第28話
草原を抜ける石畳の歩道を進む。ちいさい風が吹く。周りの草がたなびく。空を見る。
「曇ってますね」
どうでもいいことを言う。
「いっつも曇り」
彼女が唇を尖らせる。
「ヨーロッパっぽいよね」
僕が答えると、
「イギリスのイメージじゃないかなぁ」
と、遠藤部長が拾った。安高はスマホでやすむことなく写真を撮っている。
「あのさぁ、安高。ここって撮っていいのか微妙じゃないか?」
「そう? 地球上なんでしょ、ここ?」
僕は息に詰まった。ここは地球上なんだろうか? 宮本さんが以前ドイツにあるとか言ってたような気もするけど。今こうしてみるとそれも、どこのドイツなのかわかったもんじゃない、ような気がする。
「いえ、依然にすこし説明しましたが、ドイツの片田舎ですから」
「ほら」
安高がスマホで地図を見せた。
「ほんとだ。GPSも拾ってる」
「……魔法に夢見すぎじゃない?」
「お前に言われる、よなぁー」
がっつりへこんだ。相当へこんだ。まだまだへこんでいい年頃なんだ。僕は。なんか、最近、こんなことばっかり思ってる。よくない。いや、成長しているんだ。これは。
「国枝は思い込みが強すぎる」
算所がひとこと挟んできた。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああ」
「めんどくせーな、お前は」
「安高、お前がめんどくさくなさすぎるんだよ!」
「いいことじゃん」
「あーあ」
曇り空を仰いで、ため息をついた。いや、部長をはじめ、みんなが適応力が高すぎるんだ。そうだ、みんなはフル男と戦っていないから、知らないからこんなにのん気なんだ。
「コンビニ事件は関係ないぞ。考え方の問題だからな」
算所には僕の考えはお見通しのようだった。それも腹が立つ。かってに見るな。覗くな。見下すな。
「いい、わるいでもない。適材適所、向き不向きの話だと思って、納得しとけ。俺にだって向いていないことがあるさ。この先」
そういうと、算所はすこし歩く速度を上げて、僕を抜いていき、置いていき、みんなからもすこし先を歩き始めた。
「そういうこと。国枝。ひとりでぜんぶこなさないと解決できないわけじゃない。古株さんからは僕らみんなに頼まれたんだ。そこのへんの機微は想像してもいい」
遠藤部長の声が届く。前を向いたままそういう声が届く。前を向いたままで、みんなに届くと信じているのだろう。
「そうですよ」
宮本さんが笑った。
それで十分だった。なんといっても思春期なのだ。冷静に考えると残念だけれども、部長の言葉より彼女の笑顔を信じたのだ。
「そろそろ見えるころですね」
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