第6話
昼休みに渡り廊下を歩いていると、着信バイブが鳴った。僕は足を止めてスマートフォンをタップする。
『その望みを叶えましょう』
朝にお願いをしたメッセージに対する返事らしい。
なんで今頃?
そう思いながら、ふと顔をあげると上級生のフロアで、先輩と彼氏が口喧嘩をしているのが見えた。声は聞こえないので何でもめているのかはわからないが、彼氏のそばに別の女がいてもめているようだ。
他にも付き合っている女がいることがばれたのだろうか。彼氏に掴まれた手を振り払って先輩が走って行った。ちょうどすれ違った担任が先輩を追いかけて何か言っているのが見える。廊下を走るなとでも注意しているのだろうか。
まさか。本当に願いが叶ったのだろうか。
僕は興奮していた。願いが叶うという噂は本当だったのかもしれない。着信バイブが鳴った。
『メッセージボトル・カウンセラーです。何かお困りではありませんか』
今度は躊躇しなかった。ずっと願っていた言葉を入力する。
『先輩と友達になりたい』
本当は恋人になりたいと書きたかった。でもいくらなんでもそれは無理なのは自分でもわかっていた。だからせめて友達になりたい。そう思いながら送信ボタンを押した。
『その望みを叶えましょう』
いつもと違って、メッセージには続きがあった。
『彼女の好きな漫画をダウンロードしておきました。原画展が明日から開催されます。チケットをご予約いたしましたので誘ってみてください。部活を終えた直後がチャンスです』
画面にはチケットを予約完了したという表示が出ている。料金は父親からもらったクレジットカードの番号を使って引き出されているようだ。勝手にお金を使われるのはあまり気分がいいものではなかったが、どうせ自分の金ではない。先輩のために使えるのなら、いくらでも使いたいぐらいだ。
『どうしても無理な場合は、こちらの切り札を使ってください』
画面には新しい画像が表示された。『イケない地下アイドル』というウェブサイトのタイトル部分だけが見えている。切り札というのはどういうことだろうか。よくわからない。
『ファンだと伝えれば、それだけで効果があるはずです。では頑張って下さい』
もし自分一人ならこんなことは考えもつかなかった。誘う勇気もなかっただろう。
なぜだかわからないが、今の自分ならできる気がした。やらなければならない気がしていたのだ。悲しみに暮れているであろう彼女を救えるのは僕だけだ。
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