第30話お母さん! エルフの王女と国を立て直す!

 _____ホワイトシーフ城 シルフの部屋______


 俺は現在、エルフの王女の部屋に一人でいる。

「ここで待ってなさい」と言われ、既に小一時間経っており、軽い放置プレイ。

 そういえば、女の子の部屋に入るのは何年ぶ_____あ、いや、そういえば、ゴーレム幼女も魔法少女と婆も女の子だった。

 野性味がオーバーフローしてるので、彼女達の性別をすっかり忘れていたよ。


 シルフの部屋は一見、綺麗な印象を受けるが、よく見るとただ物が少なく、片付いて見えるだけ。

 椅子とテーブルと割と大きなベッドがあるだけの簡素な空間。

 カーテンの隙間から零れる月明かりは照らす対象物が少なく、寂しそうだ。

 部屋というものを見ればその人の深層心理が窺えるが恐らく、シルフは根暗に違いない。


「... ...これはあいつの両親か?」


 入口を入ってすぐのベッドとは反対側に飾られている絵画に描かれているのは恐らくシルフの両親と幼き日のシルフ。

 絵画の中の三人は笑っていた。

 恐らく、この時代は何もかも上手くいっていたのだろう。

 完全に富裕層のヤラシイ笑顔をしている。

 ああ。やだやだ。

 これだから金持ち嫌い。


 ____ガチャ!


「ふうっ。お待たせ」


「お前! 人を待たせ... ...」


 一時間ぶりに登場したシルフはバスローブに身を包み、ほわほわと身体から湯気を出している。

 バスローブの隙間からは頬擦りをしたくなる程に美しい足が... ...。

 ワザとなのか、胸元が大きくはだけ、足か胸どちらを見ようか迷ってしまう。

 ああ。この時ほど、目が4つあればと思った事はない。

 だが、鼻の下を伸ばしているのがバレると少々、厄介。

 俺は強気な姿勢でシルフを指差し。


「残念だな! 王女様! 俺はそんな姿見たって興奮しないぞ!」


「ふーん。じゃあ、これだと興奮する?」


 発言がシルフの癇に触れたのか、シルフは俺に近づき、左手で俺の太ももを鳥の羽で擦るように触れ、右手で俺の顎に触れ、強引に自分を見ろと言わんばかりに目を合わせてきた。

 シルフの手は風呂上りで軽く火照っており、そのせいで俺の体温も上がってくるのが分かる。

 シルフの吐く息が感じれるくらい顔が近い!!!

 いかん! 

 このままではこいつのペースに持って行かれるぞ!


「______で、俺に話があるんだろ?」


 キリリとした顔でシルフを見やる。


「今、興奮してたでしょ?」


 シルフは薄ら笑いを浮かべる。

 確かに興奮していてトランス状態一歩手前だったが、ポーカーフェイスで嘘をついた。


「そんなガキみたいな体に興奮するか。大人舐めるなよ」


「酷い事言ってくれるわね。別に最後までしちゃっても良かったのに... ...」


 シルフは唇を舌で一回舐め、上目遣いで自身の豊満なバストを強調。


「すいません。興奮していました」


 最後まで。

 という、フレーズは男にとって禁断の果実そのもの。

 俺はアダムのように欲求を抑えられなかった。


「きもっ! 誰があんたみたいなゴリラ童貞とするかよ」


 シルフは一秒で回答。

 恐らく、俺がどう答えるかお見通しだったのだろう。

 男ってつくづく悲しい生き物だと身をもって体験した。


「まあ、でも、あたしのお願いを聞いてくれるなら別にいいかも... ...」


 シルフは自身の弾力のある唇を指で軽く触り再び、挑発してきた。

 おいおい、また、どうせ「きもっ」とか言うためのエサだろ??

 そんな手二度とかかるかよ!


「で、お願いって?」


 これは「男って、本当に単純」と言われる代表的なシーンである。

 シルフはベッドに座るように手をひらひらさせて誘導し、俺がチョコンと借りてきたネコのように座るとすぐに自身も隣に座ってきた。

 心なしか距離が近い!


「この国を建て直す協力をしていただけないかしら?」


 神妙な面持ちで俺の目を見る海のように深い蒼色の瞳。


「は? 俺が?」


 突然の事で受け身のような反応をしてしまった。


「そうよ。あなたにそう伝えているでしょ? バカなの?」


「... ...」


 お願いしてる立場にも関わらず、人をバカ呼ばわりする王女の良識とはいかがなものか。

 恐らく、シルフは人に初めてお願い事をしているのでは?

 恥かしいのか、悔しいのかどっちの感情かは分からんが、感情を押し殺そうと両手を強く握るのは止めた方がいい。

 対人関係が苦手な人に見えるぞ。


 ... ...まあ、言っている内容は分かる。

 この廃れた魅力のない国をどうにかしたい気持ちも伝わる。

 しかし、それを俺にお願いしてきたという過程そのものが謎で疑問なのだ。


「なんで、そのお願いを俺に?」


 考えるよりも質問。

 こういう、潔さって意外と大事。


「あなた、もしかして、別の世界から来たんじゃない?」


「いや、そうだけど... ...」

 

 それ、あなたと会った時に言いましたよね!?

 何を今更言ってるの!


「昔、あたしは異世界から来た人に助けてもらった経験があるの、それで、あなたもどこかその人に似てる気がして... ...。その! 服装とか! 雰囲気とか!」


「ふーん。そうねえ」


 まさか、俺のほかにこの世界に来ていたやつがいたとは驚きだ。

 それが事実であれば、その異世界に来ていたやつはどこにいるんだ?

 本人に直接、話を聞くことが出来れば、現実の世界に戻るヒントになるかもしれない。


「聞きたい事と言いたい事は色々とあるが、まず、聞きたい事を言うぞ、俺の前に別の世界に来たやつはどこにいるんだ?」


 質問をすると、シルフは目を背け。


「分からない。この国に入る前に途中ではぐれてしまったの」


「で、そいつの事は探さなかったのか? 手掛かりは何かないのか?」


 王女は首を横に振った。

 恐らく、こいつから有益な情報はもう出ないだろう。

 俺は溜息を吐くように「そうか」と一言。

 そして、二番目に言いたい事を続ける。


「で、次は言いたいことだ。お前は俺を別の世界から来た人間だとある程度、予想がついた状態でゴーレムの森に追放したって事だよな?」


 嫌味たらしく王女に言った。


「それは... ...。その... ...。ごめんなさい... ...」


 なんだこいつ。

 また、下手に出たらバカにする気か。

 ったく、調子が狂うぜ。

 まあ、謝罪なんてされても追放されたという事実は変わらない。

 謝罪の言葉よりも俺はこの世界から抜け出す情報が欲しい。


「まあ、知らないとは思うが俺が元の世界に戻る方法があれば教えてくれ」


「ええ。いいわよ」


「そうか、やっぱり知らないんだ... ...。あ?」


 何!? 聞き間違いか!? 

 もう一度、聞いてみた。


「え? 元の世界に戻る方法知ってるの?」


「知ってる」


「元の世界ってあれだよ。俺が来た世界だよ」


「そうよ」


「え... ...。知ってるんだ... ...」


 肉食獣が相手の喉元に飛びつくような勢いでシルフの肩を掴み、バスローブが少しはだけてしまう。


「教えてくれ! いや! 教えて下さい!!!」


「いたい! いたい! とりあえず、離しなさいよ!」


 興奮して力の加減を忘れており、シルフは苦痛に顔を歪ませる。

 それを見て、バッと肩から手を離す。


「いきなり、掴まないでよ! 気持ち悪い!」


「ごめん... ...。少女の肌を触りたくて... ...。流れで... ...」


「本音でてるわよ!」


「で、早く元の世界に戻る方法を教えてくれ」


「謝罪わ!? ... ...まあ、教えてあげても良いけど、この国をあたしと一緒に立て直してよ!」


 ... ...ふう。

 流石、王女様だけはある。

 この俺に交換条件として元の世界に戻る方法を提示して来たか... ...。

 まあ、俺が逆の立場でもそうしていただろうな。

 この女、あなどれん... ...。


「OK! この国を建て直す事に協力しよう」

 

 悩んでいてもラチがあかない。

 シルフが嘘を付いている可能性もあるが、まあ、どうせ、やる事もないし、ゲームでいえばこの手のイベントはクリアするべきポイントだ。


「ありがとう。まあ、色々あったけどこれからよろしく」


 王女は天使のような笑顔を俺に送る。

 これが営業スマイルでも別にいい。

 この笑顔だけでティッシュ10枚は消費しそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る