「月」 月世界 ~Farn World~

「ねえ、月はどんなところなの?」

 幼子の問いかけに、異形の魔族はついと目を細めた。

「空は何色? どんな町があるの?」

 素朴な質問に、しかし彼は首を横に振る。

『月には魔族が暮らしていて、彼らは呼びかけに応じて地上に姿を現す』――誰もが知る召喚術の基礎知識には嘘がある。

 魔族とは月に満ちた《魔》そのものだ。地上へと召喚される時、彼らは《大いなる一》から切り離されて、はじめて《個》となる。

「全然覚えテないんダヨ」

「ええー!?」

 はぐらかされて頬を膨らませた幼子は、すぐに気を取り直して、再び空想の翼を広げていく。

「きっと綺麗なお城があって、お姫様が暮らしているのよ」

 少女の思い描く月世界は、御伽噺のように美しい。

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