第99話お母さん! 忍者と飯

 ___ホワイトシーフ王国・王宮内___


 森が暗くなって来たので王宮に戻った。

 最初はニンニン言ってた忍者たちも「王宮に招待するからさ」の一言で俺の後をホイホイ付いて来て、多少、イラッとしたが口に出すほどではない。

 何せ、俺は今、国王補佐という役付きだ。

 ちょっとやそっとじゃイライラしない。


「おお! これは立派な王宮だ!」

「ええ。ヴァニアル様のご自宅と遜色ないですね!」

「ま、まぁ、こんなもんだろ」

「... ...腹減ったな」


 三者三様の感想が聞けたところで俺から提案。


「とりあえず、お前ら汚ねぇしクセェから風呂入って」


「き、汚いとは何だ!!」

「そうだぞ!貴様、周りが強いからといって自分も強い気になったつもりになるでないぞ!」


 ぐっ... ...!

 多勢に無勢とはこのことか、全然言い返せねぇ!

 俺が四人の扱いに困惑しているとこの城の主人がぶつくさ言いながら階段を降りて来る。


「ちょっと、花島。その汚い緑色のカエルみたいな奴ら何なの?」


「きたなっ!?」

「おい! 小娘! これは我ら武士の正装で... ...」


「汚いものは汚いでしょ? そんな汚い服もプライド直ぐに捨てなさい」


 極道の妻のような佇まいと睨みに黙ってしまう忍び。

 やっぱ、シルフってこえぇよなぁ... ...。

 と自身の主人の偉大さを再確認するのであった。


 ______ダイニング______


 30人が1度に食事が出来るほどの大きさがあるテーブルが部屋の中央に置かれ、頭上を見上げるとローマっぽいシャンデリアがわしゃわしゃしている。

 一応、忍者たちは客人ということでここの専属シェフも大分張り切ったようでフランス料理のフルコースのような料理が机の上に並べられていた。


「おー! これは凄い!」

「だ、ダメだ涎が... ...」


 忍者たちを強制的に風呂に入れ、城に置いてあった色とりどりのパジャマに着替えさせた。

 全身緑色の新キャラが四人も出て来て、名前が覚えられそうになかったので赤、青、黄、緑の服を着せたのは我ながらファインプレーだと思う。


 そして、シルフのネグリジェを借りたヴァニアルも食卓に現れ、みんなと一緒に食事を摂った。


 ◇ ◇ ◇


「美味しい... ...」

「あぁ、さっき見た映像のものが出て来たらどうしようかと思った」

「うん。うん」

「美味でござる」


 おい。

 最後のやつ、無理矢理に個性付けるの禁止だぞ。


 まぁ、出された料理を美味そうに食って貰えたのは何よりだ。

 シルフも「私の家のシェフが作ってるから当然ね」と言いながらどことなく嬉しそうだ。


「そういえば、自己紹介がまだだったね! 僕から紹介するよ!」


 ヴァニアルが矢継ぎ早に「このタイミングで?」というような微妙な時に自己紹介をし始めた。


「先ずはこの四人衆の中でリーダーの才蔵。国一番の忍者で忍術の達人さ! 因みに修行オタクだから恋人はいた事ないよ!」


 や、やめたげて!!!

 そういう自己紹介の仕方!!!

 ヴァニアルは悪気はないのだろうが聞いてるこっちがいたたまれない......。

 ってか、やっぱり忍者じゃん。


「モゴモゴ! モゴモゴ! 武士!」


 と国一番の忍者は口をモゴモゴしながら喋る。

 辛うじて武士であることは主張出来たが他のリカバリーは出来ずにヴァニアルは次に進んでしまった。


「で、紅一点の天音! 罠を作ることは僕の国で一番で男にも負けないんだ! でも、悪い男に騙されたり、貢いだりするから恋の罠にはハマりっぱなしだけどね!」


「ちょっ! パス様!」


 いや、そういうトンチ聞いたのはいいから。

 こいつ、貴族じゃなかったら相当嫌われてるだろうな......。


「で、伊達とトムは双子なんだ! でも、コンビプレーはド下手なんだー」


 双子でコンビプレー下手って!

 何でそんなやつら組ませてるんだよ!

 それに双子のくせに顔似てねぇし!

 双子だったら、どこかで種が混ざってますよ! お母さん!


 これにはシルフもスープを啜りながら横目で「似てないわね」とツッコミが入る。


 まあ、個性的な自己紹介はともかく... ...。

 ってか、こいつらイケメンと美女過ぎだろ!


 赤いパジャマを着ている才蔵ってやつは金髪で青い瞳で顔の堀が深くてアメリカの俳優みたいだ。

 どうみても童貞に見えん。

 上司からも部下からも好かれる有能な人材というような佇まいで、なんか、男のくせに良い香りもする。


 青いパジャマの女もクールビューティというか、切れ長の印象的な目で艶がある黒いロングヘア。

 肌の色も白くてハリがあってマシュマロみたい。

 スーツを着て、メガネを掛けたら仕事が出来そうなお姉さんって感じだ。

 この人もダメ男に騙されそうには見えないが... ...。


「で、お前らは何だ。ふざけてんのか」


「あん?」

「何が?」


「お前らだよ。双子って嘘だろ」


「いや、嘘じゃねぇし」

「双子だっつうの」


「いや、もう、人種が違うじゃん!」


「は?」

「え?」


 そう。

 黄色の伊達は日本人っぽい顔立ちをしているのだが、問題は緑色のパジャマを身に付けたトム。

 お前だ。


「トム。お前だけなんで狼みたいな顔しているんだ?」


 そう。

 他の三人は人間なのに、一人だけ狼のような、というか、完全に頭部が狼なのだ。

 これを疑問として捉えない訳がない。


「狼だと!?」

「パス様! 伏せて下さい!!!」


 俺の発言を耳にして、才蔵と天音の顔付きが一変し、ガタッと席を立つ。


 ん?

 何があった?

 そして、才蔵が手裏剣のようなものを仲間であるトムに投げつける。

 ってか、手裏剣使ってる時点でもう忍者を認めろよ... ...。


「ふん!」


 トムは背もたれ付きの椅子に座っているにも関わらず、少ない初期動作でバク宙を決めて難なく才蔵の手裏剣を避けるが。


「甘い!!! 天音!!!」


「______!? ちっ!」


 トムが手裏剣を避けることを察知していたのか天音がトムを斬りつけられる間合いまで一気に詰める。

 才蔵が手裏剣を投げてからトムが避けるまで僅か数秒足らずで俺は一歩も動けず、ただ、目で事の成り行きを追うことしか出来なかった。


「おおおお!!! 姿を現せ! バケモノが!!!」


 そう言うと天音は俺に振りかざした時のように小刀を今度は仲間であるトムに振りかざした。


「くっ! 硬化! 腹部!」


 天音の小刀が自身を貫こうとした直前、トムは何かを唱え、その直後、天音の小刀が火花を上げて弾かれる。

 しかし、一命を取り留めたものの内臓に衝撃を喰らったトムは片膝を付き、腹部を押さえている。

 よく見ると腹部は鉄のコーティングがされているようでシャンデリアの光を反射していた。


「... ...やはり、トムに化けたバケモノでしたか」

「ああ。こいつは。まさか、俺たちが騙されていたとは」


 ん?

 何を今更... ...。

 さっきからずっと同じ姿。

 狼だったじゃないか。


「おい! トムをどこにやった!?」


 トムの双子の兄弟である伊達は取り乱した様子。

 人狼は舌なめずりをし、一言。



 それを聞いた伊達は額に青筋を浮かべながら、手のひらを人狼に向け。


「殺す!!!」


 手のひらからは一陣の竜巻のようなものが生まれ、一直線に人狼へ向かった。


「遅い遅い」


 難なく避ける人狼は空中をひらりと舞いながら。


「これはあまりに分が悪い」


 と言い残し、王宮の窓を割って脱出したのだが... ...。


「ちょっと!!! 窓壊さないでよ!!!」


 と窓を壊されたシルフの逆鱗に触れ、空中にいたにも関わらず、シルフの魔法? 念動力? で捕まり御用となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る