第四話 村一番の剣士

 くさの月が終わり、つのの月が始まった。春は近い。

 勇者一行ゆうしゃいっこう武勇伝ぶゆうでんは、辺境へんきょうのコチ村にまで伝わっている。

「お父さん、いいでしょう?」

駄目だめだ。町は危険がいっぱいだぞ」

 ミウナの父親は、娘を大事にしていた。

 朝食のあと、一触即発いっしょくそくはつの空気に包まれる、リビングルーム。十代半ばの娘が諦めないのを見て、母親が助け舟を出す。

用心棒ようじんぼうがいれば、大丈夫です。ね? モケスタ」

「オレ、ヨウジンボウ」

 ブタ顔の大男は、かなり言葉を覚えていた。

「村一番のけんの使い手にでもならない限りは、認めぬわ!」

「オレ、なる」

 即答したオーク。


「それで、ぼくにいどむと言うのか。オーク」

 普通の髪のカッテラは、けんの使い手だった。

 コチ村の中心部にある広場。木の板が敷き詰められている。

「オシえてくれ。タノむ」

 真剣な表情のオーク。

 頭を下げていると、若者が棒を手渡した。

「怪我をしないように魔法まほうが掛かっている、練習用の武器だ」

「アリガトう」

 二人は棒を持ち、すこし離れた位置で構える。

「落ち着いてー」

 おさげのミウナが言った瞬間に、勝負はついた。

 ブタ顔の大男は、呆けたような顔をしている。広場の外まで吹き飛ばされた、カッテラ。

 オークの一撃は重すぎた。


 カッテラは完治した。医者のナウラーの魔法で。

 オークは、免許皆伝めんきょかいでんあかしを手に入れた。ミウナと家に戻る。

「アカシと、ボウ」

 ミウナの父親は、ぐうの音も出なかった。

 皆伝かいでんあかしとともに、練習用の棒という名の、丈夫な武器を手に入れている。

「準備は、いいかしら?」

「はい」

「ジュンビ、いい」

「いってらっしゃい」

 ミウナの母親は、一瞬で高度な魔法まほうを展開。二人の姿が消えた。

「次は、弓をやらせるか」

 懲りない様子のモケスタに、イハナンは微笑ほほえんだ。


 町の外。ビオレチと書かれた看板がある。

 ミウナとオークは、看板の前に現れた。近くに人はいない。日差しが後ろから差していた。

 辺りには、平原が広がっている。風が吹き抜けた。

 ふわりとはためく、ゆったりとした布。フードのように、ブタ顔を隠す。

 普段どおりブラウスを着た細身の少女と、大柄おおがらの男。二人は町へと入っていく。

 その様子を、鎧姿よろいすがたの何者かが見ていた。


「実はね。お姉ちゃんを探してるの。私」

「おネエさん、いるのか?」

「うん。でも、どこにいるのか分からないの」

 すこし表情を曇らせた少女。

 それを見て、フードの奥のブタ顔も悲しそうになった。

「お父さんに反発して、出ていったけど、お母さんとは仲いいから」

「そうなのか」

「ずっと会えない、ってわけじゃないよ。たぶん」

「きっと、そうだ」

 話しながら、町の様子を眺める二人。


 大きな町だった。

 人であふれていて、広さもコチ村の倍以上はある。

 ビハレア平原の中心に位置している交易都市こうえきとし。ここには、あちこちから品物が集まっている。

 建物が多い。それでいて、木々も多い。水も豊富だった。

 突如、激しい音がひびいた。

 大通りを何かが吹き飛んでいく。幸い、怪我人はいなかった。

 一人のオークをのぞいて。


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