第5話お母さん! 早速のピンチです!

 扉が開く音=目の前のドアノブが捻られた音。

 と思い、身を強張らせたが、一向に家の中から何かが出てくる気配がない。

 化物のようなものが出てくる想像をしていたのだが... ...。

 杞憂に終わる事を少し残念に感じていると、突然、この世界にそぐわないような機械音が背後から聞こえ、咄嗟に振り返る。


 ういーん。


 変形ロボのようにゴーレムの頭が真っ二つに割れ、何やら滑稽なモーター音が辺りを包む。

 まさか... ...。

 これはただのロボでこれを運転する本物の怪物が!?


「止めて!!! 殺さないで!!!」


 ういーん。

 

 アホっぽい音が逆に俺の恐怖心を煽る。

 ジェイソンがチェンソーを持って襲ってくるよりも、オレンジ色の髪の毛を生やした殺人人形がハサミを持って襲ってくる方が3倍怖い理論だ。

 恐怖から俺は目を閉じる。

 ___が、身体は真っ二つにならず、五体満足。

 おかしい。

 目を開けるとゴーレムの顔から再び、ゴーレムの顔が出ている。


 このままマトリョーシカみたいになるのか? 

 と困惑した直後、再び、ゴーレムの顔は二つに割れ、この洞窟には不釣合いな艶のある金色の髪をなびかせる美しい幼女が現れた。


「よっと!」


 まるで、長年連れ添った愛馬から降りるように軽快に動作をこなす幼女。

 薄暗い洞窟の微弱な光に金色の髪はキラキラと反射し、白いワンピースのような服の脇から見える白い肌は赤ちゃんのように柔らかそうだった。

 

 幼女×金髪


 という最高の組み合わせを持つ天使の登場にロリコン属性という高貴なスキルを持っている方は絶好のブヒブヒタイムの瞬間だと思うが、平凡な俺には幼女スキルは未だに身についていないので単純に「ゴーレムから人間が出てきた!」とビックリ仰天するだけ。


「さーて! 家についたみそ!」


 ゴーレムからジャンプして降りた幼女は変な語尾を交えながら、乱雑に俺を引きづって家の中にいれようとする。

 下は岩なので滅茶苦茶痛い!

 おそらく出血している。


「痛い! 痛い! 引きづらないでください! お願いいいいい!!!!」


 相手が”幼女”でも”少女”でも関係ない。

 助かるのであれば俺は犬、猫にでもへりくだる事が出来る!

 と心の中で変なスイッチが入る。


「本当勘弁して下さい... ...。死んじゃいますよおお!!」


 ”生”への執着をこれでもかと見せる大人に少しは同情してもいいのだが、金髪の幼女からはその可憐な姿からは想像も出来ない残酷な言葉が返ってきた。


「死んでもいいみそ! お前はチャッキーの餌だみそ!」


 は!?

 餌!? 

 チャッキー!?!?


 理解が追いつかない状態にも関わらず、まるで”物”のようにぞんざいに扱われ、家の中に放り込まれる。


「ほら! チャッキー餌だみそ!」


「ぐへえ!」


 腹部が圧迫された事で昭和の漫画のようなリアクションを取ってしまった。


「いててて... ...」


 どうやら、ここはゴーレムの家の中。

 ピンクが基調になっている壁紙、ふかふかの白い絨毯。お姫様のような白いレースのカーテンが付いている大きなベッド。

 汚い言葉使いや男勝りな態度とは対照的な部屋という印象を受ける。

 見ようによってはラブホテルにも見えるがそれはどうでも良い事だ。


「うわああああ!!!」


 この世界に来て、一番の悲鳴を上げた。

 だって目の前に目の瞳孔が全開に開き、大きく口を開けたデカイ猫の顔があるんだから。


 この世界は替えの下着無しでは来てはいけない。

 現実世界に戻り、異世界放浪記なるものを書ける機会があれば、そのように記しておこう。

 実はもう、俺はすでに二回漏らしているからね。

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