№185
僕は陰キャで良くいじめられていました。クラスには他に2人、僕と似たようなやつがいて、3人で目立たないように身を寄せ合っていました。それでも嫌なやつは僕らを見つけていじってくるから、僕らは秘密基地を作ったんです。
地元にハイキングが出来る山がありました。道もちゃんと整備されていて、小学生のときに必ず遠足に来るような山です。ちょっと変わった山で全体的にボコボコしてるんです。う~ん、どう表現したら良いかな。山に小山がいくつかある感じ、ですかね。僕らはハイキングコースから外れた、木々や小山の間に死角になっているスペースを見つけたんです。ここなら誰からも見つからないと僕らは嬉しくてほぼ毎日そこに通いました。小学校3年から中学2年までだから6年間ですね。
僕らを隠してくれる木の一本に洞があって、そこに大切な物を隠していました。お菓子のおまけや、交換ノートのようなものや、エロ本の切れ端や・・・・・・しゃべる石。オモチャじゃないんです。本当にしゃべったんですよ。仲間の一人が遊びで地面を掘ってたんです。その時コロッとその石が出てきて、そいつが「わっ!」って叫んだんですよ。何かキラキラ光って宝石かと思いました。「ダイヤだ!」と叫んだら石から声がしたんです。『ダイヤじゃない。ただの石』って。それもすごく不思議なんですけど、僕たちもすぐ受け入れちゃって。勿論驚いたことは驚いたんですよ。でも「怖い」とか「あり得ない」とか「幻聴だ」とか思わなくて。「すごい! 他に何かしゃべれる?」って聞くと「お前たちの名前は?」と逆に質問してきました。僕たちは素直に答え、そこからずっと会話が続きました。石は素っ気ないしゃべり方でしたが話は面白く何でもよく知っていました。宿題を一緒にしてもらったこともあります。石について何か聞いても「ただの石だ」としか答えませんでした。それでも中2まで3人と1個で仲良くしていたんです。
でもある日、とうとうその場所がばれてしまったんです。しかも特に素行の悪い奴らに。僕らがカードゲームをしていたら10人くらいで乗り込んできて、ボコボコにされて財布を取られて、洞の中まであさられて・・・・・・僕はとっさに石を隠したんですが、見つかって奪われてしまいました。僕らは泣きながら基地去りました。警察に行くことも考えました。でも怪我はともかく奪われた「ただの石」を取り戻してくれるかどうか・・・・・・そもそもしゃべる石なんて誰も信じないですよね。陰キャの僕たちがモヤモヤしながら1ヶ月くらい経過したとき、あの秘密基地から不良たちの他殺死体が発見されました。殺されたのは僕らが基地を奪われた日だと新聞に載っていました。不良グループの一人がすぐに逮捕され、仲間同士の喧嘩で殺してしまったと報道されましたが、どうも心神喪失状態ということで自供もなかったようです。
でも地元だからいろいろ噂が聞こえてきたんです。その加害者の不良は何か聞かれても「ただの石だからわからない」とそっけなく答えるだけなんだそうです。彼は今も病院に入院しています。
もしかして石は本当にただの石で、石を介して山の神様か物の怪が僕らと通信してたのかなって。そして今はあの不良に憑いてるのかなって。
――奥西さんは来月、当時の仲間とその加害者のお見舞いに行く計画をしているそうだ。
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