第七十五話◆龍の渓谷攻防戦
………………空気感が違う。その一言に尽きる感覚に襲われた。
俺は今、ベリウム街道を抜けて龍の渓谷まで来た。反対側には、ベルグリット村があるそうだ。
ここにはリザードマンが生息しているらしい。強くなった俺の腕を確かめる絶好の狩場だ。倒したリザードマンの肉はエルフ領のベルグリット村で買い取ってもらえるだろう。
ズンズン奥まで進んで行く――。
「……洞窟か。」
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「ここが龍の渓谷かぁ……」と沙羅が言う。見た目は氷で囲まれたような渓谷だったが、氷山ではなくただの白い岩だ。
「リザードマンとの戦闘は避けていくか。」好矢は言った。
そのまま進む好矢たち。しばらく進むと、少し外れた道がありその先には洞窟があった。
好矢は真っ直ぐ進む道と洞窟の入口を見て、アウロラに声を掛けた。
「龍神族はどういう所に棲むかってことまでは……知りませんよね?」
「う~ん……水辺を好むって聞いてるけど、暗いところを好むって話しは聞いたことないわね。そもそもどの種族も水辺は好むものだけど。」
「ただ、龍の渓谷はとても入り組んでるから、仮に龍神族がいたとして、洞窟側にいる可能性もある。」メルヴィンが口を開く。
「二手に分かれる?」メルヴィンの発言から提案するアウロラ。
「いや、それは危険だ。リザードマンはともかく、過去の恨みから龍神族がいきなり襲ってくる可能性だってある。出来る限り一緒にいるべきだ。」
…………
「洞窟の方に行こう。」沙羅が自分の手の平を見ながら言ってきた。
「…理由は?」と言って好矢は沙羅の手を見た……コインが裏向きになっている。
「まさか……」
「うん。コイントスしてた。」沙羅はそう言いながら、銅貨を財布にしまった。
「……分かったよ、洞窟な。」好矢は洞窟方面へ歩き出した。
内部は暗いので、メルヴィンに灯りを頼むことにした。彼の得意属性は火属性なので、かなり助かる。
(皺月の輝きの全員の頭上に自身で操れる熱を感じない火球を出現……魔力160使用。)「発動。」
ボッ!という音を立てて、皆の頭の上に火球が現れた。普段攻撃などで使われるあの火球だ。
簡単な魔法に見えたが、熱を一切感じないので、詠唱文に少し工夫を施したということが分かる好矢。
「その頭上の火球、軽く念じて動かしてみてよ。」
「どういうことだ…?」好矢はそう言いながら頭上の火球が前にふわふわ飛んでいくイメージをした。
すると、メルヴィンに出してもらった火球がふわふわ前方に飛んで行った。もちろん、頭上に戻って来るように念じると戻って来た。
「すごい……。」感心するアウロラ。今まで自分の魔法を他人に扱えるようにするという発想はなかったのだろう。彼の発想力はアデラと近いものがあった。
こうして、かなり見やすくなった洞窟内部。少し歩くと、メルヴィンが前方に火球を飛ばした。
「…どうしたんだ?」
「……これ、見てみてよ。」飛ばした火球が床を照らす。
リザードマンが血を流して倒れている。血が新しく、ついさっきまで生きていたようだ。
「おそらくトーミヨの学生だ。」好矢はそう答えた。
「床と岩肌に切り傷があるね。恐らく刀剣の類で攻撃をしたみたいだ。」メルヴィンは床と岩肌の切り傷を火球で照らす。
沙羅は「誰だろう?」と言っていたが、その太刀筋を見て、好矢はガブリエルが来ているのだと思っていた。
しばらく観察をしていると、ドォォン!!という音が洞窟の奥から聞こえてきた。
「な、なんだ!?」メルヴィンが声を出す。「こっちだ!」好矢は音がした方向へ走り出す。
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「さぁ…早く吐け。奴らはどこにいる?」目の前には悪魔のような翼を生やした男が槍を持って睨んでくる。
彼の後ろには六人の男女がそれぞれ装備を整えて構えている。
洞窟の内部は道が三本あり、レオたちが来た道とは別に、横にある道と魔族がやって来た奥にある道の三本だ。
「…だから、俺たちは知らないって言ってるだろ!」レオは叫ぶ。
「トール・ヨシュアの匂いがする……最近まで一緒にいたことは明白だ。」
「本当に会ってないんだってば!」アデラも言う。
可能な限り戦いたくない。目の前にいるのは上級魔族。つまり、アグスティナ魔帝国の軍人ということになる。
基本的に、大多数のハンターよりも兵士の方が強いことが多い。ほんの一握りのとんでもない強さを持つハンターは稀にしか現れない。
理由はもちろん、日々厳しい訓練を積む兵士と、自分の腕よりも低い難易度の依頼をこなす事が多いハンターの違いから来ているものだ。
だから、レオとアデラ……ハンターどころかまだ学生の二人は、帝国の兵士七人に勝てるわけがないのだ。
「もういい。拷問にかければいずれ吐くだろう。くらえッ!」いきなり槍を横薙ぎに攻撃してきた。
咄嗟にスチールソードでそれを受け止めるレオ。
「おいアデラ、剣に魔法を頼む。」
「分かった!…………発動!」
アデラがスチールソードに付与したのは、魔法反射効果。いつ攻撃が来てもおかしくないようにしたことだ。
「でやぁッ!!」レオが攻撃を仕掛けてきた槍使いに斬り掛かる。倒そうとしているわけではない。
ある程度痛手を負わせた上で、火属性魔法と水属性魔法の同時発動による水蒸気を煙幕のように使って逃げるつもりだった。
レオの攻撃は袈裟斬り。斜めに振り下ろす斬撃だ。それを屈んで躱すと、レオの腹部に蹴りを入れる槍使いの男。
「ぐはッ…!!」洞窟の壁に激突するレオ。
「手加減してやってるんだ。さっさと吐きな。」蹴った体勢のまま言い放った。
「知らねえんだよッ!!」レオは立ち上がり、さっきと同じ角度からまた斬り掛かる。
相手の男はさっきと同じく屈んで躱すが、次に繰り出そうとしているのは蹴りではなくパンチだった。しかし――
「発動!!」レオが振り下ろした右手のすぐそばから左手を出し、男に向かって火属性の火球を放った!
…ドォォン!!大きな音が洞窟内に響いた!
「…グッ…!」レオの火球をまともに食らった兵士。槍を構え直して、レオに襲い掛かる!
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