第百三十七話◆パルセニア北西地区

パルセニア市国は四つの地域に分かれており、一つの地域を統制するのが一人の市長……

そして、好矢たち四人がいるのがその中の一つ、テレンス・ルガードが統制するパルセニア北東地区だった。


全ての地区には均等に多種族が住んでおり、殴り合いの喧嘩は毎日どこかで起こるものの、基本的には皆仲が良い国だった。

北東地区にはいないらしいが、北西地区には多くの龍神族が住んでいるそうだ。

そして、アグスティナ魔帝国という国へ行こうとしていた所をバハムートに襲われた……という話を伝えると、他の仲間がもし生きてハルティート大陸へ流れ着いていた場合、

いるとしたら、その北西地区である可能性が高い……と言われた。


そもそも700年以上前からアグスティナ魔帝国は存在していたことに驚きである……。

日本は2600年を超える歴史を持つ国だが、“日本国”という名前になってからは100年も経っていない。

つまり“アグスティナ魔帝国”という名前の国が700年以上前から存在していることは、凄まじく長い歴史のある国家である可能性が高い。

確かに歴史書には“アグスティナ魔帝国”という文言が出てきていたわけだ……つまり、700年以上なので、1000年を超えている可能性だってあるわけだ。


好矢にとってはそれこそが恐怖でもある。

帝国という形を取り続け、そして他国に攻め入る強気な姿勢をずっと貫いているはずの国が最低でも700年以上は続いているのだ。

敵に回す国としては強大過ぎると、今更になって気が付いたのである……。しかし、もう引き返すことは出来ない。


再度仲間を集めて、戦争を終結させ、邪悪なる者を討ち取り、そして人種差別を無くす……。


言葉にすれば簡単だが、中々出来ることではない。


「テレンス……パルセニア北西地区へ案内してくれないか?」


「うむ……それは構わないが、一週間ほど待て……」


「何故一週間も……?」


使がパルセニアを訪れたのだ……警戒を少しでも解くためだ。騙したりはしないから、信じてもらいたい」


「あぁ……分かった。北西地区を統制している種族は?」


「エルフ族だ……」



パルセニア市国―北西地区。


「ふぅん……貴方がそのメルヴィン・バートかしら……」


「だから、そうだって言ってますよね……!」

先程から、身体をベタベタ触られている……自分の中で不信感が絶えないメルヴィン。


北西地区で一際大きな家の奥で二人の男女が話している…………。

一人は、メルヴィン・バート。そしてもう一人が、サイエル・ヘレン……北西地区の長だ。


「エルフ族領のエレニアンネ桜国おうこくがまだあったなんて…驚きだわ!」


「エレニアンネ……?ボクの出身はサヴァール王国です……。エレニアンネ桜国はもう存在しませんよ」


「桜国はどうしたの?」


「元エルフ族領のエレニアンネの一部は今、アグスティナ魔帝国の……上級魔族領です。残りのほとんどの地域はエルフ族領ですが……エレニアンネは首都が落とされましたから、必然的に国は亡くなりました」


「そうなの……ま、私達にとっては、どうでもいいわ!」ずいぶんとサラッとしているが、当然ともいえる。

故郷とはいえ、自分たちの祖先(というよりは父親)を見殺しにした国だ。心配してしまうこと自体が嫌なのだろう。


「……仲間たちの所へ戻ってもいいですか?」


「えぇ……面白い話は聞けたし、もういいわよ。……ありがとね!王子サマ!」投げキッスをしてくるサイエル……敢えて明るく振る舞っているのは解っている。

解っているからこそ、メルヴィンにとっては苦手なタイプだった。


――北西地区ホテル。

ここは、サイエルが手配してくれたホテルだ。

このホテルにヨシュアさん、アウロラさん、ロサリオさん、アンサさん以外の全員がいる。


沙羅さんはここのとこ三日間ずっとプリプリ怒っている……。

何でも「好矢がロサリオと私を見間違えたのを見た!」と言っていた……詳しく聞くとバハムートによる巨大津波に飲み込まれる直前の話らしい。

あんな状況だったし、少し間違えるくらいは仕方ないだろうと思ったが、当人にとってはかなり心にきたそうだ。


「おう、戻ったかメルヴィン。……おめぇも飲むか?」ダグラスさんはパルセニア製のビール…パルセビアーが気に入ったらしく、毎日飲んでいる……。

確かに、お酒がそれほど好きではないボクもかなり美味しく感じた。


「あ…いただきます」そう言ってメルヴィンはパルセビアーを受け取り、そしてグビッと一口飲んでから続ける。

「ヨシュアさんたちもこちらへ来ている可能性が高いそうですが……このパルセニアがどういう所なのかハッキリ解らない以上、迂闊に動くのは危険……ですよね」


「しかし、無事であるかどうかの確認すら取れていない……その確認が取れれば良いのだが――」ガリファリアの手元にMMが届いた。


「どうした?MMか?」オルテガに聞かれ、頷くガリファリア。


「誰から?」沙羅の質問に、皆がガリファリアに注目する。


「……! アウロラからだ!!」


おぉーっ!!

皺月の輝きのメンバーが借りてる部屋から六人の歓声があがる。


「ヨシュア、アウロラ、ロサリオ、アンサ…全員無事だそうだ!北東地区にいるらしいぞ!!」ガリファリアは嬉しそうに言う。


「良かった……!」沙羅は東の方角へ向かって言う。



――北東地区。


アウロラの魔力感知能力は、やはり凄まじいものだった。彼女にかかれば、大体の方角さえ解れば、そちらへ魔力を飛ばして感知することが出来る。

今回ガリファリアにMMを送ったのは、ガリファリアが特に魔力が高く、一番送りやすかったからだ。


しばらくすると、ガリファリアからMMが届き、アウロラは少しだけやり取りをした

『そちらこそ無事で何よりだ。私達も全員無事。北東地区から北西地区へ向かうつもりとのことだが……手はずは整っているのか?』


『魔法がないここにとっては、手紙を手渡しするしか無いらしい。よって、一週間ほど掛けて往復するらしい。その後、そちらへ向かうことになるはずだ』


『了解した。一日でも早く合流できることを祈っている』


仲間の無事を知って安心した好矢たちは、北東地区の旅館でしばらく休ませてもらうことにした。



「「綺麗な夜空だ……」」


好矢と沙羅は偶然にも、同時に夜空へ向けて手をかざしていた。


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