№52
――加江田さんの高校の時の話だそうだ。
私の通っていた高校は駅からだいぶ離れてました。駅からは自転車やバスに乗り換えますが、たまにタクシーを使うこともあります。ある日寝坊して電車の乗り継ぎを失敗したとき、バスもなかったのでタクシーに乗るしかないと思い、一緒に乗れる子を探しました。タクシー代って高いじゃないですか。一人で乗るより数人で乗った方がお得だから、皆そうしてました。制服を着た子がバラバラと改札口から出てきたので、私はすぐ下級生の男の子と上級生の女の子を捕まえることが出来ました。タクシーは駅前に一台停まっていて私たちはそれに乗り込みました。しばらく「危なかったねー」「ギリギリ間に合いますね」なんて話していたら、急にタクシーが加速しました。驚いて窓の外を見ると、学校とは違う方向に曲がるところでした。
「すみません、ちょっと遠回りしますね」
「え? 困るんですけど!」「遅刻しちゃうじゃない!」
私と先輩が文句を言っても、タクシーはどんどん知らない道に入り、加速します。事故を起こすんじゃないかと私は生きた心地がしませんでした。先輩も同じで、涙目で悲鳴をあげています。
「あんたもなんとか言いなさいよ!」
先輩は私たちの間にちんまりと座っている下級生にも怒鳴りました。彼は、思えば乗ってから一言もしゃべってなかった気がします。
彼は正面を見たまま両脇にいる私たちの肩に手を置きました。
「大丈夫、怖くないです。うしろを振り返らないで」
彼がそう言ってすぐ、後ろから拡声器で拡張されたような男の声が追ってきました。
「のせてくださぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃ」
私は思わず耳をふさぎました。腹に響くような重低音で声が車内に反響するのです。
「おねがいしまぁぁぁぁぁぁすぅぅぅぅぅぅぅ」
私も先輩も同じように耳をふさぎ座ったまま体を折り曲げるように姿勢を低くしていました。どれくらいたったでしょう。学校の裏門についていました。下級生は「もう降りても大丈夫です」と言ってさっさと学校に入っていきました。運転手さんは「裏門の方についちゃったからお代は要らないよ」と、こちらもすぐに帰っていきました。私と先輩の顔は涙でぐっしゃりと濡れていて、結局1限には出れませんでした。あの下級生はそのあと何度か校内ですれ違いましたが……結局怖くて何も聞けていません。
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