第19話 クラスメイトの信頼


 ケトとフタバが教室に戻ると、クラスメイトたちは遅れてきたケトを見て騒ぎ立てた。

「あ、ケト! 遅刻だよ~」

「どうしたの、寝坊?」

 次々と浴びせられる質問に、フタバが気を使うようにみんなをなだめる。

「みんな、静かにして。先生が戻るまでは静かに自習していよう」

 級長の言葉に、クラスのみんなはヒソヒソとケトを見て小声で話し出す。そんな中、教室に入ってきた少年二人は自分の席に着く。

「ケト、どうしたんだよ、珍しいじゃん」

「マハサくんとトモくんはどうしたの?」

 魚族の少年と樹族の少女が声をかけると、ケトは無言で唇をんだ。その様子をフタバが静かに見守っていた時だ。突然クマ耳の少年は勢いよく立ち上がった。その勢いに机と椅子が大きく音を立て、思わずクラス中が一気に彼に注目した。

 「――ケト、どうし――」

 フタバが声をかけ終わらないうちだった。

「みんな、聞いてくれ! トモ、マハサ、シンたちが危ないんだ!」

 思いがけない言葉に、一瞬水を打ったようにクラスが静まる。そして次の瞬間にはざわざわと困惑こんわくしだした。その様子にフタバが声をかける。

「ケト、一体何を急に――」

「みんなホントなんだ! 信じてくれ!」

 フタバの言葉を無視してケトは大声を上げた。

「昨日からトモが行方不明で――朝からオレたち探していたんだ! そしたら――探してくれてたヨウサと、隣のクラスの女の子も消えて、それを助けようとしたマハサとシンまで一緒に消えちまって……」

 言いながら徐々に頭を下げ、ケトの大声も段々しぼんでいく。こんなことになったのはオレのせいだと、自分を責める気持ちもあったのだろう。しかし、そこまで言うと急に力強く顔を上げ、また声を張り上げた。

「確かにオレは授業も真面目じゃないし、勉強もできねぇ。でも、友達を見捨てるようなことだけはしなくねぇ! ホントなんだ! みんな、信じてくれ!」

 その言葉にクラス中がどよめいた。

「ケト、何言ってるんだ。さっきも言ったじゃないか、見つからないっていうのも、彼らのいたずらかもしれないだろ?」

 またも冷静にフタバが声をかけると、ケトは彼をにらみつけるように見つめて首を振った。

「いたずらでオレがこんなに騒ぐかよ! 級長は信じてくれないかもしれないけど――みんな、信じてくれ! 本当にあいつらが――」

 懸命に説明するケトと、それをなだめようとする級長のやりとりに、クラス中の生徒が

動揺どうようしていた。クラスで一番の信頼を得ている級長とトラブルメーカーのケトの言い合いに、どう判断していいのか悩んでいるのだ。

 ――しかし。

「あたし、信じるよ」

 唐突とうとつに声を上げたのは副級長の猫耳少女――みっちゃんこと、ミツキだ。

「ミツ――」

 思わず声を上げるケトに、猫耳少女は思いがけず強い声で言った。

「確かにケトたちいたずらもするけどさ、友達のことで嘘つくような人じゃないって、あたしら知ってるし。シンくんやシンジくんだって黙ってサボるような子じゃないもん」

 彼女の言葉は、クラスメイトに響いた。

「たしかにな」

「マハサとトモはともかく、シンジくんはなさそうよね」

「それにヨウサもサボるなんてないよな」

 みんなの反応にケトは思わず瞳がうるんでいるが、あわてたのは級長だ。

「え、みんな――ホントにケトの言うこと信じてるの?」

「だって――」

 口をはさんだのは、植物精霊族の大人しそうな少女、ロウジーだ。

「ケトくん、一生懸命だし――それに」

と、彼女はクラスメイト全体に目線を送りながら続けた。

「誰かが困っているなら、助け合うべきじゃないかな、クラスメイトだし」

 その言葉に、クラスの男子が声をあげた。

「そうだぜ! ケト!」

「僕たちも手伝うよ! トモたちを探しに行けばいいのか?」

 その言葉にケトが胸いっぱいになって、唇を噛んで震えていた。

「――くっ……。みんな――ありがとう!」

 一瞬目をこするケトだったが、大きく息を吸うと強い目をして大きくうなずいた。そして教室の窓から遠くに見える山を指差し説明を始めた。

「トモが行方不明になったのはあのアンリョクの森だ。今はシンジとガイが見張ってる。トモたちはあの森の黒いオバケにさらわれたんだ。でもきっと――先生たちに言えばいい方法が見つかるはずだ!」

 ケトの言葉に、クラスメイト全員が動き出した。

「わかった! 私たち、レイロウ先生探してくる!」と、ロウジーと精霊族の少女。

「じゃあ、あたしたち、校長先生に知らせてくる!」と立ち上がったのは犬族の少女。

「念のため医務室にも声かけておいたほうがいいかも……」

 いつもはおとなしいマテリアル植物族の女の子まで立ち上がった。

 クラスの女子が動き出すと、副級長のミツキが女子に声をかける。

「森に行くのは攻撃魔法に強い人が行ったほうがいいかもね! 大体の女の子はクラスで先生とかに助けを求めてみよう!」

「じゃあ、男は全員森に行ってみようぜ!」

「あ、森なら私も行く!」

「治癒魔法が役に立つかも、あたしも!」

 クラス全員がわらわらと動き出すのを、フタバは困惑こんわくした表情で見つめていた。それに気がついたミツキが声をかける。

「どうするの、級長? ちょっとはケトの言うこと、信じてあげたら?」

 その言葉に、迷っていた表情が和らいだ。ひとつため息をついて少年はほほえんだ。

「――それも……そうだね」

 級長は意を決したように息を吸うと、クラスの男子にあれこれ説明しているクマ耳少年の隣に歩み寄った。

「ケト、疑って悪かった。僕も手伝うよ」

 その言葉にケトは一瞬目を大きくするが、すぐに嬉しそうに口をほころばせた。

「――級長……! よっしゃ! みんなでトモやマハサ、ヨウサにシンを助けにいくぞ!!」

「おおー!!」

 ケトの言葉にクラス中が声を上げ、授業中にも関わらずクラスメイト全員が外に飛び出していった。隣クラスの生徒たちが急な大声に、わらわらと廊下に顔を出した。彼らがあっけにとられる中、太陽クラスの教室は生徒一人残らず外に飛び出して、空っぽになるのだった――。



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