第九十二話◆別れ
「おかえりなさい。」レディアはサミュエルの家の前に置いてある木箱の上でタバコを吸っていた。このタバコは薬草タバコなので、健康に良いものだ。
「……サミュエル、アンタも吸う?」
「あ、はい。いただきます。」そういうと、新しいタバコを出さず、吸っていたタバコを差し出してきた。
サミュエルはそれを受け取ると、レディアは懐から新しいタバコを取り出してそれに火をつけた。
……どうせならそっちをくれよ と思ったが、薬草タバコ何て滅多に吸わないので、ありがたくいただいた。
「これさ~…普通のタバコよりも美味しいわよね?」レディアは聞いてきたが、普通のタバコの方を吸ったことがないので解らなかった。
「そう…なんですか?」
「あぁ、アンタ吸ったことないんだ?」
「ありませんよ。」
「吸わないなら吸わないままでいた方がいいわよ。まぁ別に魔法で身体から毒素抜いちゃえば健康的な被害はないけど。」そう言いながらレディアは灰を落とした。
「原始魔法で、その毒素を自分の身体に不足してる健康的な成分に変えた方が良いのでは?」サミュエルが発言してみた。
「あぁ、そういう方法もあるわね。」
一通り吸い終わったらレディアはタバコを握り潰して手の中で火属性魔法を使って完璧な灰にして地面に捨てた。
サミュエルも同じように燃やし切って捨てる。
「ねー、ねー、お姉ちゃんはいつまでいるの?」弟がまたレディアに話し掛ける。
「う~んと、このお兄ちゃんの学校が始まったらかな?そしたら出て行くよ。」レディアは笑顔で弟と話している。
妹や弟と話している姿を時々見掛けるが、意外と優しい顔をする。
「ってことは、あと一週間半くらいですね。」
「えぇ。お金のことは心配しないで。アンタがアグスティナ魔帝国へ入軍を考えているのなら、あと二年分の学費と生活費分置いて行ってあげる。」
嬉しい申し出だが、それは断ることにした。
「いえ、それは大丈夫です。」
「どうして?この子達にご飯をお腹いっぱい食べさせてあげたいんでしょ?」
「それはそうですが、それは僕の力で出来ないと意味がありません。これ以上レディアさんに甘えるわけにはいきません。」
「ふぅん…そっか……。学校始まるのはいつ?」
「4月4日です。」
「分かった、じゃあその日に冒険者ギルドへ行ってみなさい。」
「どうしてです?」
「良いから。レディアさんからの紹介でって受付に言えばいいから。」
「…分かりました。」
何のことか解らなかったが、何かしらの支払いが良いお仕事を紹介してくれるのだろう。
・
・
・
それから一週間半が経った。
この一週間半、近所の家の人たちからはすっかり、少し歳の離れたカップルだと思われてニヤニヤされていたが、サミュエルは悩みでもある一般魔法の相談をしていた。
ちなみに、少し歳の離れた……と書いたが、魔族の寿命は人間の約十倍で、サミュエルの年齢は今年で23歳になるので、レディアとは200歳近く離れている。
ある程度、一般魔法を使うために色んなコツを教わったが、ある日重大なことに気付いたのだ。
それは、レディアと話していて気付いたことなのだが、そもそもサミュエルは魔力の使い方が他の人とは違うということだ。
レディア曰く、回りくどい魔法の使い方をしているそうだ。
例えば、グラスに水を注いで飲むという一連の動作が、詠唱文を書いて魔法を発動する行為とする。
サミュエルの場合は、わざわざ
この場合の水が魔力である。この複雑な魔力の使い方は原始魔法では重要な扱い方になるので、原始魔法の上達が早く、消費する魔力も段違いに多いため他の学生との成長差があるようだ。
自分の身体で、意識を込める場所を少し変えるだけで、非常に簡単に一般魔法が使えるようだ。
二週間という半月の間、レディアはずっとサミュエルの家にいたので、レディアが帰ってしまうという事実に対し、サミュエルは少し寂しい気持ちが芽生えていた。
元々は敵側の魔族だが、人間族に理解を示し自分の家族を救ってくれた魔族だ。
サミュエルは、アグスティナ魔帝国側の魔族も少しは信じてみようという気持ちになった。
当然、ソフィナ先輩たちの代でアグスティナ魔帝国へ入軍した卒業生は何人かいるので、アグスティナ魔帝国軍は上級魔族と人間族の軍になりつつあるようだが……。
その日の夜、レディアは街の出口で350mlの空き缶のような形の笛を取り出して、プピィーッ!という音を鳴らした。
人間族の間では、街の門を開ける時に使われる笛だが、別の鳴らし方をしているのは初めて聴いた。
しばらくすると、ギャウゥゥーーーーッ!!と何かの鳴き声が上空から聞こえてきた。
そしてドシン…と砂埃を巻き上げながら地上に降り立つ怪鳥……とても強い魔物として有名なグリフォンだ。
街中はちょっとした騒ぎになったし、サミュエルも度肝を抜かれたが、レディアがグリフォンの顔を撫でているのを見て、少し安心した。
「本当に帰ってしまうのですね、レディア様…!本当に本当にありがとうございました……!!」父親が頭を下げた。
「お姉ちゃんまた来てね!!」弟が手を振る。
「………。」妹二人は、黙ってレディアに抱き付いていた。
「アンタの妹たちは甘えん坊だねぇ……。」優しい笑顔で二人の頭を撫でるレディア。出会い方が違えば…種族が違えば…きっと大切な友人になれたかもしれない。
「サミュエル……」
「はい。」サミュエルは返事をする。
「アンタは絶対にすごい魔導士になれる。本当に強い魔導士になった時……本気の私と一対一で戦いなさい。」レディアは言った。
「……解りました。」
アグスティナ軍に入軍した上で、四天王の四番手と一対一で戦って勝つということは、四天王の席を奪うということでもある。
今現在、アグスティナ四天王は圧倒的な力で、アグスティナの軍人一人が戦って勝てるような相手ではないのだが、サミュエルならいつか可能であると考えていた。
レディアの考えはアグスティナ軍の強化ではあるものの、エルミリアの覇道の為ではなかった。
いつか可能となるはずの、他種族間平和の為、アグスティナ軍を強くするつもりだった。実力も、精神も。
「じゃあ……私はもう行くから。……ラングドン家の皆様、お元気で。」
レディアはそう言うと、グリフォンに乗りバサッ!と飛び立って行った……。
アグスティナ方面へ大空を飛ぶグリフォン。
「…………。」サミュエルの弟から貰った花を見つめる。本来なら枯れかけているはずだが、保存魔法を施しておいたので、受け取った時のキレイな状態だった。
レディアは、それを鎧の内側に着ている軍服の胸ポケットにしまって呟いた。
「……私の大切な御守りだ。」
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