№47

 僕の友人が自殺したのは小学6年生の時です。

彼は兄にいじめられていたそうです。ええ、実の兄です。僕は3年生の時からずっと相談を受けていました。最初は信じられませんでした。彼の兄はとてもカッコよくて成績もいい人気者だったので。でも何度も相談を受け、腕に何か所もできたあざ等を見せられ、僕は信じました。きっと僕しか信じてくれる人がいなかったのでしょう。彼は僕といるときだけ安心しているようでした。幼いながらにその兄が厄介だと思った僕は、彼に何度も逃げるように促しました。そうはいっても小学生なので具体的にどうすればいいか思いつきません。彼もどうすればいいのかわからなかったようで、あいまいにうなずきながらも兄にいじめられていました。虐めは年を追うごとに陰湿になっていきました。傷跡はありません。言葉や傷が残りにくい方法で虐められたようです。そしてゴールデンウイークが終わってしばらくすると彼はトラックにはねられて死にました。彼は衝動的にトラックに飛び込んだんだと思います。ただ遺書などはなかったので不注意な横断の末の事故だと処理されてしまいました。僕も大人に兄によるいじめがあったと訴えましたが誰も信じてくれませんでした。

あれから10年。昨日が彼の命日でした。昨日彼は僕の夢の中に現れました。今僕は子供の頃に過ごした故郷を離れ一人暮らしをして大学に通っています。夢の中で、その一人暮らしをしているアパートのドアを僕が開けると彼が立っているのです。アパートの外は真っ暗で小学生の姿の彼が僕を驚いた顔で見上げていました。

「大人になったね」と彼が言い、涙を浮かべました。僕の目からも自然と涙がこぼれました。

「あの時君の言う通り逃げ出せばよかったんだ」彼の身体は半分闇に使った状態でした。きっとあの闇はあの世だったんでしょう。でもその時は怖くありませんでした。彼が僕に会いに来てくれたことが単純にうれしかった。

「もう、終わりにしようともってさ」彼はにっと笑って後ろに隠していた両手を掲げました。彼は人の首を持っていたのです。私があっけに取られていると彼は生首の髪をつかみ振り回しながら走り去っていきました。

 私が目覚めたとき顔を濡らしているのが涙なのか汗なのかわかりませんでした。ただ心臓がやたら激しく鳴っていました。すぐに実家に電話をして母にあの家がどうなったのか聞きました。彼の家は彼の命日の日に不審火で全焼したそうです。彼の両親と兄が家にいましたが全員首がない焼死体で発見されました。ニュースでやってましたよね。あれです。彼は死んでも楽にならなかったんですね。今度こそ逃げられたのならいいですけど。

――会田さんは悲しそうにつぶやいた。

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