激動
第54話 準重要案件
「門番さん! 何かあったのか!?」
俺とセシル、マリアにレーヴェそしてドラルは、真横を猛スピードで馬に乗り駆け抜けていったギルド職員の後を追って息を切らせながら、ノースラント村ギルド支部に向かった。
そしてギルドの門の前に着くと、顔見知りになっていた門番さんに話しかける。
門番さんが妙にソワソワしている辺り、結構な大事の可能性がある......
「あ、あぁ...... 俺達にはまだ詳細は知らされていないが、さっきウチの職員が【準重要案件】があるとか言って、馬鹿に焦りながら走っていった...... 何か大変な事があったのは確実だな...... 」
「【準重要案件】...... 分かりました...... 」
「ミカド...... 」
セシルやマリア達が不安そうな顔で俺の様子を伺う。
【準重要案件】と言う呼び方だけでも、何か大変な事が起こったのだと分かった。
「とりあえず中に入ろう。アンナやミラが居たら詳細を聞けるはずだ。ロルフは悪いけど、ここで待っててくれ」
『ワゥ!』
セシル達はコクリと小さく頷いた。
俺達はロルフを外に待たせてノースラント村ギルド支部の扉を開ける。
ギルド支部に入ると、室内は右に左にと忙しなく走り回るギルド職員や、なんだなんだ? と首を傾げるギルド組員達でまさに蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
俺はそこで多数の職員に囲まれながら、何やら指示を出すノースラント村ギルド支部の副支部長ミラと、そのサポートをしているアンナを見つけた。
「ミラ! アンナ!」
「ん? あぁ、ミカドか...... 」
「こんにちは皆様」
ミラ達が職員に指示を飛ばし、周囲に職員が居なくなったのを確認した俺は一息ついていたミラとアンナに声をかけた。
2人共、何時もの様に挨拶を返してくれたが、その顔には疲労や焦りが微かに見て取れた。
「何かあったんですか? さっき門番さんが【準重要案件】があったって言ってましたけど......」
「アイツか...... また勝手に......まぁ、この件はミカド達にも関係がある事だからな...... 」
セシルの問に、ミラは小声で何か呟いている。
「そもそも【準重要案件】って一体なんなんだ?」
「うむ...... この件はミカド達にも関係がある事だからな...... 特別に順を追って説明してやろう......
まず、【準重要案件】とはギルドに来る各種報告、案件の通称の1つで、重要度の低い物から【通常案件】、【速達案件】【準重要案件】【最重要案件】の4つから成る。此処までは良いか?」
「おう」
「では続けるぞ。まず【通常案件】は、特に緊急性を要しない各ギルド間での依頼状況や各種書類のやり取りなどの報告......
【速達案件】は、そのギルドが置かれている地域で危険度の高い魔獣が出現した等、急ぎ各ギルド支部に伝えなければならない際の報告。
【準重要案件】は、その置かれているギルドの周辺地域で凶悪事件等が発生した際に来る報告。
そして【最重要案件】は、そのギルドが置かれている国そのものに関わる大事件が発生した際に来る報告だ。
だが、この【準重要案件】と【最重要案件】が発令された事は滅多に無いのだが...... 」
「つ、つまり、さっき来た【準重要案件】はこの辺りで何か凶悪事件が起こったから、ギルドの人が報告に来たって事ですか......?」
「あぁ...... そういう事だ」
ミラの説明を聞いていたセシルが恐る恐る発言する。
その発言に小さく、そして悲しそうに頷くミラが普段とは違い凄く弱々しく見えた......
「それに俺達が関係あるって......」
ミラはさっき、この件は俺達に関係があると言っていた。
どういう事だ?
俺達に関わる凶悪事件が発生した...... 心当たりがあるとすれば、先日マリア達を助けた事だけだが、俺達は知らない内に何か事件に巻き込まれていたのか......?
ま、まさか......!?
「
「はい...... 」
「「「 ......!」」」
「そんな...... 」
もしや...... と思い、口に出した言葉に今度はアンナが小さく肯定した。
まさかとは思い口にしたが、嫌な予感が的中してしまった......
さっき感じた嫌な予感はこれかの事か......
「何があったのか教えてくれ」
「はい...... 我々ギルドは昨日、ミカド様から預かった手紙を、ここから西南の方角にある孤児院
そこで、手紙を届けに向かったギルド職員が...... その...... 」
何があったのかを説明していたアンナが、急に言葉を濁して俺の後ろに控えるマリア達をチラチラと見た。
もしかしたらマリア達の前では言いにくい事なのかもしれない......
俺もアンナの視線に促される様にマリア達を見たが、マリア、レーヴェ、ドラルは覚悟は出来てるという様に真剣な目で頷いた。
「マリア達は大丈夫だ...... 話してくれ」
「分かりました......
白骨化した複数の死体と、炎に焼かれ、廃墟と化していた
「なっ...... !」
「死体は全て
「恐らく
「酷い...... 」
「何でそんな事を...... 」
「くっ! 」
「 ...... 」
セシル達が其々言葉を漏らす......
特にマリア達は今にも泣き出しそうな雰囲気だ......
無理もないだろう...... まだ顔を見た事はなくとも、自分達と同じ様に孤児院で平和に暮らし、数日後には一緒に暮らすはずだった子供達が襲われ、誘拐されたかも知れないのだ。
許せない ......
こんなの人間のする事じゃない!
「実は、今回の様な事件はこれが初めてでは無いのです...... 」
「なん...... だって?」
「ここ半年。このノースラント村周辺だけでも孤児院が襲われた事案は、
誘拐事件も含めれば両手では足りない位確認してます...... こう言った事件がラルキア王国全土で多発していたのです......」
「その全てに当てはまるのが5歳から10歳前後の子供を誘拐している事だ......
私達はこの情報を知ってから、警務局と合同で村周辺の警邏を強化していたんだが、余りの事件の多さにギルド本部は遅まきながら準重要案件を出したんだろう......」
「さ、先程届いた準重要案件の内容は、各地で誘拐事件が多発しているから気をつけろ...... って事ですか...... ?」
「ドラル様の言う通りです...... 」
「っ!」
俺はあまりの衝撃に絶句してしまった。
この国全土でマリア達の様に襲われ、誘拐される事件が多発していただと!?
しかも孤児院で働いていた先生や職員は殺させている......
俺の心の奥底で、マリア達を拐った奴隷商人達を見た時の様なドス黒いモノが広がっていく。
何とかして冷静になろうと努めていると、違和感に気がついた。
なぜこの事件の犯人は年端もいかない子供達を拐ったのか?
それに、人間大陸でも屈指の領土を持つこのラルキア国の至る所でこの様な事件が起きている...... という事は犯人は複数犯......しかも子供ばかりを狙う計画性...... 犯人はそう言った明確な目的意識を共有し、組織立って行動している可能性が大だ。
今にして思えば、マリア達を拐ったのも、この事件に関わりがある様に思えてくる。
だが、なんでそんな事を‥……
『ヴァウ!!』
「ん? ロルフ......?」
心に浮かぶドス黒いモノを沈めながら思考にふけっていると、外からロルフの殺気が籠った叫び声が聞こえ、俺は一旦考える事を中断した。
バン!!
「ほ、報告! 報告! 緊急事態です! ラルキア王国内の各ギルド支部や、ラルキア王国軍駐屯地で複数の爆発が確認されました!!
それに伴い、ギルド本部からラルキア王国内の全ギルド支部宛に【最重要案件】が発令されました!!」
ロルフの叫び声が聞こえた次の瞬間、入り口のドアが勢い良く開け放たれ、顔面蒼白のギルドの制服を着た男性が、体勢を崩しながら室内に駆け込んできた。
「ば、爆発!?」
「最重要案件だと!?」
アンナが驚きの声を上げ、手に持っていた書類が音を立てて落下した。
その横では、ミラが目を見開いている。
最重要案件...... さっきミラが説明してくれたギルドに来る報告の中で最上位の物で、最も優先される報告だ。
これはそのギルド支部が置かれている国に重大な事件が起こった際に来る報告らしいから、この最重要案件が来たという事は、ラルキア王国にとって何か重大な事件が起こったという事になる......!
俺やセシル達を始め、爆発という単語を聞いたギルド職員やギルド組員は騒めき立った。
「くっ! 各ギルド支部や軍駐屯地で爆発...... 支部長は! 支部長はまだ戻らないのか!?」
「ギルド支部・支部長会議が長引いているのかもしれません! 最悪、支部長会議をしているローデンラントギルド支部も爆発の被害にあっている可能性も!」
「っ......! 王国軍との連絡は!」
「現在、爆発の影響と各ギルド支部からの状況報告等の連絡、問い合わせが相次ぎ、最寄りの軍駐屯地は混乱!
西司令部の指揮系統も混乱しているとの事!」
準重要案件が来ててんやわんやになっている所に、更に重要度の高い最重要案件が来た事で、普段はクールなミラやアンナも流石に動揺し声を荒げている。
その動揺に感化され、最重要案件の報告に来たギルド職員も軍の詳細を報告する声が徐々に大きくなっていっている。
だが、各地のギルド支部トップが居ないこのタイミングでの爆発事件......
どうもタイミングが合い過ぎている......
「なら、今は私がここの最高責任者か...... おい! 最重要案件の詳細は!」
「は、はっ! 昨日夜中から、本日明朝にかけてラルキア王国内に点在する各ギルド支部、並びにラルキア王国全土の王国軍駐屯地でも多数の爆発が確認された模様!
ギルド本部、ラルキア王国首脳部はこれを敵対勢力の撹乱、攻撃行為と断定しゼルベル国王陛下は軍、臣民へ【国家防衛戦闘態勢】を厳達されました!
これによりギルド本部は【ギルド条約第2項第1条】を発令!
各ギルド支部は被害拡大を防ぎつつ、担当区域のラルキア王国軍と連携を図り治安維持に勤めよとの事!」
「【国家防衛戦闘態勢】に【ギルド条約】まで発令だと!? 王国軍総司令部からの正式な指示は無いのか!」
「未だありません! 代わりにギルド本部より爆発発生直前、現場に現れる人影に注意されたし...... との事!」
「人影......?」
ミラがそう呟いた瞬間、俺はギルドの入り口から何か嫌な気配を感じで振り返った。
「子供......?」
俺が振り返ると、入り口の前には6歳位の男の子が丸い【何か】を手にして立っていた。
「アルトン......?」
「本当だ...... !アルトンじゃねぇか......!」
「え!?」
俺につられる様に入り口に目を向けたマリアとレーヴェ、そしてドラルが何かを手にする男の子を見てその男の子の名前を呟いた。
マリア達は、この男の子は知り合いなのか?
だが、この危険な時になぜこんな幼い子が1人でギルドなんかに......
妙に疑心暗鬼になっているのか、見えるもの全てが怪しく思えてきてしまった俺は、アルトンと呼ばれた男の子が持っている物に目が止まった。
丸みを帯びた形状に凹凸の付いた表面...... 大きさは、ひと抱えもありとても大きいが、まるで俺が元居た世界で第二次大戦中、アメリカ軍で使われていた手榴弾...... 【マークll手榴弾】にソックリだ......
昨日から今日の明朝かけて起こった爆発事件...... 爆発直前に現場に現れる人影...... アルトンと呼ばれた男の子が持つ手榴弾の様な物......
っ! まずい!!!
「皆伏せろぉおお!!!」
「え?」
ドォォォォオン!!
俺が力の限り叫んだその瞬間。
けたたましい轟音が響き渡り、俺は庇うように抱き寄せたセシル諸共爆風で吹き飛ばされた。
ガン! と頭を壁に強打する。
俺はプツリと意識を手放した。
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