№109

――根津さんの父親は転勤族だったそうだ。

 小学生の時はしょっちゅう転校していました。私が小学3年生、兄が5年生のときに2回目の転校がありました。夏休み明けの2学期でまだまだ暑かったのを覚えています。校長先生に挨拶は、夏休み中に家族で済ませていたのですが、教室に入るのは初めてでした。

 1回目の転校先はみんな親切で、楽しく過ごせたので今回もそうなればいいなと思っていたのですが、教室に入ってすぐに異様は雰囲気に気付きました。担任の教師は淡々と私の名前を読み、機械的に挨拶を促してきました。私は一応「仲良くしてください」と言うようなことを言った気がしますが、そうならないことは明白でした。クラスメイト全員私をにらんでいたのです。私は空いている一番前の席に座るように言われました。クラスメイト全員から見える位置です。半分泣きそうになりながらその席に座ると、机の中に筆箱が入っているのに気付きました。誰のだろう? と引っ張り出して机の上に出すと隣の席にいた男の子がひったくるように私の手から奪いました。驚いていると男の子は何も言わずにさめざめと泣き始めたのです。もらい泣きなのか、クラスのあちこちからすすり泣きが聞こえ始めました。一番異様なのがその光景をみても先生が一切気にせずHRを続けていたことです。

 その日は最初から兄と一緒に下校する約束でした。校門で待っていた兄は私を見つけるとすぐに駆け寄ってきて「何かおかしくないか?」と言いました。兄のクラスもまた、異様な雰囲気だったそうです。兄は3回目の転校だったのですが、これまではすぐに誰かが話し掛けてきて和気あいあいとしたムードになっていたのに、今回の学校は始めから転校生を拒絶している雰囲気だったと兄は言っていました。

 そんな学校生活の始まりでしたが、徐々に周囲の態度は軟化していって、1年たったころには最初の頃の異様な雰囲気を忘れていました。そして学年が一つ上がるころ、兄が交通事故に遭いました。頭を打って、しばらく入院していました。両親は私を動揺させまいとその時点では詳しく教えてくれませんでした。しかし、クラスメイトに兄の交通事故のことを話すと、さっと顔色が変わりました。そして「次の6年生に転校生が来るんだよ」。何のことだろうとその時はわかりませんでした。しかし事故から1週間後、春休みに入ってすぐに兄は帰らぬ人となり、新学期、6年生に転校生が来ました。

 後でクラスメイトやその学校出身の人から話を聞いたんですが、あの小学校には「転校生が1人入ったらそのクラスから1人死人が出る」って都市伝説があったそうです。私たちが転校したとき、生徒が2人、亡くなった直後だったんです。

 小学校はまだありますよ。公立の学校です。詳しくは言えませんが。

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