第百三十三話◆ロサリオの怒り

「奴も魔法を使うぞ!悪魔だ!殺せぇッ!!」髭を生やした初老の魔族が好矢を指差して言った。


魔法なんて誰でも使えるだろうに、何を言っているのか……?


ウオォォォォォーーーーッッ!!初老の魔族の発言をキッカケに凄まじい熱気と騒ぎが起こる……そしてその熱気を保ったまま、次々に武器を構えた人種族たちが襲い掛かってくる。

驚きなのは、エルフ族まで剣を装備して攻撃してくるということだ。もちろん弓を使って攻撃する人もいる。

本来のエルフ族は大多数が魔法がメインの戦い方をする……しかしこの場にいるエルフ族はおよそ半数以上が剣や槍などの武器で、残りは弓で挑んできているのだ。


好矢は魔力200使用して先読みの魔法を展開し、相手の攻撃をいなしていくが、相手の人数と素早い武器捌きに好矢は防ぎ切れず一歩足を下げる。


このままでズルズルいってしまうと人数の差で負ける……!そう考えているうちに好矢は囲まれてしまっていた。

しかし、囲まれていても問題はなかった。次にする行動は……


(強風……俺の周りから……尚、身体が向いている方向のみ風を発生させない…魔力180使用)「発動!」


ゴウッ……!という強い風の音が聞こえたと思えば、近くまでジリジリ来ていた相手は吹き飛ばされて木に激突していた!

魔法が期待通りの働きをしてくれていると理解出来た所で、攻撃を仕掛ける。剣を刃を逆にして、峰打ちの持ち方へ替えた。


真っ直ぐ前方に居た男に斬り掛かる。そこへ向かう間も好矢の周りから強風が発せられているので、真正面にいるその男性以外の近くに居た人種族はドンドン吹き飛ばされる。


「うおぉぉぉ!!」男は振りかぶって好矢へ斬り掛かる!好矢は身体の向きは常に男性へ向くようにしながら、その斬撃をスライディングで躱した。


ドスッ……「っ――!?」相手の背中を峰打ちで強打する!その場で崩れて倒れる男性。

すると周りの人たちの表情が真っ青になった。

「む、村一番の戦士が……!!」と、どこかから聞こえた。

正直言って「あの程度で?」と思ったが、狭い世界で生きてきた人たちなのだろう。


「あ…あ、悪魔め……!一体何が目的だ!!」初老の魔族の男性が一歩前へ出て話し始める。


「それはこちらのセリフだ!俺の仲間を縛り付けて殺そうとしていたのはお前らだろうが!どっちが悪魔だこの野郎!!」好矢はその男性を怒鳴りつける。


「魔法が使える者は悪魔だ!悪魔を殺そうとして何が悪い!!」初老の魔族は怒鳴り返してくる。


「俺の仲間…アウロラとアンサが何をした!?」


「……我々の子供の傷を治した!」……言われた瞬間、目が点になった。


「…はっ?」


「我々の子供の傷を治してくれた!」


好矢は振り向いて、アウロラに確認をする……

「コイツが言ってることは本当か……?」


「えぇ……砂浜で目が冷めて、アンサと一緒に歩いてたら……怪我してる子が居たから、原始魔法のヒールで助けてあげたの」


「そしたら……いきなりあの扱いか?」


「そう!酷いでしょ!?」


「……おい、今の話に偽りはないか?」


「全てその通りだ」そう返ってきた。


さて、コイツをどうしてやろうか……?そう考えていると、ロサリオが静かに前へ出てきた。


「ヨシュア、もう強風魔法は解いて大丈夫だ」


「何故言い切れる?あんなメチャクチャな言い分してる奴らだぞ?いつ斬り掛かってきてもおかしくない!」


「大丈夫だヨシュア……もしコイツらがこの状況でさらに手を出そうってんなら……俺はこの森全てを焦土にしてやる……」ロサリオのその目は怒りに満ちていた……

それは、トーミヨの模擬戦で好矢へ向けられた嫉妬の醜い表情ではない……仲間を傷付けた怒り……彼の本気の怒りの表情だった。


今まで見たことのないその表情を見て好矢は黙って強風魔法を解いた。そして相手の初老の魔族は――


「な…!も、森を燃やすだと!?…悪魔め!!コイツらを殺――「いいのか…?」……!?」ロサリオが話の途中で言った。それを聞いた瞬間押し黙る初老の魔族。


「俺たちに攻撃をする“り”でもしてみろ……俺は爆炎魔法でこの森を覆うぞ……」ロサリオがそう言うと初老の魔族はニヤッと笑った。


「ふん…虚仮威こけおどしめ…!森を燃やしてしまえば自分たちの命もない……!構わん!皆!奴らに攻撃を――!!」


初老の魔族が周りに問いかけたが、周りは動こうとしなかった……。

「何をしてい――なッ!?」動かなかった理由を理解した初老の魔族……。


トーミヨの学生の頃、好矢、ガブリエル、レメディオスの三名を爆破した爆炎魔法……あの魔法をそのまま10mほどの巨大な球体になるまで創り上げ、それを皆の頭上に浮かべていた。


「な……ま、まさか貴様……!」言おうとして一瞬言葉に詰まるが、言い直す。

「貴様は……その身を犠牲にしてでも我々を殺すというのか!?」


ロサリオは首を振る……

「バカだな……俺たちは魔法を使える……魔法を防ぐ魔法だって使える……この意味、解るよな?クソジジイ……!」


「ひっ……!?」


「発射!!」ロサリオがそう言うと、相手は皆「ひいぃぃ!?」と言いながら伏せる。

その爆炎魔法は遥か上空まで飛んでいき、ゴゴゴゴゴ……という音と大気を揺らしながら爆発した……好矢もその光景を見ていたが、あれを魔法で防ぐのは……ちょっとキツイぞ……と思った。


ロサリオは魔力欠乏状態でフラつく足を何とか踏ん張って支え、皆へ対して言った。

「……俺には今のと同じ魔法をあと三発は撃てる……さぁどうする?降参するなら森は燃やさないしお前たち誰一人として殺さない」

ロサリオはそう言ったが、同じ魔法をあと三発撃てるというのは完全にハッタリだ。今の一発でも魔力欠乏状態になっていたのは明白。


しかし、原住民たちは顔を伏せていたので、フラついた所は見られずに済んだ……ロサリオにとっては、ほぼ勝ちを確信した賭けだった。

あの魔法を見てしまえば、ただ森を失うだけではない……自分たちは燃やされるどころか蒸発する……そして強さが未知数の悪魔たちは魔法の習熟も凄まじいものだと理解出来る……

初老の魔族は、引くしかなかった……。


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