№63

 僕は怪談が好きで、大学でも同じような怪談好きが集まって怪談話をするグループに入って、収集した怖い話をしあっています。夏前くらいに他の大学からも「参加したい」と声がかかるようになりました。僕や友人がSNSで話しているのを見たらしいんです。別に大学公認のサークルでもないし「どうぞどうぞ」と軽い気持ちで受け入れていたら20人くらいに膨れ上がっちゃいました。夏だからでしょうか。皆怖いものが好きなんですよね。

 ただ不安だったのが、冷やかしが混ざっているんじゃないかってこと。やっぱり怪談って雰囲気も大切だから。いるでしょ? 友達と選別せにゃならんという話になり、普段は大学の食堂とかで適当にしていたのを、近くのお寺にお願いして講堂を貸してもらいました。意外とすんなり貸してくれてびっくりしましたが。で、時間は夕方7時から。そうやってちゃんとした場所、ちょっと遅い時間を指定すると、数人辞退する人が出てきました。そこで僕たちはちょっと安心して、逆に怪談に対する熱意が盛り上がってきたんですよ。

 選りすぐりの怪談を用意し、当日は誰よりも早くお寺に行って、言われてもないのに掃除をしてご住職に褒められたりもしました。参加者も熱意がすごくて、6時半にはすでに全員そろって車座になって座っていました。そして僕は重々しく話しだしました。今までで一番良い出来だったと思います。一緒に居た仲間は話の筋を知っているはずなのに冷や汗を流しながら聞き入っていました。その仲間の話も、僕は知っていたのにいつもよりも恐ろしく聞こえました。十数人、講堂の弱い蛍光灯の下で順々に話していきました。誰もが真剣で、どの話もぞっとするような話でした。こんなすごい怪談会になるなんて。最後の一人が話し終えたとき、少し緊張が解けて全員がほっと溜息をつき、僕は友人と目を合わせ、お互いにやりと満足げに微笑みあったのを覚えています。しかしその瞬間

 パァン!

 と柏手を打ったような音が講堂の中に響き渡りました。全員飛び上がらんばかりに驚き丸い目で周囲を見渡します。誰かが手を叩いたわけではありません。車座だったので気づかないわけありません。僕は一瞬、誰か部外者がいたずらで外から音を出したのかと思いました。僕が外を見に行こうとすると、友人が呼び止めてきました。何かと聞くと「怪談、覚えてる?」と。何の話だと聞き返す前にハッとしました。確かに今聞いた話を一つも覚えてないのです。自分で話したものですら。他の参加者もそれに気付いたのかおろおろし出し、中には泣いてしまう人も出ました。怪談会はそれで終了となりました。あれは一種の集団催眠みたいなもんなんでしょうか。……すごく楽しかったんですけどね。楽しかったことしか覚えてないってちょっと寂しいですね。

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