出ている。


「才蔵!? 大丈夫か!?」


「この戦いは才蔵の勝ちよ」


 天音は勝利を確信しているのか何だか出来る女風のオーラを醸し出す。


「え!? どうして!?」


「まあ、見ていれば分かることよ」


 確かに才蔵は身体も大きく、飯喰いのつらをしている。

 ___が、相手はあのミーレ。

 才蔵が大食いマスターだとしたら、ミーレはモンスターって所だ。


 そして、席についた才蔵は対戦相手であるミーレを見て。


「... ...素人の食べ方だな」


 とボソッと呟く。

 素人の食べ方??


「さあ! これで準備が出来た! では、王位継承戦第一回戦大食い対決の始まりだ!!!」


 会場内を包むホラ貝の合図と共に大食い対決が開始された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る