№43

 俺のこと、見たことないですか?

――類家さんは自分の顔を指差して聞いてきた。

 あんまりテレビを見ませんか。実は数年前まで漫才で稼いでいました。相方は一緒に上京してきた幼馴染みで、それなりに楽しくやっていました。少しずつ仕事が増えてきて、もっと知ってもらいたいなって二人で考えたとき、霊感がある振りをしようということになりました。相方は口が達者なんで相方を霊能者にして、俺は幼馴染みだから「こいつがこう言うときは大体やばいんです」って話の信憑性をあげる役をしました。それが結構受けて心霊番組に少しだけだしてもらえるようになってきました。そうすると後輩とかも俺達を見る目が変わってすり寄ってくるんです。悪い気もしなくて面倒を見ていました。

 気が大きくなった相方が、ある夜、有名な心霊スポットにいこうと言い出しました。後輩たちはバカみたいに喜んで相方に付いていきます。大きめの車を借りて俺が運転しました。俺はなんかいやーな予感がしてました。相方が後輩の前でぼろを出すんじゃないかって。調子に乗ってるのがよくわかったんで。心霊スポットのトンネルの前につくとやっぱり相方は「向こうに影が」とか「この辺の空気が冷たい」なんてそれっぽいことを言い出しました。それで喜ぶ後輩たちを見ていたら、一人明らかにテンションが下がっているやつがいました。車酔いでもしたのかと思って声をかけると、そいつは真っ青な顔で「ここ、マジでヤバイところです」と言い出したんです。俺は遠回しに後輩が嘘を指摘したのかと思いました。こいつが他の後輩に何か言う前に帰ろうと、相方を中心にワイワイ騒いでいる奴らに声を掛けて車に乗せました。でも相方がなかなか乗ってきません。トンネルの方を見てたたずんでいます。私は肩に手をかけました。すると相方の耳から白い煙のようなものがスーッと抜けていったのです。そして相方の息は徐々に荒くなっていき、過呼吸のように苦しそうに口をパクパクさせて倒れこんだんです。慌てて後輩に手伝ってもらい相方を車で病院に運びました。医者曰くかなり危険な状態だったらしいんですが、一命をとりとめました。しかしあれ以来相方は魂が抜けたようにぼーっとして何もしないようになりました。俺達は親の反対を押し切って上京したので、頼る相手がいなくて、俺が一人で相方の面倒を見ています。もちろん漫才なんかできないから、貯金を切り崩したりアルバイトしたりの生活です。あの時忠告してくれた後輩は、今大御所の何人かに気に入られて、コンテストとかでは結果を残しませんが小さな仕事が大きな仕事に変わりそうだとか。他の後輩はあれ以来遊びに来ないけど、そいつだけはいつも手土産を持ってきてくれます。相方のお見舞いに来てくれるのもあいつだけです。きっと……ああいう『本物』が売れていくんでしょうね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る