分かれ道の先で 1/6
……。――どこだ、ここ……? 車……?
道路照明灯のオレンジ色の光がちらついて目が覚めた私は、その事に気付かれない様に、視線だけで自分の状況を把握しようとする。
分かる範囲では、私は全身を布の筒で覆われて、その上からベルトを巻く拘束衣で固められ、軽バンのフルフラットにした荷台で転がされていた。
着ていたライダースーツ型の戦闘服は、ファスナーを
だが幸いにして、どこもいじられた感じはない。
腰のホルスターの2丁は取られているが、ボディアーマーの背中の隠しケースは、重さがそのままで、どうやら相棒の9㎜は無事らしい。
丸腰でない事はまだマシだが、状況的にはかなりマズい。
まず、後ろに回された腕は、肘まで覆う革製の拘束具のせいで指先すら動かせない。
仮にこれがなくても、いつもの様に縄抜けやツールを使ったりも、どっちにしろ出来ない。
誰が運転してるのかは背中側だから見えないが、仮に女だったら変な気を起こすのにはあまり期待出来ないし、その場合は完全に手詰まりだ。
まあとにかく、下手に動かずに機を待つか、
で、なんでまたこんな事になってるかというと、毎度の事ながら情けないが、どっかのバカに勘違いされてとっ捕まったからだ。
「へへ、お前が例の女か」
「は?」
今日はオフで、目的地無しのソロツーリングをしていたんだが、その休憩中に4人のバカ共が鼻の下伸ばして絡んできた。
「おいおい、とぼけようってか?」
「お前みたいな上玉がそうそういる訳ねえだろ」
「大人しく言うこと聞けば、悪いようにはしねえか――ぶぶおっ!?」
一番にやついていた男が、そう言いながら乳めがけて手を伸ばしてきたので、鼻っ面に一発ストレートを入れてやった。
「ほへぇ……」
同業者相手には
「このアマッ!」
「あ?」
「ぎゃああああ! いでででで!」
続いて芸も何も無く殴りかかってきた、頭にヘアバンド巻いた爆発頭の腕を取って、投げ飛ばしながら腕を捻って肩と肘の関節を外した。
「ふ、ふざけてんじゃねえぞ!」
「そりゃこっちの
キレすぎてどもり気味のビール腹が、羽交い締めにしてこようとしたので、さっとしゃがんで避け、そいつのキンタマに肘鉄を入れてやった。
「――ッ! あぼ……」
ぐりん、と白目を
「ひっ、ひぇえ……」
最後の1人は手を下すまでもなく、
相手に何かしらの心得があれば私は雑魚だが、その辺チンピラ程度なら素手でもどうとでもなる。
「はーあ……。やっぱ峠行きゃよかった……」
その下品の見本市みたいなクソ共を問題にせず、軽くぶちのめしたまでは良かったんだが、
今からでもいく――。
「ぁ……ッ!?」
多分そいつらの用心棒役辺りに、後ろから不意打ちで首を
失神寸前で地面に落とされてへたり込んだところで、こめかみに蹴りを入れられて、私はそのまま気を失った。
で、このザマ、というわけだ。
全く、なんでコーヒー飲んでるだけでこうなるんだ……。
一応、お
「やあ、お目覚めかい? お嬢さん」
自分の猛烈な悪運を改めて忌々しく思っていると、いきなり運転手がやたらフランクに話しかけてきた。
どこかで見られてるのか、とギョッとしたが、どう探しても私の顔を見る様な物は一切無い。
まあ、多分勘で言ってるか鎌かけの類い、と考えるのが妥当だろう。
ともかく、幸いな事に声が完全にオッサンで、自力脱出の可能性は出てきた。
「お嬢さん呼ばわりは不満かな? 『死の
と思ったら、完全にこっち側の人間だ、という事が分かって、また限りなく薄くなってしまった。
「まさかあの命中率ほぼ100%の伝説のスナイパーが女の子だったとは驚きだ」
私に人質としての価値がそれなりにあるぐらいは、二つ名を知ってるなら分かっているはずだ。
「ああいや、別に性別でどうのこうの、なんていう偏狭な事を言うつもりは無いよ」
って事は、金目当てが思いつくぐらいの能があって、雑魚とあの肉ダルマの用心棒を仕留めるぐらいの腕があるという事だ。
「いやね、てっきり俺はもう少しベテランの男かと思っててな」
まあこっち側の人間なら、人質は丁寧に扱うのが暗黙の了解だ。気晴らしに一発、と考える
「そのトレードマークの白髪のメッシュでやっと分かったよ」
……。
「でも俺としては、前の二つ名の方が叙情的というか――」
「うっせえ! テメエは昼前のテレビショッピングか!」
いい加減、ベラベラ
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