第百七十六話◆一年後……

ルインの杖から火球と雷球が好矢に向けて同時に発射した!……だが、コールブランドへ触れた魔法は消し飛ばされる。

好矢は「発動!」と叫んでコールブランドの切っ先からルインが使っていた衝撃魔法と似たような効果の無属性魔法を放つ!ルインを怯ませて確実に突き立てるつもりで放った魔法だったが、ルインが杖で防御態勢を取ったため杖を弾き飛ばした!


……だが、そんなルインの元へ新しく杖が飛んできた!


ザクッ――!!


「魔法伝導550!破壊魔法……発動ッ!!」コールブランドは沙羅が復活した時と同じ、先程よりも強烈な光を発した!


「このまま死ぬわけにはいかんッ!!魔法伝導発動!!」そう叫ぶルインは近くに落ちていた杖を拾って防御魔法を発動させる。

少し離れたところには意識を取り戻したロサリオが何とか立っていた……ルインが使った杖はロサリオの杖だったようだ。


不味い!身体中の魔力が吸い取られる……!!魔力がもう足らない……!!

「くそっ……!!」

そう呟くと突然、コールブランドがバチバチと拒否する音を鳴らしだした!

柄を見ると、誰かが横からコールブランドを掴んで魔力を流している……横に目をやると、沙羅だった。


「好矢くん……私の魔力も使って……!コイツを退するのよ……!」フラフラの沙羅がいた。


そして、破壊魔法に必要な魔力を流し切ると……


「ぎ……ぎゃあああぁぁぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁッッッ!!」鼓膜が激しく振動し、とてつもなく大きな声である事を知らせる悲鳴。


そんな声が段々と聞き慣れてきた頃にはルインが「なんで……なんで……魔法が弱まっ……」と言いながら段々と身体を溶かしていった……


邪悪なる者が完全に消滅してから流れる数秒……いや、十数秒の沈黙……


「へ…へへ……馬鹿め……」ロサリオは近くで力なく笑う。


「……どうしたんだ?」


「最期にあの野郎が使った杖……何なのか知ってるか?」


「いや……」必死だったし、そんなものを見ていられる余裕など無かった。


「あの杖、俺の杖なんだよ。さっきまでの俺は自分の力不足に嘆いて杖を投げたんだが……あの馬鹿が俺の杖を使うとは思わなかった……」そう言いながらロサリオは続けた。

「俺はバルトロの町を出た時からずっとあの杖を使っていた。……あれは、試験用の杖。魔法伝導率50%の魔導士にとってはただのゴミだ。魔法伝導で発動すれば魔法の威力は半減する。防御魔法が弱まったんだよ」


「だから、奴は魔力が弱まったみたいなことを呟いてたのか……」


好矢が言い終えたところで、ドームに亀裂が走った。


「ん……?」


次の瞬間、パリィィィンッ!という音が鳴って、ドームが割れた!

一気に明るくなる視界……「うっ……!」さっきまで、なぜか視界が良好な暗黒の世界にいたのだ。

外の光を浴びた好矢は思わず目を細めてしまう。


「トールとサラさんと、ロサリオが立っているぞ!……他は倒れてる!!」ガブリエルが叫ぶのが聞こえた。


「教官!魔導通話で医者を呼べ!急げ!!」シルビオは出会った頃の強い意志のある赤い瞳で教官達に指示を飛ばした。


それを聞いて、体力も魔力も限界を迎えていた好矢は意識を失った。

誰一人として命に別状は無かったものの、邪悪なる者を倒すには、天才と呼ばれた魔導士達、九人の力を以ってしてもギリギリだったことが容易に想像出来る。




―――― 一年後。




「アンサ、案内を頼む」


「構わんが……本当に一人で大丈夫なのか?」アンサは確認をする。


「もちろんだ……魔力検査用のイスでしっかりと能力を見てきたさ」そう言って依頼の遂行の為にアーギラ黒山へ登る好矢は魔導士ギルドでもらったカードを見る。



名前:刀利 好矢 所属:エイルシェード王宮

職業:宮廷魔導士 趣味:草むしり・魔物狩り

魔力:27814

使用可能魔法属性:水・氷・風・雷・土・光・植物・金属

使用不可魔法属性:火・闇

得意魔法属性:植物



「ヨシュア、お前の飽くなき強さへのこだわりは何なんだ?」


「もっと強くないと沙羅を守れないからな……それに、魔力量だけで言えばサミュエルに抜かれて久しい」


「あいつはもうアグスティナ四天王の一番手……虚無の魔星……リーベルと一騎打ちして勝ててしまう上に、純粋に魔導士としての実力もサイラを凌ぐなんて有り得ないと思っていたが……」


この一年の間、邪悪なる者を倒した皺月の輝きは解散した。

今の好矢は、その功績により人間族の王から直々に呼び出され、王都エイルシェード王宮の宮廷魔導士。


沙羅は好矢と共に同じくエイルシェード王国に住む、専業主婦。


アウロラは魔王都ガルイラで魔導兵へ戻ったのだが、皺月の輝きの功績で魔導軍二佐へと昇進していた。多くの兵に指示を飛ばせる立ち位置だ。


ロサリオもアウロラの口利きでガルイラの魔導兵に入軍したが、今の立場は上等兵だ。風に乗って飛ばされたMM曰く、二人は結婚したらしい。


メルヴィンは魔法や弓だけではなく、心も強くなった為、第二王子の立場であったものの父親から王位を継承し、そこへ嫁として迎えたのはエルフ族ではなく、龍神族のガリファリアだった。

メルヴィンは彼女を嫁としてエルフ族のロスマへ迎えたのだ。これにはロスマの国民もかなり驚いており、大々的なニュースになった。

そもそも絶滅したと言われていた種族の女性がエルフ族へ嫁いだのだ。存在自体がニュースである。


ダグラスは未だ独り身でイストリアテラス騎士団長兼マフィア首領の立場は同じまま、毎月テッコーの町の武器屋へ寄って、ダラリアに武器のメンテナンスをしてもらっている。


ダラリアは毎回ダグラスにアタックしているようだが、ダグラスは可愛い妹のように見ていて、中々理解してもらえないらしい。


オルテガはガルイラ軍を辞めてアグスティナ軍へ入らないかとエルミリア直々に誘われた。そして彼はガルイラ軍を辞めたのだが、アグスティナ軍へも入らず、ハンターとして生きる道を選んだらしい。

今はどこで何をしているのか、当時の仲間は誰も知らない。


エヴィルチャーの爺さんはどこで何をしているのか分からない。ある時から姿を消した。どうせどこかで悪事を企んでいるだろう。また会ったら釘を刺しておくべきだろう。



そしてサミュエルは、先程話題に出た通り、アグスティナ四天王一番手を名乗る事を許された。

現在の魔力数値は37935。三番手のサイラよりはずっと下だが、上級魔導語を好矢や沙羅と同じクラスで扱える為、あの無双の剣神リーベルですら魔法二発で倒れるという化け物のような強さを有していた。

そんな一番手の権限で十分な発言力を手に入れたサミュエルは、エルミリアにある言葉を伝えた。

それは「好矢先輩がいた皺月の輝きのメンバーがいる国は襲撃せず、それらの国との和平協定を提案します」だった。


この発言はエルミリアの怒りを買ったが、彼は意志を曲げず、レディアやリーベルも納得していた為、力なくエルミリアはその条件を認めた。


皺月の輝きが掲げた目的である戦争根絶は、好矢の意志を継いだアグスティナ四天王のサミュエルによって果たされた。


ちなみに、サミュエルと今では四天王四番手のレディアは結婚した。

意外かもしれないが、サミュエルの方からアタックした。結婚式にはサミュエルの実家の家族、レディアの両親、そしてアグスティナ魔帝国軍の幹部たち……そして皺月の輝きと怪光一閃、さらにはトーミヨ時代に仲良くしていたグレンとドリスの二人も祝福してくれ、かなり賑やかな式になった。


「……ここを真っ直ぐ進めば、アーギラ黒山の頂上だ」アンサはそう言って、飛び去って行った。


エイルシェード王国の美食家がアーギラ黒山の頂上に生息する魔物の卵の黄身がほしいと言っており、その報酬額が100万コインだった。

その為、エイルシェードから南下した先にあるアーギラ黒山へ出向いているというわけだ。


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