第二話 慶一達、リアル大阪編敵モンスター退治の旅始まるで(後編)
みんなは地下鉄、JR、南海電鉄を乗り継いで中百舌鳥へ。大仙陵古墳隣接の大仙公園内を散策する。
「おう、埴輪が来るかと思いきやお線香から登場か。まあこれも堺の伝統産業やもんね。ええ匂いもして来たわ~」
桃絵は嬉しそうに呟く。高さ一メートルくらいはある線香型モンスターが煙をたなびかせながら近づいて来たのだ。
「本当にいい香りですね」
「私、この香り好きになりそう」
「あたしもー。煙たくなくて気分が安らぐね」
千景、舞衣、羽音は姿を見かけるや、恍惚の表情を浮かべた。
「慶一様は、この匂い嗅いだらあかんで。あっ、遅かったかぁ」
「あんぅ、慶一くん、やめて」
「ごめん、なんか俺、舞衣ちゃんの汗まみれのパンツ見たくてしょうがないんだ」
慶一はとろんとした目つきで舞衣のスカートを捲ってしまう。
「慶一お兄ちゃんが、エッチなお兄ちゃんになっちゃった」
羽音は楽しそうに笑う。
「慶一さん、普段は絶対そういう猥褻なことする人じゃないのに。この敵の力のせいね」
「体力30の堺線香さんの男の人によく効く魅惑の線香の力で、慶一様はムラムラ状態に侵されちゃってん」
「舞衣お姉さぁん、大好きや♪」
「もっ、桃絵ぇ。やめて。慶一くんも桃絵も変だよぅ」
桃絵からはほっぺたにディープキスをされてしまった。
「桃絵様、女の子なのに効いちゃうなんて、百合の気質を持ってるのかも」
佐桜里は楽しそうににっこり微笑む。
「舞衣ちゃん、俺、パンツの匂いも嗅ぎたい」
「舞衣お姉さぁん、舌入れさせてー」
「んもう、慶一くんも桃絵も早く正気に戻ってぇぇぇぇぇ」
舞衣は中腰の慶一にショーツ越しだがお尻に鼻を近づけられ、桃絵に口づけを迫られる。
「すみやかに倒しましょう」
「線香、くらえーっ!」
千景のハリセン、羽音のメガホンの連続攻撃によりあっさり消滅。堺サッカーもなかを残していった。
「あれ? 俺。うわっ、なんで舞衣ちゃんの尻が俺の目の前に!?」
「ありゃ、ワタシさっきまで何を」
慶一と桃絵は途端に平常状態へ戻る。
「慶一お兄ちゃんと桃絵お姉ちゃん、舞衣お姉ちゃんにずっとエッチなことしてたよ」
羽音は楽しそうに伝えた。
「ごっ、ごめん舞衣ちゃん!」
慶一はすみやかに舞衣から離れてあげ深々と頭を下げた。
「舞衣お姉さん、百合なことしちゃったようで申し訳ない」
桃絵は舞衣のお顔をじっと見つめたまま頬を火照らす。
「べつに、気にしてないよ。さっきの敵のせいだもん。ん? きゃっ、きゃぁっ!」
また新たなモンスターにスカートに食いつかれ捲られてしまう。
「鯉幟だぁ。空飛んでるぅ。金太郎も乗ってるぅ」
羽音は楽しそうに眺める。金太郎が跨った真鯉と、緋鯉一体ずつ現れた。
「きゃぁん、ワタシのスカート捲らんといてや」
桃絵は緋鯉の方に襲撃される。
「堺五月鯉幟。体力は38。綿布で出来とるから火で攻撃したら瞬殺出来るで」
「またエロ攻撃かよ。俺が製作者だったら火を噴くとかの攻撃考えるんだけどな」
「職人さんに申し訳ない気分になっちゃいますね」
慶一と千景はマッチ火で攻撃。ボワァッと燃えてあっさり消滅した。
乳守もなかを残していく。
みんなは付近を引き続き歩き回っていると、
「うわっ」
慶一、
「きゃっ!」
舞衣、
「びちょびしょになってもうたわ」
桃絵、
「冷たぁい」
羽音、
「これはお抹茶ね。誰のしわざかしら?」
千景、
「間違いなく千利休銅像のしわざやね」
佐桜里、
全員背後から抹茶をぶっかけられた。
「どうじゃ」
佐桜里の推測通り、千利休の銅像型モンスターが。秀吉の銅像と同じく人間の言葉でしゃべった。高さは一八〇センチくらいだ。
「こいつまでモンスターになってるのかよ」
「そういえば千利休さんって、堺出身だったね」
「あたしも知ってるぅ。お茶の人だよね」
「千利休銅像、体力は45。大阪城秀吉銅像も瞬殺出来る強さやで」
「秀吉さんに切腹を命じられたらしい千利休さんだけど、ゲーム上ではそんな設定になってるのね」
千景はにっこり微笑む。
「秀吉攻め利休受けで同じ部活の子でBL描いとった子がおったよ。ワタシは正直絵が気に入らんかったけど」
「ホホホ、BLとは何かは全く知らぬがそこのボサボサ髪のお嬢さん、この朝顔を一輪だけにしてみんかな?」
千利休銅像は桃絵目掛けて数輪の朝顔を投げつけて来た。
「切り裂いたるで」
桃絵は楽しそうにカッターでズバッと切り付ける。
十輪あった朝顔が三輪に減った。
「いたたたぁっ」
地面に落ちた七輪の朝顔はぴょんっとジャンプして桃絵の頬を花びらで思いっ切りビンタした。桃絵の頬もスパッと切れて血が噴き出してくる。
「危ない朝顔さんね」
千景がこの朝顔にマッチ火を投げつけて消滅させた。
「桃絵、お花を傷付けるのは罰当たりだよ」
「まさかあんな攻撃してくるとは思わんかったんよ」
舞衣から受け取った太閤饅頭を食して、桃絵の頬の傷は瞬く間に消える。
「それそれそれーっ。よけ切れるかな?」
千利休銅像は楽しげに慶一目掛けて茶碗を七種類投げつけて来た。
「いってぇ!」
慶一は黒楽茶碗東陽坊を肩に一発食らってしまうも、
「リアル千利休は茶碗を大事にしてたと思うぞ」
「わびっ!」
怯まず立ち向かい、千利休銅像の顔面をビジネスバッグでぶっ叩いた。
「利休のおじちゃん、これでもくらえーっ!」
「おう、美味いではないかこの白いの。抹茶と共に点てるとより美味しさが引き立たされそうじゃ。秀吉様もきっとお喜ばれになろう」
羽音は生クリームで顔面を攻撃。体力を回復させてしまったようだ。
「千利休、ワタシが切腹したるわ」
「ぐはっ!」
桃絵は腹をカッターで腹を切り付けた。
これにて消滅。抹茶飴、焼き菓子の【利休の堺こよみ】、干し菓子の【利休古印】を残していく。
それからすぐに、
「きゃぁっ!」
「いやぁん、こいつ埴輪の癖にエッチやわ」
舞衣と桃絵は馬や犬や水鳥や女性の頭の形をした埴輪型の敵数体に襲われた。胸にしがみ付かれたり、上着やスカートを思いっ切り捲られたりされ、ブラやショーツが丸見えに。
「大仙陵古墳の埴輪くん。体力は馬型38、犬型41、水鳥型43、女子頭部型は44や」
「またしてもエロ攻撃好きな敵かよ」
慶一は呆れ気味にビジネスバッグで立ち向かっていくも、
「ぐわっ!」
犬型の一体に頭突きされ突き飛ばされてしまった。
「いってててっ」
慶一は地面に叩き付けられてしまう。
「慶一くぅん、大丈夫?」
舞衣は馬型にまとわりつかれながらも心配そうに駆け寄っていき、ちんちん電車もなかを慶一の口に放り込んだ。
「おう、痛み消えた」
慶一は完全回復すると、再び立ち向かっていき馬型一体にマッチ火とビジネスバッグの連続攻撃を食らわし消滅させた。
「遠くから攻撃した方が良さそうだね。エッチな埴輪くん、くらえーっ!」
「埴輪のくせに生意気やでっ!」
「あなた達は堺市博物館に展示されるべきですね」
羽音の手裏剣&水鉄砲、桃絵のGペン、千景のマッチ火攻撃で残りも一気に全滅させた。
けし餅、堺燈台もなか、
「太っ腹な敵でしたね。んっ? きゃっあん! 真っ暗です」
またすぐに千景は何かに上空から襲われてしまった。
「千景ちゃんが閉じ込められちゃったぁ」
舞衣は慌てて呟く。
「息苦しいです。蒸し暑いです。出して下さい」
千景は高さ二メートくらいの土器型の敵に覆い被されてしまったのだ。
「堺で最強の敵、大仙陵古墳の須恵器甕ちゃん。体力は48。防御力かなり高いで。弱点は無し。火にも強いで」
「土器のモンスターかよ。利川さん、すぐに助けるからな」
慶一はさっそくビジネスバッグで攻撃。一撃では倒せず。
「とりゃぁっ!」
桃絵もすみやかにバットで攻撃。まだ倒せなかった。
「ものすごく硬いね」
羽音のヨーヨー攻撃。これでも倒せず。
慶一達がもう一度攻撃を加えようとしたところ、大仙陵古墳の須恵器甕ちゃんは消滅した。
「皆さん、ご協力ありがとうございます。酸欠になりかけました。あと十秒遅れてたら体力0になってたとこでした」
代わりに現れた千景はハァハァ息を切らし、汗もいっぱいかいていた。彼女も中からハリセンで攻撃していたようである。
「千景ちゃん、これ食べて」
舞衣は堺サッカーもなかを与える。
「ありがとうございます。美味しい♪ んっ、もががが、なんかとろろ昆布らしきものが覆い被さって来ました。前が見えません」
千景は全快した瞬間にまたも何者かに先攻される。
「とろろ昆布のモンスターか。堺は昆布加工業も盛んだもんな。利川さん、大丈夫か?」
「息苦しいですぅ」
「絡み付いて取りにくいな」
慶一は千景の頭にこびり付いたとろろ昆布を手掴みして引き離してあげた。
「ありがとうございます慶一さん。疲れました」
千景は体力をかなり消耗してしまったようだ。
「千景ちゃん、これ食べて」
舞衣は海遊館塩キャラメルクッキーを与えて全快させてあげた。
「堺とろろ昆布ちゃんは体力37や。弱点は水と炎。皆様、身動き封じに注意してや」
「うわっ、動き早っ!」
慶一も堺とろろ昆布ちゃんに包み込まれてしまう。
「鬱陶しい」
けれどもすぐに自力で引き離した。
「あたしとろろ昆布不味いから嫌ぁい」
羽音は水鉄砲を直撃させる。
「動き鈍ったな」
慶一はふやけてしまった堺とろろ昆布ちゃんをすばやくバットで攻撃。あっさり消滅し純白とろろを残していく。
「わたし、堺では酷い目に遭ってばかりだな」
千景はしょんぼりした気分で呟いた。
「千景様、元気出してや。千景様の本領を発揮出来るイベントも道中であるから。千景様がいないと十中八九突破出来へんと思う」
「どんなイベントなのかしら?」
「それは現地に着いてからのお楽しみということで」
佐桜里がそう伝えた直後、
「フォフォフォ、皆の者、モンスター退治、良く頑張っておるようじゃな。若い娘さんがようけおって嬉しいわい。男主人公一人だけで来るゲーム内での標準進行より、こっちの方がずっと良いわ」
白髪白髭、老眼鏡をかけた作務衣姿の仙人風なお爺ちゃんがみんなの前に現れた。
「おう、まさにそのイベントに遭遇やで。ゲーム上ではこの敵、大阪天満宮に出るねんけど」
「エロそうな爺ちゃんやね」
桃絵はそのお方の風貌を見てにっこり微笑んだ。
「フォフォフォッ。わしは小学生の女子(おなご)が一番の好みなのじゃよ」
お爺ちゃんはとても機嫌良さそうにおっしゃる。
「ロリコンなんかぁ。見た目通りやね」
「あたしが好きなの?」
羽音がぴょこぴょこ近寄っていこうとしたら、
「羽音、このお爺ちゃんに近づいちゃダメだよ。エッチなことされるからね」
「そんなことしないよ」
「いや、しそうだよ」
舞衣に背後から掴まえられた。
「このお方は学問仙人といって、対戦避けることも出来るねんけど、戦った方が後々の旅で有利になるかもやで」
「学問仙人のイベントうざ過ぎってレビューに書かれてたけど、大阪編で早くも遭遇するんだな」
慶一は興味深そうに学問仙人のお姿を眺めた。
「敵モンスターやけど、倒せば味方になってくれるで。主人公達に学力向上を授けてくれるいいお方やで。小学生の女の子の中でも、勉学に励む子が特に好きやねん」
「ホホホッ。わしはゲーム上では大阪天満宮におるのは学問の神様、菅原道真公が祀られておるからじゃよ。わしはつい一時間ほど前まではリアル大阪天満宮におったのじゃが、早く勇者達に会いたくて地下鉄とJR、南海を利用してここまでやって来たのじゃ」
「公共交通機関利用か。なんか、仙人っぽくないな。雲に乗ってくるとか」
「雲に乗れるとかあり得んし。少年よ、現実的に考えよ」
学問仙人はにこにこ微笑む。
「そう突っ込まれたか。俺らの居場所知った方法も、佐桜里ちゃんが事前にメール送って知らせてたとか」
「その通りやで慶一様。勘が鋭いわ~」
「やっぱそっか」
「ホホホッ、見事正解じゃ。その点は超能力とは思わんかったか少年。そこの羽音と申されるお嬢ちゃん、わしに勝負を挑んでみんかのう?」
「やる、やるぅ」
「羽音、危ないからダメだよ」
「小学生の羽音様では、まだ倒すん無理やと思うで」
「戦いたいんだけどなぁ」
「わたしがやりますっ!」
千景が率先して学問仙人の前に歩み寄った。
「そこの才媛っぽさが感じられるお嬢さんは、東大志望かのう?」
「いえ、わたしは京大第一志望ですよ」
「そうか。まあ京大でもいい心構えじゃ。戦いがいがあるわい。それっ!」
学問仙人はいきなり杖を振りかざしてくる。
「ひゃっ!」
千景は強烈な突風により吹っ飛ばされてしまった。
「想像以上に強いな。このエロ爺」
慶一はとっさに千景から目を背けた。
「きゃんっ!」
服もビリビリに破かれて、ほとんど全裸状態にされてしまったのだ。
「なかなかのスタイルじゃわい」
学問仙人はホホホッと笑う。
「立ち上がれないわ。かなり、ダメージ、受けちゃったみたい。体中が痛ぁい」
仰向けで苦しそうに呟く千景のもとへ、
「大丈夫? 千景ちゃん、これ食べて」
舞衣はすぐさま駆け寄って、ゴマフアザラシラングドシャを与えて回復させた。けれども服は戻らず。
「学問仙人、攻撃もエロいね。ワタシも協力するよ」
「エッチなお爺ちゃん、くらえーっ!」
桃絵はバット、羽音は水鉄砲を構えて果敢に挑んでいく。
しかし、
「ほいっ!」
「きゃわっ! もう、ほんまにエッチやわ」
「いやーん、すごい風ぇ」
千景と同じように攻撃すらさせてもらえず杖一振りで服ごと吹っ飛ばされて、ほとんど全裸状態にされてしまった。
「桃絵も羽音も大丈夫?」
「平気よ、舞衣お姉さん」
「あたしも、大丈夫だよ」
「すごく苦しそうにしてるし、そうには思えないよ」
舞衣は心配そうに駆け寄り、いにしえ大福などで全快させてあげた。破かれた服はやはり戻らず。
「一応、やってみるか」
桃絵と羽音のあられもない姿も一瞬見てしまった慶一も、ビジネスバッグを構えて恐る恐る立ち向かっていったが、
「それっ!」
「うおあっ!」
やはり杖の一振りで吹っ飛ばされ大ダメージを食らわされてしまった。けれども服は一切破かれず。
「男の裸なんか見たくないからのう」
学問仙人はにっこり微笑んだ。
「慶一さん、相当効いたでしょう? これ食べて元気出して下さい」
「ありがとう、利川さん」
明日用の替えの服を着た千景は堺燈台もなかで慶一を全快させてあげた。
「次は、お嬢さんが挑んでみんかのう?」
「いいえけっこうです!」
学問仙人に微笑み顔で誘われた舞衣は、青ざめた表情で即拒否した。
「このエロ爺、とんでもない強さや。これは倒しがいがあるわ~」
「中ボスの力じゃないよね?」
桃絵と羽音は圧倒されるも、わくわくもしていた。
「どうやっても、勝てる気がしないわ」
千景は悲しげな表情で呟く。
「この仙人、見た目のわりに強過ぎだろ。どうやって勝つんだよ?」
慶一は桃絵と羽音のあられもない姿を見ないよう視線を学問仙人に向けていた。
「ホホホ、まあ今のお主らには勝てんじゃろうな。けどわしも鬼ではない。お主らにわしにハンディを与えさせてやろう」
学問仙人はそう伝えると、数枚綴りの用紙を慶一に差し出して来た。
「これ、テストか?」
「学問仙人はデフォルトじゃかなり強いけど、学問仙人が出す筆記試験の正答率と同じだけ攻撃力、防御力、体力も下がるねん。例えばこれに六割正解すれば、デフォルトの能力値から六割減になるねんで。ちなみにゲーム上ではネット検索対抗で一問当たり三〇秒の制限時間が設けられとるよ」
佐桜里は解説を加えた。
「相当難しいのばかりじゃから、お主ら程度の頭脳じゃ三割も取れんと思うがのう。二割取れたところでまだまだわしには通用せんじゃろう」
学問仙人はどや顔でおっしゃる。
「確かに難し過ぎだな。マニアックな問題が多いと思う。高校生クイズの地区予選のよりも難しいんじゃないか? 市役所の筆記は何度か通ってるけど県庁や国立大学法人の筆記には一度も受かったことがない俺の学力程度では太刀打ち出来そうにないな」
慶一は苦笑いした。
歌舞伎俳優の特殊な社会は何と呼ばれているか?
漫画『やけっぱちのマリア』の著者は誰?
大阪府内にある次の地名の読み仮名を記せ【喜連瓜破】【放出】【杭全】
などの一問一答雑学問題が特に多く出題されていた。
「あたし一問も分からないよぅ」
「ワタシもや」
「桃絵ちゃん、羽音ちゃんも、服破けてるから」
前から覗き込まれ、慶一はもう片方の手でとっさに目を覆う。
「すまんねえ慶一お兄さん、すぐに着てくるわ~」
「この格好でいたらお巡りさんに逮捕されちゃうね」
桃絵と羽音は自分のリュックを置いた場所へ向かってくれた。
「私も、ちょっとしか分からないよ。三割も取れないと思う」
舞衣もザッと確認してみて、苦い表情を浮かべる。
「それならわたしに任せて」
千景はシャーペンを手に持ち、楽しそうに解答を記述し始めた。
全部で百問。一問一点の百点満点だ。
「どうぞ」
千景は三〇分ほどで解答を終え、清々しい笑顔で学問仙人に手渡した。
「ホホホ。かなり自信のようじゃが……うぬっ! なんと、九八点じゃとぉっ! ネットで調べる素振り見せておらんかったのに」
学問仙人は驚き顔で呟く。
「千景様、さすが賢者。大変素晴らしいで。どこにでもおるごく普通の高校生なら三割取れれば上出来なこの超難問テストで九割八分の正解率を叩き出すなんて。学問仙人、能力値九割八分減で童子能楽ん並に弱くなったと思うで」
「本当か? 姿は全然変わってないけど」
慶一は少しにやけた。
「いや、わしの強さは全く変わってないぞよ」
学問仙人は自信たっぷりに杖を振る。しかし先ほどのように風は起きなかった。
「明らかに弱くなってますね。学問仙人さん、エッチな攻撃した仕返しよ」
千景はハリセンで学問仙人の頬を引っ叩いた。
「ぐええ! まいった」
学問仙人は数メートル吹っ飛ばされてしまい、あえなく降参。
「能力値極端に下がり過ぎだろ」
慶一は思わず笑ってしまう。
「服も戻ったわ」
「ほんまや」
「勝ったんだね」
千景、桃絵、羽音の破かれた服も瞬く間に元通りに。
「ホホホッ。皆の者、今後の旅、健闘を祈るぞよ。これを持って行きたまえ」
学問仙人はみんなに大阪天満宮の学力向上のお守りを一つずつ手渡すと、ポンッと煙を上げて姿を消した。
「なんか、急に頭が冴えて来た気がするわ~」
「俺も」
「私もー」
「あたしもすごく頭が良くなった気がするぅ。勉強しなくてもテストで楽に百点取れそう」
「わたしもですよ。今なら京大の過去問も難なく解けそうな気がします。本当に本領が発揮出来て嬉しいです♪」
千景は満面の笑みを浮かべる。
「千景様に喜んでもらえてうちも嬉しいわ~。皆様、このあと難波に戻ったら、そこの敵ともう一度戦ってみてや」
みんなはその後は新たな敵に遭遇せず、大仙公園から中百舌鳥駅へ辿り着くことが出来た。
□
南海難波駅到着後、また道頓堀付近の人通りの少ない場所をぶらつくことに。
「全然痛く無いわ~」
桃絵はきつねうどん型モンスターからまた熱々出汁をぶっかけられたが、ほぼノーダメージ。このあと丼側面にバット一撃で消滅させた。
「確かにめっちゃ弱く感じる」
「武器がいらないね」
慶一と羽音は童子能楽んをそれぞれ平手打ち一発で倒した。
「たこ焼きの助は指でつついただけで倒せますね」
千景は五体で襲って来たたこ焼きの助をあっという間に撃退。
「あーん、またスカート捲って来たぁ。やめてー。あっ、あれ?」
舞衣は阪神タイガースおじさんの肩をポンッと押しただけで消滅させることが出来た。
「やったぁ! ポンバシのアニヲタ君倒せたよ。お小遣いようさんゲットッ! ワタシの素早さが上がったおかげやな」
桃絵はその敵の姿を見かけるや、すぐに追いかけてGペンミサイルを投げつけ消滅させることが出来た。
「皆様、期待以上のレベルやね。もう夕方やから、このあと箕面へ移動したら宿を決めましょう」
「観光地の箕面で六人も泊まるとこあるのかな? 連休中だしどこも埋まってそう」
慶一は少し心配になった。
「箕面駅からちょっと遠いけど、籠森旅館は空室があるみたいよ。食事付きで高校生以下は一人当たり一泊一万五千円だって。六名以上だと団体割引で一万二千円よ」
「それでも高めやけど全部屋露天風呂付き客室なんかぁ。千景お姉さん、ここにしよう!」
「ゲーム機とソフトも備えてあるのっ!? あたしもここがいいな♪」
「私もー」
「ええ場所にあるね。うちもここがええわ~」
「ではしておきますね。わたしもすごくいいなって思ったよ」
千景はスマホのネット画面を閉じると、さっそくその旅館に電話予約。
「ゲーム上でも事前予約してへんと、宿に泊まれん場合もあるで」
「そこもリアルさがあるな」
慶一はそのシステムも余計だなっと感じたようだ。
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