第百三十九話◆悪喰の魔物バハムート

「くふふ…うははははは!!実験は成功じゃ!!」髪はボサボサの白髪のロングヘア。髭も長く伸び切っており、その髭も白くなっている。

顔は目が飛び出て、鼻が長く、耳がエルフのように尖っている……格好も所々が汚れた茶色いローブを着ており、どこからどう見ても浮浪者のような様相をした爺さんが目の前に広がる光景を見ながら高笑いをしていた。


その光景というのは、ゾンビの軍勢だ……。

彼は死霊術師という肩書きを名乗るエルフ族の一人……元々はパルセニア市国民だったが、死人を生ける屍にしてみせたり、町に死人が出た時、その死体を家に持ち帰ったり…

さらには、墓を掘り返して微生物に分解されている最中の死体までもを家に持ち帰ったりし“異端者”と呼ばれて、島流しにされた。


ちなみに“島流し”と言っても、本当に島へ流れつかせようとしているわけではなく、純粋にバハムートの生贄にする為に海に投げ捨てられていたということだ。

しかし彼は、海の波によって悪運強く再びこのハルティート大陸に押し戻されていた。そして自身を島流しにしたパルセニア市国の人種族へ復讐を企てていた……。



北西地区――サイエルの家。


「――と言った理由で、船が欲しいんですが…用意して頂けますか?」死霊術師がさらなる作戦を実行中、メルヴィンはサイエルに対して船の手配を頼んでいた。


「事情は分かったけれど、この大陸の周辺はバハムートの棲家よ?無事に船が大陸に着けるとは思えないわ」


バハムートは“古代神魚”と呼ばれているが“巨大神魚”とも呼ばれている……。異常なのは、その巨大さだ。

ハルティート大陸の外周の一割以上を占める規格外のサイズをしており、よく大陸の周りを巡回しているのだ。


「ま、アンタ達がバハムートを退治してくれるっていうなら、まだ救いようはあるけどさ」


「そんな無茶な……」


「サイエルさんよぉ…俺たちを快適な部屋で過ごさせてくれた事に対しては、ものすごく感謝している……だがバハムートを倒すってぇのは不可能に近いぜ?」さすがにダグラスも言う。


「それを無茶というなら、船を出したって無茶よ……そもそも津波で攻撃されて済んで良かったわ。普通なら船ごと食われてるわよ?」

サイエルの言葉もごもっともだった……ロサリオが言っていた通り“詰み”である……。


「バハムートを倒すか、この地で永住をするか……もはやその二択なの。今すぐ答えを出せとは言わないけど……お二人のリーダーさんにはそう伝えてね」どこか寂しそうな表情を一瞬見せるサイエル。


「……分かりました」メルヴィンがそう言うと彼女は「ごめんね……」と呟いていた。



――ホテル大部屋。


「――というわけなんです」メルヴィンから説明を受ける好矢。


「……まぁ、言っていることは正しいか……」そう言って考え始める好矢。


「答えはすぐにでも出さなくて良いとのことですので、ボク達はとりあえず――「バハムートを倒す」」メルヴィンが話している最中に好矢は一言、確かにそう言った。


…………

しばしの沈黙の後……


「「「はあぁぁぁぁぁっ!!??」」」という声が部屋中に木霊した。

「おお、おま、お……お前、バハムートがどんな存在か知ってるだろ!?」ロサリオが明らかに動揺する。


「言っちゃあ悪りぃがヨシュア……さすがに俺たちの力で奴を倒すってのはちょっと……」


「……実を言うと、倒す必要はないんだ」好矢は言う。


「どういうことだ?」


「実は、お前たちがサイエルと話をしている間に、町の図書館に行ってバハムートに関する文献を見付けたんだ。その情報によると、奴は大陸の外周のおよそ10%以上を占める巨大な魚らしいんだ……。もし気絶させることが出来て、そしてバハムートを沖へ向かって真っ直ぐ伸ばすことが出来れば……あるいは……」

もはや、好矢の提案はアホな事を言っているようにしか聞こえなかった。


「仮にも“神魚”だぞ?上手くいったとしても、それはマズイだろ……」とロサリオ。


「そもそもさすがに、それはちょっと無理があるかと……」口数の少ないダラリアにまでツッコミを入れられてしまった。


好矢は深呼吸してから皆へ向かって一言。

「……俺たち、皺月の輝きの敵はなんだ?」


「戦争の終結」「差別の撲滅」「悪しき者を打倒」……皆は口々に言う。


「神とは元々、俺たちを見守ってくれる存在だと俺は理解している……。しかし、バハムートは俺たちが集まっている意義を丸ごと潰そうとしている……奴は神ではない。ただの魔物だ!」

メチャクチャなのに説得力を感じた好矢の言葉を聞いているメンバー。


「ただの魔物が、でかいって理由だけで神だの何だのと崇められているんだ……今こそ、悪喰あくじきの魔物バハムートの鼻っ柱をへし折ってやる!!」


今まで誰もがやろうとしなかった“バハムートと戦う”という行為……この世界の住人にとっては、もはや「“バハムートと戦う”何て言葉がこの世に存在したのか!」と関心するほどのものだった。


そうと決まれば早速準備に取り掛かることにした好矢たち。

「誰かバハムートの弱点は解るか?」好矢が仲間に聞くと、オルテガが答えた。

「アイツの弱点は雷属性と光属性だ」


「つまりは、簡単に言えば俺たちで雷属性や光属性を叩き込みながら、ダグラスにはミョルニルで電撃を出してもらう……といったところか」好矢がそういうとダグラスは首を横に振る。


「俺は魔法は苦手だ……」


「だから、ミョルニルで雷撃を出すんだよ」ミョルニルを見た時からひしひしと雷属性の魔力を感じていた。ハルティート大陸へ来て、アウロラ達を感知した時のように魔力感知をミョルニルにぶつけると、全身がピリピリと軽く痺れるような感覚さえあった。それと同時に、膨大な量の魔力を秘めていることも理解できたのだった。

完璧に使いこなせば、とてつもなく強力な雷撃が…失敗すれば、暴走して辺り一面が焦土と化すだろう。


「……そんなことが出来るのか!?」オルテガはダグラスのミョルニルを見ながら驚いている……


【あぁ、出来るぞ。寧ろ、電撃をまとった打撃攻撃が俺の一番のメインの戦い方だ】ダグラスの頭に声が流れ込んでくる。


「にわかに信じ難いが……本人?…というか武器が言うなら、そうなんだろうな……」これにはダグラスも意外だったようで、ミョルニルを眺めながらそう言った。


【まぁ…どうせお前程度の実力じゃ、俺の力をどうせ使いこなせないだろ】またダグラスへ喧嘩をふっかけるミョルニル。


「言いやがったな、ミョルニル!テメェマジでいい加減にしやがれクソッタレ武器が!!」


……また始まってしまった。

言い争いは、注意してもかなりの迫力で怒鳴り返されるので、収まるのを待つしかない。

というか……ミョルニルの声は実際には好矢たちには聞こえないので、ダグラスが一人でギャーギャー言っているような感じだ。


そんなダグラスを無視して、好矢は宣言する。

「近々作戦を立てて、とにかくそれを実行するしかない……やるぞ……!」


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