№61

 怖くはないんです。ちょっと不思議な話、です。

――何故か孫さんは申し訳なさそうに話し始めた。

 最初はまだ小学校に上がる前のとき、母の実家でネズミに話し掛けられたことです。僕がスイカを食べているとちょろちょろとネズミが出てきました。といっても田舎のネズミってでかいんですよね。可愛くない。でも子供だったから物おじしなかったんでしょうか、スイカをひとかけそいつにひょいと投げてやりました。ネズミは少し迷ったような間を開けてからその場でスイカを食べました。食べ終わって去っていくかと思ったら僕を見て「次は猫」と言ったんです。「え?」と聞き返したんですがネズミは出てきたときと同じようにちょろちょろと走り去りました。もちろん親にも話しましたが、夢だと思われました。

 小学生に上がってから、夏休みにまた母の実家に行きました。先ほども少し言いましたが、母の実家はすごい田舎だったんですよ。だから虫取りとか川遊びとか楽しめましたね。祖父に教えられて川に仕掛けを作り、魚を取りました。祖父が見ているところで仕掛けを引き上げていると、茂みから猫が現れました。そしてじっと仕掛けを見てきます。魚を食べたいのかな、と思って獲れた川魚を一匹投げてやりました。猫はそれをその場でむしゃむしゃと食べ、舌で口の周りを舐めました。あっという間です。驚いているとさらに猫がしゃべりました。「次は犬」。そう言って去っていきました。祖父に餌付けをしたことを軽く窘められましたが、猫がしゃべったのは聞いていなかったとのことです。

 それから母の実家に帰るたびに、動物に話し掛けられます。犬、カラス、猿、亀、狐……。最近、母の実家に住むようになりました。あの頃は田舎でしたが、開発していい感じの住宅地になってきたんですよね。便利な駅もできたし、道路も整備されて。自然が少し減りましたが、公園や動物園もできて賑やかなんですよ。

 え? 次ですか? うーん、それが途切れちゃったのかなぁと。狐に「次は人」って言われたんですけどね。この前姪っ子におやつを上げたとき、食べ終わった姪っ子が少し神妙な顔で私を見ているんです。どうしたのかと聞いたら「次は……」と言って突然わーっと泣き出したんです。どうあやしても泣き止まなくて、姪っ子の母親である姉はなんとか泣き止まして家に帰っていきましたが、その日の夜に電話がかかってきて「なんか、『おじちゃんにお肉をずっともってて』って言ってるんだけど」と姉から言われました。姪っ子は3歳になったばかりなんで、要領よく話せないんです。次会った時も、そのことは忘れてるみたいだったし。結局一連のあれは何だったのかなぁ。

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