第87話 表彰式 1



魔獣ヴァイスヴォルフを従える黒髪で黒い瞳の青年と、その仲間の女の子達。


パレード開始直前に起こった珍事‥‥‥ 白狼ロルフがこのペンドラゴに来て、この青年達と一緒にパレードに参加しているという噂はあっという間にペンドラゴ中に広まった。


それを証明するかの様に、第2城下街通じる2つ目の巨大な門を潜り、第2城下街に入ると先程よりも大きな歓声が俺達を包み込んだ。

まるで大気が震えているかの様に、ビリビリとした振動を確かに感じた。


ヴォォォォオン〜!!

「すげぇ! 本当にヴァイスヴォルフを従えてるぞ!」

「見ろよ先頭を歩くあの男! 若いのに貫禄が有るじゃねぇか!」

「カッコいい‥‥‥ 」

「おぉ! あの金髪の女の子達、凄く可愛いぞ!」

「ありゃエルフに獣人それに龍人か! 一体何者なんだこいつ等」


周囲からは様々な賞賛と驚きの声が聞こえる。


ある者はお洒落をしたロルフの姿に驚きつつも頼もしそうに。 またある者は、セシル達の可憐な姿に溜息を漏らす。

またある者はこの国では珍しい種族のマリアやレーヴェ、ドラルを見て興味深そうな声を上げている。


その中でも俺に対する声が圧倒的に多い。

俺が自意識過剰なのではない。

明らかに俺に対する様々な感情が混じった目と声が至る所から聞こえる。


自惚れが入るが、当然と言えば当然か。

何せ俺はこの世界では珍しい漆黒の髪と闇の様な真っ黒な瞳を持っているし、傍らには白い鬣を靡かせ、サーベルタイガーの様な鋭い犬歯を見せるヴァイスヴォルフことロルフがトテトテと寄り添う様に歩いている。


それに加えて、エルフや獣人そして龍人を引き連れている俺は、集まった皆から見れば異様な人物だと思われているに違いない。


ま、中には俺やマリア達の外見に好奇の目を向けて居る者も居るには居たが。


「ん? ねぇ、ミカド! 前の方に誰か居るよ」

「え? あ、あれは!」

「ミカドさん、セシルさん、ドラルさん、レーヴェさんそしてマリアさん。お待ちしていましたよ」

「ユリアナ様!」

「ゆ、ユリアナ様!?」


セシルが馬の上から声をかけて来る。

そのセシルの目線の先に白馬に跨り、鎧を纏った一団が俺達の先に立っていた。

その人達は百合と戦乙女の刻印が彫られた光り輝く鎧を身に纏い、鎧と同様百合と女性のエンブレムが描かれた旗を持っている。


そしてその一団の先頭に立つ一際綺麗な女性は、周囲を取り囲む人達とは違い豪華な装飾が施された軍の制服を着ており、優しく微笑みながら俺達を出迎えてくれた。


その女性はラルキア王国第1王女。

戦乙女の異名を持つユリアナ・ド・ラルキアその人だった。

ユリアナは俺達の名前を噛みしめる様に、其々の顔を見ながらそう言った。


「ユリアナ様! なぜ此処に! 」

「私は別に馬上での会話でも良いのですけど‥‥‥ ごほん、実は先程、近衛兵の方からミカドさん達がヴァイスヴォルフを従えながらパレードをしてると報告を受けたのです。

ヴァイスヴォルフは気高く、決して人に懐かないと言われているので少しでも早く一目見たくて‥‥‥ 居ても立っても居られなくなり、父上にお願いしてお出迎えさせて頂きました」


沢山の市民が居る手前フランクに話す訳にはいかず、王女の前で馬上からの会話は失礼だと思った俺達は慌てて馬から降り跪いた。

そんな俺達とロルフを見たユリアナはワザとらしく咳払いをし、戯ける様に静かに微笑んだ。


うん、可愛い。


と言うか、ヴァイスヴォルフは気高く人に懐かないねぇ。 僅かな間とは言え、ロルフと一緒に生活していたのだがそんな事全く感じた事がない。


あれか、小さい頃からノースラント村の皆や俺達と触れ合ってきたから、人と言う存在に抵抗が無いのかな。


「それに私の友達になってくれたミカドさん達の晴れ舞台ですから、ちゃんとお祝いしたかったんです。

それと改めて‥‥‥ 先日は私と父上を助けてくださり有難う御座いました。

それに私は2度も貴方方に救われた事になります。心より感謝します」

「ユリアナ姫殿下が2度も命を救われた‥‥‥ ?」

「あ、もしかして少し前噂になったヤツじゃ!」

「まさか、ユリアナ様が襲われたっていうアレか!? まさか本当だったなんて‥‥‥ 」

「と言う事は、あの黒髪の奴等! 2度もユリアナ様を助けた事になるのか!!」

「す、すげぇ! 本当にすげぇぞ!」

「あんた達はこの国の英雄だ!!」

「ユリアナ姫殿下を救ってくれてありがとう!!」


跪く俺達にペコリと頭を下げたユリアナを見て周囲の人達は騒つき、小さな声で耳打ちしあった。 そして暫くして喧騒が静まると、割れんばかりの大喝采が巻き起こった。


「あ、あわわわ!?」

「凄い事になった‥‥‥」


周囲はまさに狂喜乱舞の大熱狂。

この市民達の反応を見るだけで、ユリアナがどれ程皆から慕われ敬われているのか良く分かる。

ユリアナも集まった皆を慈しむ様に見渡した。


「ふふ、皆さんもミカドさん達を歓迎してくれているみたいですね。

パレードを止めて申し訳ありませんでした。ここからは私がラルキア城までご案内致しますね」

「そいつは身に余る光栄だ。是非とも!」

「おぉぉ! ユリアナ様と歩けるなんて最高だ!」

「よ、よろしくお願いしますユリアナ様!」

「ん。これは一生自慢できる‥‥‥」

「よ、よろしくお願いしましゅ!」

「あらあら‥‥‥ セシルさん、大丈夫ですか?」

「は、はひぃ!」

「まぁ、セシルは慣れない事してて緊張しちまってるんだよ。慣れれば直ぐ落ち着くさ」

「なら良いのですけど‥‥‥ セシルさんもそこまで肩に力を入れなくて大丈夫ですよ。さぁ行きましょう!」

「おう!」

「わ、わかりましゅた!」

「「「はい!」」」


ユリアナの提案に嬉しさを噛み締めながら再度馬に跨る。

そして熱烈な賛美と羨望の眼差しを一身に受けながら、ラルキア城までユリアナと護衛の戦乙女騎士団と一緒に行進した。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「ユリアナ様お帰りなさいませ! 皆様もよくぞいらして下さいました!」


第2城下街を通り抜けラルキア城のお膝元、第3城下街に入る門を潜り歩く事数十分。 俺達は所々戦の爪痕が残ってはいるが、荘厳な佇まいのラルキア城に到着した。

ラルキア城の前に着くと、近衛兵の鎧を着た兵士数名が綺麗に揃った敬礼をしながら丁重に出迎えてくれた。


「はい、ただいま戻りました。それではミカドさん、私は表彰式の用意がありますので一旦失礼しますね。

後はそこの近衛兵達の指示に従って下さい」

「わかりました。お出迎えわざわざありがとうございました」

「いえいえ、それではまた後で会いましょう。戦乙女騎士団ワルキューレ・リッターオルゲン! 行きますよ!」

「「「「「はっ!」」」」」


ペコっと頭を下げ、出迎えてくれたユリアナに礼を言うと彼女は戦乙女騎士団ワルキューレ・リッターオルゲンと数名の近衛兵達を引き連れて一足先にラルキア城へ入城した。


「ミカド様、この後なのですが本来なら謁見の間にて先のベルガス反乱の際の表彰を行う予定だったのですか‥‥‥ その‥‥‥ 一緒にいらっしゃったヴァイスヴォルフからミカド様が目を離すと不安が残るとゼルベル陛下がおっしゃり、表彰式は急遽ラルキア城の中庭で行う事となりました。

付きましては中庭まで我々が案内させて頂きます」


ラルキア城の中庭‥‥‥

もしかしてこの中庭と言うのは、俺達がベルガスを追いかけて追い詰めた薔薇が咲き誇っていたあの場所の事か?


確かにあそこなら広さも充分だし、一応屋外だからロルフも一緒に居る事が出来るな。


「わかりました。それと予定を乱してしまい申し訳ありません‥‥‥ 」

「いえいえ、お気になさらずに! ヴァイスヴォルフの登場は少々驚きましたが、人に懐いた魔獣を見たのは初めてなのでむしろ大変興味深い位ですよ。 では、こちらになります」

「そう言って貰えると助かります。案内よろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いします!」」」


ラルキア城前に残った俺達に近衛兵の1人が歩み寄り、礼儀正しい口調で話しかけてきた。


流石ゼルベル陛下お抱えの近衛兵と言うだけあって、その佇まいや雰囲気は他の兵士とは一線を画すものがあるな。

この人は近衛兵と言う立場に強い誇りと、武術に確固たる自信があるからこそ、このロルフを見ても余り動じないのだろう。


俺とまだ緊張しているセシル、そして気持ちの良い笑顔を浮かべるマリアにレーヴェ、そしてドラルはこの近衛兵の人に案内されユリアナから遅れる事5分後、ラルキア城に入城したのだった。



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俺達がラルキア城の中庭に案内されてから約1時間後。 パレードに参加していた部隊の代表全員が中庭に集合し、一様に跪きながらゼルベル陛下の登場を待った。


この中庭はやはり以前ベルガスを追い詰めた、あの薔薇が咲き誇る場所だった。

そんな薔薇庭園と言っても差し支えない中庭の端っこ‥‥‥ 人目に付きにくい中庭の一角にポツンと小さな碑石が立っていた。


あの碑石は‥‥‥


「ゼルベル陛下、ユリアナ第1王女、ローズ第2王女のおなぁりぃい!」

「「「「「っ!」」」」」


ひっそりと佇む碑石を見て眉を下げる。

すると、カツカツと靴音を鳴らして中庭に姿を現したゼルベル陛下の執事、ギルバードさんが姿を見せ、声を張り上げる。


ギルバードさんの声が響いたその後、近衛兵と戦乙女騎士団に護られながらこの国の王、ゼルベル・ド,ラルキア国王陛下と先程別れたユリアナ、そして名前と同じ薔薇色のドレスを着たローズが姿を現した。


良かった。ローズはベルガスの催眠魔法にかかっていたが、その後遺症等はないみたいだ。


ギルバードさんが現れると跪く軍の面々からピリッとした空気が発せられる。

その静かな気迫に俺は微かに身震いしながら頭を下げた。


「ほぅ、 本当にヴァイスヴォルフが居るな。 しかも礼儀正しく座っている姿を観れるとは 」


薔薇庭園に急遽置かれたのだろう豪華な椅子に座ったゼルベル陛下は、俺の隣で大人しく座っているロルフを見ても興味深そうに息を吐いた。

その声からは恐怖は感じず、むしろロルフに興味と好感を持っているように感じた。


「皆、表を上げよ」

「「「「「はっ!」」」」」

「本来の予定とは大分変わってしまったが、ただいまよりベルガス反乱の際、武功を挙げた皆を功績を讃え、ここに表彰式の開始を宣言する!」

「「「「「ははっ!」」」」」

ワォォォォオン〜!!


ゼルベル陛下の迫力ある宣言の元、今日の本題である表彰式が始まった。


まるで俺達を祝福してくれているかのようなロルフの嬉しそうな遠吠えが雲ひとつない青空にいつまでも響いていた。




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