【3日目】「ぼく君の彼女です。」
いきなり何言いだしてるんだこいつ
僕を含めて唖然としている4人に対して、どや顔でフィリアが言い出した。
すかさず僕が機転を利かせて上手く言いくるめる。
「いや、言い方が悪いよ。僕の両親がフィリアをしばらく預かったんだよ。なんか遠い親戚らしくて」
「いやいやいや、どういうことよ。あんたたちどんな関係?遠い親戚なんて信じれるわけないでしょ、漫画じゃないんだし」
ありえないでしょと橋本がツッコミを入れる。もう知らない、もうどうにでもなれ。
抱腹絶倒している侑太と、苦虫を噛んだような顔をしている橋本。
それと...相ノ木は...
「ぼく君、本当に一緒に住んでるの?」
「...うん」
「いつから?」
「たぶん2日目から」
「なんで教えてくれなかったの?」
「いや...携帯壊れてて」
「そっか、ふーん。今度、ご飯おごって。」
「...はい。」
相ノ木さんイライラしています。一方侑太は泣いている。笑い泣きである。後で殺す。
この惨事を作った張本人の顔を見ると、あれ?なんかお前もイライラしてる?
作り笑顔でフィリアが相ノ木に話しかける。早く午後の授業始まらないかな...
「相ノ木さん...でしたっけ、僕くんをそんなに責めないであげてください。彼はとても優しいので。」
「知ってる。あなたよりも詳しい。それと、近すぎ。あなたは彼の何。居候してるだけでしょ」
「ええ、そうよ。住まわせてもらっているの。朝昼晩とご飯と作ってあげてね、そのお弁当もそうよ。背中だって流してあげたわ」
僕に当たるか当たらないかというギリギリの位置にフィリアは陣取っているのだ。
ただ、相ノ木に挑発されたからか。僕の右腕を手に取り、自分の体に当て始めた。頼む、許してくれ。
「背中なんて流してもらった覚えはねーよ!ていうか離せフィリア!」
僕の言葉なんて耳に入っていないのか、絶対に腕を話そうとフィリアに対して、相ノ木はイラついている。
一触即発どころじゃない。核爆弾発射まで5秒前って感じ。
「ああ、ごめんなさいね。気に障ったかしら。」
「フィリアさん。離れて、最後の忠告」
「え?ああ、気が付かなかったわ。"自然としちゃった。いつものことだから"」
地雷どころじゃなく、本当に爆弾のボタンを押してしまったフィリア。クラス中の空気が凍る。
空気が凍るって言うのは比喩表現じゃなく、本当に『凍っている』のだ。
「『氷柱』」
そう言うと、相ノ木の周りに尖った氷が何本も出現する。1本1本が鋭くとがっていて、殺傷能力はかなり高い。刺さると冗談じゃなく死ぬ。
空気は冷え切っていて、2-Dの教室が冷蔵庫みたいになっている。この異常事態に流石にクラスメイトも気づき先生を呼びに行った人も居るが時間に余裕は無い。今すぐ止めなければ。
流石に侑太も笑いを止め、大声で止めに入る。
「落ち着け!相ノ木が挑発に乗るなんてらしくないぞ!」
「そうよ!第一、本当かわからないじゃない!フィリアさんも謝って!」
ああ、その通りだ。今回ばかりはフィリアらしくないし、相ノ木らしくない。なんでやりあってるんだ。
「わかったわ、ごめんなさい。言い過ぎた。背中は流した事はないけれどおんぶはしてもらったことあるの。」
火に油、ではなく氷河に水を撒くように更に挑発を続ける。ただ、相ノ木が能力を発動したからなのか
フィリアの体から赤いオーラが見える。戦闘態勢だ。
「フィリア、やめろ。相ノ木落ち着け。やましい事はなにもしてない。」
「僕くんは誰の味方なのよ!ていうか相ノ木さんは僕くんの何?」
「わたし?わたしは、」
少しだけ、ほんの少しだけ時間が止まった気がした。
「ぼく君の彼女です。」
侑太も橋本も驚いている。別に隠していた訳ではないのだが、言うタイミングが無かった。
1か月前、いつも通り帰ろうとしたら相ノ木に呼び出されて告白された。
特に断る理由も無かった、物静かだけど、優しい相ノ木に告白されて悪い気はしなかった。それから付き合っている。
「「マジ?」」
侑太と橋本が声を揃えて言った。息ぴったりのカップルである。
「ほんと。だからフィリアさん、あきらめて」
「あ....あはは、何いってるの?僕くん嘘でしょ?ねえ、記憶にはそんな事書いてなかったよ」
つい記憶の事を口に漏らす彼女だが、誰も気にしてない。注目されているのは僕の返事。だけどこれは...
「本当だよ。本当に付き合ってる。隠してたわけじゃ無いけど言わなくてごめんね」
冷え切った教室に響く雨の音に重なり、僕たちの関係が崩れる音がした。
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