№36

 弟がいます。あまり年が離れてないのですが、そんなに仲が良くないです。いえ、嫌いなんじゃないです。ただ気が合わないというか、昔から別々に遊んでいました。

 小学生に上がったころのことです。私の家には各自の部屋の他に遊び部屋がありました。おもちゃとかゲームとかはそこに収納してありました。その時は確か年末で部屋の掃除を親に命じられていて、そのために遊び部屋に入ったと思います。あの頃は小さい弟よりも私の方が友達とか読んで遊び部屋を使っていました。おもちゃの場所を確認して、きっちり収められていないと、母に怒られるので、きれいに箱に入れなおしたりホコリを払ったりしていると、ふと積み木の箱が気になりました。

 積み木は生まれたころに伯父がくれたもので、手作りでした。でもちゃんと角は取ってありましたし手触りもつるつるするように加工してありました。様々な形のものが200くらい段ボールに詰まっていたと思います。小学生になってからは使うことはなく、弟もそれで遊んでいる様子はなかったので、しばらく箱を開けてなかったのですが、どうしてもそれが気になったんです。私は段ボールを棚から引っ張り出して蓋を開けました。ぎっちりと、でも雑然と積み木が入っています。それ以外は入ってないはずだったんですが、突然中央が盛り上がってきました。私はネズミでも入り込んでいたのかと怯えて少し離れました。積み木が崩れ、そこから出てきたのは人の頭でした。大人の女の頭でした。真っ白の顔に妙にぱっちりと見開いた眼で私を見ていました。そして「あーそーぼー」と子供のような張り切った声で私に話しかけてきたのです。私は部屋を飛び出して父に泣きつきました。一緒に戻るともう女の頭はなく、積み木の段ボールが引っ張り出された状態で置いてあるだけでした。父は私が掃除に飽きて昼寝して変な夢を見たと思ったようです。私も時間がたち記憶が薄れてくるとそれが真実だったんだろうという気になってました。

 しかし先日弟が連れてきた、結婚を前提に付き合っているという彼女を家族に合わせてくれたのですが、その彼女があの時の女の顔なんです。最初は見たことあるな、としか思ってなかったんです。ふと弟も両親も見てないときに、目があって……口が「あーそーぼー」っと声を出さずに動いて、思いだしたんです。あの女だって。

――矢岡さんはハンカチを握りしめてガタガタ震えていた。私は例の積み木はどうなりましたかと聞いてみた。

 あれは……引っ越しの時に処分したと思います。たぶん、そういえば、どうしたんでしょう? そんなことより、二人の結婚、大丈夫ですよね? 弟は私の言うことなんできっと信じません。私もあの時、何かされたわけではないし。でも……大丈夫ですよね?

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