№246
20年も前の話です。当時僕は6才。9才の姉と両親の4人で遠方のテーマパークに車で行った帰りでした。
父の運転で、母は助手席。僕と姉は後部座席でうつらうつらしていました。確か家とテーマパークの中間あたりにある父方の祖父母の家に泊まる予定でした。遊び疲れてほとんど寝かけていたのですが、窓にもたれかかっていたためトンネルに入った瞬間窓ガラスが風圧で振動し、びっくりして目を覚ましました。大きな声を上げてしまったので、姉も起き、両親は笑っていました。
姉は「後どれくらいで着くの?」と両親に聞きました。父が「このトンネルを抜けたらすぐだよ」と答えていたと思います。それに対し姉は口をとがらせていました。父の「すぐ」は全然「すぐ」じゃないと姉はいつも文句を言っていたから。
その時、僕はトンネルの中に白い光がフワフワと浮いているのを見ました。ふわふわでしたが、車と並行していたので結構速かったんだと思います。僕は姉に「あれ何かな?」と聞き、姉は僕の指差す方に目をこらしました。その姉の後ろの窓にも白い光が現れ、僕たちは同時に「あっ!」と叫びました。
父母も異変に気付き「何だあれ?」みたいなことを口々に言い始めました。その間に光は増え、車を取り囲みました。まるで濃霧の中を走っているようでした。光だったのに眩しくはなかったんです。
父はその時危険を承知で車を停止しようと考えていたそうです。トンネルの中で車を停めるのは危険ですが、それまでほとんど後続車がなかったので、このまま視界が悪い中走らせるよりはマシだと思ったそうです。
ですが、突然大きな音を立てて車体が揺れました。横から追突されたような衝撃でした。そして窓に真っ黒い手形がスタンプのように付いたのを僕は見ています。衝撃は何度も、あらゆる方向から受け、手形で窓が真っ黒になりました。姉が泣き叫び、母の悲鳴も聞こえていました。最後の衝撃で、僕は意識を失ったようでした。
このことを思い出したのはつい先日です。僕はずっと6才以前の記憶がありませんでした。記憶があったのは小学校入学あたりです。その時はすでに父と二人だけでした。そのことを変だと思うことはありましたが、父が「小さい頃の記憶なんて皆忘れる」と言うので信じていました。
母の記憶も、姉の記憶もすっぽり抜けていて、僕の中では最初からいませんでした。父も話してくれないので、つい最近まで一人っ子だと思っていました。
思い出したきっかけは、友達と行った心霊スポットめぐりです。廃墟となったテーマパークでした。そこが最後に家族で遊んだ場所だったんです。すっかり変わり果てていましたが、どんどん記憶がよみがえってきて、廃墟でパニックを起こしました。
家に帰って、まだ少し妄想や幻覚の可能性もあったので、父に詰め寄りました。父は「思い出したのか」と言い、僕が質問する当時の状況を説明してくれました。しかし、事故後どうなったのか、どうして母や姉のことを話さなかったのかは教えてくれませんでした。
父はその次の日に首をくくりました。僕が思い出したからでしょうか。もう手遅れですが。
――本田さんの手には、父親の遺品から出てきた4人家族の写真があった。
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