≪目が覚めると、異能力が宿っていた。≫

ika男

【0日目】全ての始まり

世界は動いている。時間は止まらず絶えず、世界は常に動き続けている。

そんなありきたりな世界に異変が起きた。



朝、目が覚めると"異能力が目覚めていた"


炎を生み出すとか、空を飛ぶとかそういう物だ。


「なんだこれ」


つい言葉に出してしまった。

布団から出て身体を起こし、部屋に立てかけてある姿見を見る。体には何の変化もない。



…どうなってんだ。意味がわからない。でも頭が能力の使い方を理解している。

体が重い、頭がまわらない。夢なのか?色々な疑問が頭に浮かぶ。…夢ではない。現実的すぎる。



僕は右手の平を見る。いつもの癖だ。緊張した時に右手の平を見てしまうが大した効果はない。

僕は18歳だ。小学3年生にありがちな、おれがほのおのまほうつかいだー!なんてアニメに影響される歳でもない。



だが、興味は失せたとしても、異能力と言うのは男の夢だ。もしかして僕だけが得たのかもしれない。

ふと疑問に思った僕は布団の横に置いてあるテレビのリモコンを持ち上げ、電源と書かれたボタンを押す。



心臓の鼓動がより高まる。もしかしたら僕だけが…と脳裏を過ぎる。

いつもの癖で10chのボタンを押し、音量を上げると、よく見知ったアナウンサーが目に映り、珍しく慌てた口調でニュースを報道している。



「世界中の人間に特殊な能力が宿っている事が判明しています。現在、能力者が確認されている国は…」




テレビを消した。目が覚めてきた。今は6時40分だ。

時計を見た僕は、いつも通り制服に着替え、1階のリビングへ向かい階段を降りて行く。

今日は金曜日だ、学校があるので8時には家を出ないと遅刻をしてしまう。不良などではない至ってマジメな僕は遅刻なんてしたくない。お説教をわざわざ食らいたいのはうんこ色の髪型をした不良か、そういう趣味の人くらいしかいない。



非日常に期待しながら階段を降りる僕。

ああ、楽しみだ。もう家族は起きている時間なのでなんて話しかけようか期待に胸が躍る。



「おはよう。」いつもは挨拶なんてしない僕だが、今日は何となく声をかけてしまった。


「お…おはよう、あんたテレビ見た?」

母も同様に動揺してるみたい。あはは。笑いが堪えきれない。つい笑顔を見せてしまう。


「見た。もしかして僕だけ能力を得たのかなーって思ったけどそんなことは無かったよ。アメリカとかでも発症してるみたいだね」


「ふーん、まあええ。はよご飯食べて学校行き」母は冷静にそう言った。



つまらないな。もっと驚いてくれるかと思った。歳を重ねるとどんな物事にも冷静に対応できるのかも。

考え事をしている内に時間は過ぎていく。もう7時30分だ。そろそろ家を出よう。

早く学校へ行って友達の話も聞きたい。

あ、母親なんの能力持ってるのか聞き忘れた。また帰ってから聞こう。



僕の通っている学校の名前は、私立真矢野高校と言う。自宅から電車で30分の場所にあり、

特に偏差値が高い訳でもない普通の学校だ。選んだのは友達がそこへ行くと言うから僕も行く事にした。



改札を通り、電車を待つ。いつもと同じ光景だ。非常時だと言うのにどの学校も休校ではないらしい。

皆、制服姿で携帯をいじりながら下を向いて電車を待っている。



カバンから携帯を取り出し、いつもの様にラインを開く。

僕は上から順に返事を返していった。どのメールも不安や期待の気持ちをそのまま送って来ていただけだ。

でも、こんな退屈な毎日が、"非日常"へと変化したんだ。気持ちはわかる。



一人、変な奴がいた。深夜2時にメールを送って来ては3回も電話かけてきてる上、一言に

『これが世界の修正力か…』なんて書いてるし恥ずかしくないのか。



変な奴の名前は、杉原侑太と言う。小学校から同じ学校へ通っていて一番仲が良い人物だ。

僕が真矢野高校を目指した理由も、こいつがここを目指すから僕もここに行こうと思った。そんな感じだ。



一通り返事を返し終わったら、有名なネットの匿名掲示板を開いた。開いた目的は一つ。

今世界がどんな状態になっているかだ。今日の出来事が大きすぎてニュースなどでは追いつかない。

なら掲示板ならどうかと思った。結果、この考えは正解だった。嘘か本当か様々なスレッドが建っていた。



_______

異能力情報交換スレ28(761)

炎能力者集まれー(102)

一応、世界最強と呼ばれてる者だが質問ある?(9)

この日常に退屈していた者の数→(875)

この宇宙の神です(601)

うはwww俺マジシャンだったww(101)

魔法使いは甘え、魔術師が最強なんだが?(51)

ルイズルイズルイズうわあああ!!!!!(3)



他にも数多くのスレッドが建っていた。ほとんどのスレッドが能力関係で染まっている。

異能力情報交換スレッドのような物はあると思っていたが、part28まで行ってるとは思わなかった。



覗いて見ると、色々な能力の種類がまとめられていて、Wikipediaまで出来ていた。

通学時間という限られた時間の中で、必死に情報を収集する。


多分だけど、今のこの世界で一番足りなくて、一番大切で必要なのは"情報"だ。不安定な世の中で重要なのは、安心と力だ。それに辿り着くには情報が必要不可欠だと思った僕は、血眼で情報をかき集める。まるで、飢えた犬が餌を求めるように。


30分で分かったことをまとめあげた。


【わかったこと。】

①数えきれないほどの能力が溢れてる。

(炎、水、電気、光、身体能力、超能力、瞬間移動。)


②能力は悪用出来ない。理由はわからないが、リミットがかけられて本能的に出来なくなっている。

今も、僕の能力で人を殺そうと試そうとしたが、出来ない。いや…出来ないというより、

"やろうと思えない"殺そうとしているのに、しようと思えない。


③能力者は"魔法使い"と"魔術師"という分類に分けられるみたいだ。

魔法使いの方が優れているみたいだけど…何が違うのかわからないし、どうやって調べるのかもわからない。


④強い能力を使うには対価というか、マナのようなものが必要らしい。

その対価は自分で選べたり、選べなかったりするみたいだ。



判る事が増えていくにつれて謎は深まっていく。魔法使い?対価?

そもそも何故全世界の人間が能力を得たのかが判らない。…疲れた、一旦落ち着こう。

考え事をしている内に目的駅に着いたアナウンスが流れた。

足取りが重いのを後に、僕は電車から出る。



冷たい風が僕の足を攫い、そのまま上へ上へと冷風が体に吹き付ける。

空は青色で日差しが照っているが、道路に植えられた木々は秋色の葉を付けている。

そろそろ寒くなってくる季節だ。そうこうしている内に学校へと着いた。

校門を抜け、警備員さんに挨拶を交わす。

この学校を毎日守ってくださっている人だ。名前は知らないがもう3年の付き合いになる。


「おはようございます」


「はいおはよう。色々騒がしいけど、怪我しないようにね」


挨拶を交わし、校舎へと向かう。校舎の方からは騒がしい声と、激しい物音がする。

想像はしていたがこれ程にぎやかだとは思わなかった。




駆け足で校舎に向かう。何だ感だ言いながら僕も皆と会うのが楽しみなのだ。

靴を履き替え、自分のクラスに向かう。廊下にもたくさんの人だかりが居た。

グラウンドで能力を使用したり、自慢し合ったりしてる男子生徒も見られるが、何故か建物や校舎は壊れていない。これも能力の制限みたいなものなのか…?


そして、ドアを開け、2-D組の自分のクラスに入る。脈打つ心臓を抑え声を出す。

「おはよう。」

僕が声をかけたのは、深夜2時にメールを何件も送って来た馬鹿だ。調子に乗って先生に怒られるタイプなのだが皆から愛されている。


「よっ!なぁなぁもう知ってるよな!な!すごくね?やべえよな!」

主語が無い。何を言ってるんだこいつは。でも、大体言いたい事はわかるので返答する。


「ああ、知ってる。この能力の事だろ?ちょっと信じられないけど…」

返事が返って来たので、僕は途中で話を切る。


「そうだよ!俺は、身体強化って言って。なんかこうスッゲー足が速くなったり、力が強くなったりするんだ!やばくね?」

ヤバイ。スゴイ。一昔前のギャルかお前は。でもそういう喋り方は嫌いじゃない。


「へえ、身体強化なんてあるんだな。ちなみに100m走は何秒くらいで走れんのかな」



身体強化の存在については知っていたが、あえて嘘をついた。理由は特に無いけど目立ちたくなかった。

100m走については聞きたかった。人それぞれ能力が違う分、同じ能力でも差が出ると思ったからだ。

こいつ、杉原侑太はクラスでもトップクラスに足が速い方だ。

身長も僕より高く、175cmもあり、体格もガッチリしている。如何にもな体育会系だ。


「わかんねー。けど、めっちゃ速い。今日能力使って来たけどバイクよりも速かったぜ!

お前は何の能力なんだ?」


「へえ、すげえな。

あー能力?秘密。お前に言うと他の皆にもバラしそうだから」


「えーいいじゃん!教えろよ。減るもんじゃねえし。」


「まぁ楽しみにしとけよ。こういうのは言わないほうが面白いだろ?」



僕が能力を言わない理由はもう一つある。今は人に危害を加えられないけれど、もしそれが無くなったとしたら…自分の能力を知られる事はマズイ。不利になる。被害妄想かもしれないが人体実験をされる可能性も出てくる。

例え信頼出来る友達だとしても、うかつには言わないほうが良いと僕は考えた。



たわいもない話をしていると、ドアの開く音がし一斉に話し声が止まった。

静まり返った教室に、気だるい声でありながら真剣な言葉が響く。


「席につけ。今から大事な話をする。」


担任が来た、しかも横に誰か居る。全く知らない人だ。

横に居る人は、金髪で180cmくらいある白人の男性。細身で優しい表情をしている。

上下赤色のジャージを着ているのに違和感を感じるが、それよりも何故この学校へ、しかも今日、外人の男が居るのか。

クラスが騒めき始め、何か面白い事が始まるのではないかと喜ぶ者や、不安そうに唇を歪める人が居る中、僕は嫌な予感がした。



担任が言った。

「今日からこのクラスに入ってくださるクリス先生だ、アメリカからわざわざ来てくださった。

異能力について教えてくれるので皆、真剣に学ぶように。なお、今日から授業の変更がある。

毎曜日、午後の授業は全て異能力についての勉強、及び実技を行う事になった。」



先生が話をし終わった後、喜ぶ声が飛び交う。クリスと言う男の顔を見て黄色い声を上げる女子生徒や

午後の授業が無くなったのに対し喜ぶ男子生徒など様々な反応だ。…でも違う。何かおかしい。


僕以外にも気づいている生徒もいるみたいだけど、明らかに不自然な所がある。

何で急に、しかも外国からうちの学校に来た?本当に能力を教えるとしても、こんな田舎にわざわざ専門の教師を連れてくるか?


「じゃあ、さっそくホームルームを始める。起立」


怪しすぎる。信用出来ないと考える僕に対して、思考の時間を与えないかのように時間は過ぎていく。




午前の授業が終わって、お昼休憩になった。クラスメイトは食堂へ行ったり、机を寄せて持参した弁当を食べる姿が見られる。格言う自分も友達待ちなんだけど。

ただ、他の皆の話の話題はクリス先生か能力かの二色だけみたい。

聞き耳を立てて居ると、僕の机にいつもの奴が来た。杉原侑太だ。

昼休憩は、僕の机で弁当を食べるのが習慣となっている。でも二人で食べるわけではなく


「お待たせ。侑太。ぼくっち」

「ぼくっちってやめろ。」

「よっ!未来、おはよう。今日はビックリしたなー。未来はいつ能力に気づいた?」

「んー朝起きて、何か変な感じがしたんだ。じゃあ能力使えてた。」


今、お待たせ。と言って来た女の子が『橋本未来』2-Cのクラスに居る。

背は侑太よりも一回り小さく、150cm前後と言ったところ。小柄な分、胸も相応の大きさだ。

残念な事に、杉原侑太と橋本未来は付き合っている。なんでこんな奴に彼女が居るんだ。


「未来はどんな能力なんだ?俺はなー!」


「もう聞いたわよー馬鹿。身体強化でしょ?脳まで筋肉だものね。中々似合っているわよ。

私は、治癒能力。傷がある場所に手をかざすとピカーッって光って治るの。病気までは治せないけどね

ぼくっちは何だったの?」


「こいつ俺にも教えてくれねーんだよ!結局何なんだ?」


「だからやめろ。…僕の能力は秘密。あえて言わない」


ぼくっちって呼ばれてるのが僕だ。不本意だけど、皆がそう呼ぶから…でも橋本に言われると

何故かすごくムカつく。


「相変わらず、秘密主義なのね。まぁいいわ。ところで、そっちにも変な外人さん来た?」

「おう来た来た。俺んとこはクリスって言う奴だった。デカいけど優しそうだったぜ。」

「ふーん…あ!果歩!お疲れー!」


遅れてやって来たのが『相ノ木果歩』橋本と同じ2-Cで授業を受けている。

身長も未来より少し大きいくらいで、特徴は特にない。強いて言えば無口だ。


相ノ木が到着し、珍しく自分から話かけてきた。

「お疲れ様」

「あれ?果歩、今日お弁当は?」

「わすれた。」

「えー!めずらしー!明日雪降るんじゃないのー?」


相ノ木が忘れ物をするのは珍しい。学年トップとは言い難いがそれなりに頭が良くしっかりしているのに

本当に雪でも降るんではないのかと疑ってしまう。


僕はどうしても聞きたかった事を相ノ木に向けて発した。

「ねえ、相ノ木。相ノ木はあの外人どう思った?」

「…怪しい人だと思う…でも、まだわからない」

「僕もそう思う、あいつらは信用しちゃダメだ」すかさず侑太が反論する。

「何でだよ?別に悪そうな奴じゃねーだろ。それにさ、見たかあのスマイル?まるで聖人ですよと言ってる顔だぞ。悪意なんて感じられないぜ!」

「私も侑太と同じ意見よ。でも…全クラスに一人ずつ入ってるとすると、ちょっと規模が大きいというか…すごいわね。何でわざわざうちの学校に来たんでしょうね。」



僕は答えた。

「そこだよ、日本中…いや世界中の学校に一人ずつ専門家を送ったとしたら、アメリカから人が居なくなっちゃうよ。考えられるのは日本の学校だけとか、高校だけとかじゃないかな。」



橋本がすぐ聞いてくる。

「でもどうして?」

「わからない。何でだろう」



話がひと段落ついた所で、チャイムが鳴った。

午後からは『能力』の時間だ。何をするんだろう。



「あ、鳴ったね。じゃあまた後でー!」

「またね」

2-Cの女子が別れの挨拶を告げ、次の授業の用意をする。




と言っても、体操服でグラウンドに来なさい。としか伝えられていないので

何をするのかは見当もつかない。




 グラウンドの中央にはクリス先生と担任が居た。特に何も用意していないが

二人とも動きやすい格好に着替えていた。クリス先生は今も真っ赤なジャージだ。ダサい。



僕たちもグラウンドの中央に集まり、しばらく全員が揃うのを待った。

皆、未だか未だかと表情を変化させている。すると


「やっと全員集まったか。それでは今から能力の授業をする。まぁわかってる通り、このクラスが学校初の能力の授業をする事になる。上手く授業が進められるか判らないが、皆真剣に受けてくれ。男子は大丈夫そうだな」


「たりまえっすよ!すっげー楽しみっす!クリス先生しゃっす!」

しゃっすとは何語なんだろう。侑太が発すると同時にクラスの男子達も声を上げて気合を示し、待ってましたと意気揚々とし始める。


するとクリス先生が初めて声を出した、カタコトの日本語かと思ったが流暢に喋り出した。


「それでは能力の授業を始めます。改めて自己紹介をさせてください。

私は、アメリカの能力研究科から来ました。クリス・F・スワローズと言います。クリスと呼んでください。

私達、即席で作られたものですが、能力科の人間は日本の高校に能力の向上目的で来ています。

各校に配属される人数は違いますが、この学校では1クラス1人の担当者が居ます。これから宜しくお願いします」


能力研究科か、後で調べてみよう。だけど何で日本だけなんだ?

考えても答えは出ないのでクリス先生の話を聞くことにした。


「いきなりですが、今皆さんが持っている能力。これは全世界中の人間が保持しています。

特徴は3つあります。

①人に危害を加えられない

②それぞれ保持している能力が違うし、一人1つしか能力は持っていない。

③能力を使いすぎると、命にかかわる。

この3つだけ判明しています。気を付けて能力を使用してください。」


先生の発言に空気がざわつく。ああ…それよりも寒いよ。まだ10月だってのに…

朝と同じく冷たい風が体中にまとわりついてる。もう一枚着て来ればよかった。




「さて、それでは能力の実演をしてみましょう。じゃあ、出席番号1番の人、前に出て」

「はい」



池田君が前に出る。番号が早いとこういう運命になる。苗字を恨め。と言いたい所だけど

今回ばかりは羨ましがる生徒も多い。



「みなさんは自分の能力の出し方や使い方を理解していると思います。なので今回は

非常時に備え、能力を使った戦闘の仕方を教えたいと思います」



野太い声の歓声が上がった。


でも人に向かって能力は使えないはず…どうするんだろう。

僕は先生に直接問いかけた。



「相手を傷つける意志がなければ人に向かって能力を使用できます。治療能力とかそうでしょう?

ただし、当たっても相手に痛みや傷を付ける事は出来ませんよ。」


なるほど、道理に叶ってる。



「私の能力は木々を操る力です。草や木を伸ばしたり出来ます。池田君は?」

「僕は炎を出せます。温度とか大きさはわからないです…」

「いい能力ですね。では戦闘を始めましょう。皆さん下がってください」


クリス先生がスタートの合図を出し、先生との距離を取る。

アニメでしか見た事がなかった映像が目の前に現れる。そう思うと拳に力が入る。



「池田君から初めてください。私に向かって火の能力を使ってみて」

「わかりました。ではいきます。」


二人とも距離を置き、しばらくお互いの顔を見合う。




すると




急に池田君が右手を前に走り出し、右手から炎の球体のようなものが飛び出した。



――かなり大きい。1メートルは優に超える。



当たったら大怪我をするレベルの大きさだ。


すぐさま先生は目の前に大きな樹を何本も生み出し、樹の壁とも捉えれるものを作り出した。





火の玉は壁にぶつかり樹は大きな音を立て、燃え上がる。








戦闘に見入ってたクラスメイト達が歓声を上げる。


すごい…これが能力なんだ…

僕は見入っていた。


そして、この非日常をようやく実感した僕は身体から震えが止まらなかった。



池田君が両手で火の玉を連発する。5,6個の火の玉が先生を襲う―



これは樹じゃ避けられない…もっと大きな樹を出さ…






――驚愕して声が出なかった。




先生はまったく動かずにただ笑っていたんだから。





「すごいね池田君。才能あるよ。そんなに大きな火を使えるなんて。

火と木、かなり相性は悪い。だけど…」





「『私には絶対勝てない』」



あと1秒後に先生に当たるというところで、





先生が消えた。





実際は消えたんじゃなく一瞬で真横に移動していた。先生の能力は木を操る能力のはずなのにどうやって移動した?身体強化の能力も持っているのか?




皆が疑問に思っていると、先生が喋り始めた。



「能力を使う際にはマナと呼ばれるものを使う。ただこの力は能力を使うだけじゃなく

五感や身体能力を強化する事も出来る。本能的に使い方が判ってる"固有能力"とは違って難しいけどね」




先生の動きがもっと速くなる。



池田君も火の玉を出し続けるが一向に当たる気配はない。

そして…先生が池田君の後ろに立ちハグをした事で、試合は終わった。




「アナタは中々才能がありますね。でも火の玉以外にも、火柱とか応用出来るともっと素晴らしい

では出席番号2番の人、どうぞ」



この後、5番まで戦闘をした。結果は誰も勝てずに授業終わりのチャイムが鳴った。

試合内容は、能力さえ当てる事が出来ずに距離を詰められ終わり。その繰り返しだった。


面白いぞ。本当に面白くなってきた。能力は奥が深い。家に帰って実験しよう。

僕は期待に胸を膨らませ、先生を見つめると――先生と目が合った。

「…?」

よくわからないが、先生もこっちを見ていたと言う事が気持ち悪かった。池田君にハグしてたし。






---

学校が終わり、侑太と家に帰る。


「あの先生強えーよ!流石アメリカから来ただけあるよな!マトリックス越えてるんじゃね?」

侑太の驚きに僕も共感する。


「確かに凄く強かった。でも、まだ余力を残してるような気が…」


「まぁな。生徒に本気は出さないだろうし」




能力の話に華を咲かせながら帰り、途中で侑太と別れ、僕は真っ直ぐ家に向かって足を進ませた。

もうすぐ家につく。帰って母の能力でも聞いてみようと考え、鼻を擦る。




家の前に着いた。電気は付いているのにやけに静かだ。

今日は家族みんな家に居るはずなのに…どこかに出掛けて居るのかな。でも電気が付いてる。



不思議に思うが、深くは考えず家の鍵を開ける。



きしんだ鈍い音を立てながら廊下を歩き、左手側にあるドアに向かい立つ。





ドアノブを握り、ゆっくりと回す。











「ただいま」










――返事は帰ってこなかった。何故なら、人が死んでいた。








真っ赤。リビングの壁、床、机、全てが真っ赤。








何故。







何故。何故。頭が真っ白になる。







胃から食べた物が逆流してきた。






床に倒れてる死体は二つだ。原型もない。母か父か姉。3人の内誰かが2人死んでる。

誰が死んでるのか考えたくもない。

ダメだ。動けない、足が震えてる。








なんでなんでなんでなんでなんで






―――何処からか声がした。

声がした方に顔を向けるとテレビが付いていたが、真っ暗で何も映っていない。









すると






「やあ、地球のみなさんこんにちは。宇宙の神です。



君たちに能力を与えたのは僕です。嬉しかった?良かったね。おめでとう。


さっそくだけど、1週間後に君たちの世界に魔王が現れるからそれを倒してね。

明日から魔王の手下も送るからねー。頑張れー。


あと。能力を使って人を傷つけられないってのは強制的に解除したから、これからは人を殺せるよ!そんなつまんないルールなんて面白くないでしょ?誰がそんなの"付け加えた"んだよ。じゃあ頑張って。またねー」








テレビが切れた。


機械音のような声が途絶えたが、まだ頭に響き続けている。

もう何も考えたくない。意味がわからない。なんだよこれ、なんだよ!








外へ出た。





色んな家から悲鳴が上がっていた。







――僕は走った。追われてた訳じゃない、ただこの現実から逃げたかった。

死と言うものを初めて体験した。何が怖いのか。何で走ってるのか。そんな事はどうでもよかった。

涙も流す暇も無く、体中の穴から液体を垂れ流し僕は走った。何故こうなった。

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