Twitter300字ss 降り積もるあなたの

 まだ駆け出し編集者である私が、学生時代の恩師の担当になったのは偶然なのだろうか。先生のご自宅に伺って、あまりの懐かしさに泣きたくなった。

 コンスタントに新作を上梓するも、売れっ子作家とはとてもいえない先生のゼミは人気がなく、その作風と同じように寡黙で真摯な学生ばかりが集まっていた。


「変わりませんね……あ、でも、やっぱり増えてる」

「献本は増えるね」


 本、手紙、資料、書斎には紙類がうずたかく積まれていて、まるで地層だ。混沌そのものなのに、先生はものの所在をちゃんと把握なさっている。


「ちなみにこれが、君から頂いた手紙」

「うぐっ」


 君の地層も見てみたいものです、先生が微笑み、私は柄にもなく赤面する。



(300文字)


「Twitter300字ss」企画参加作品/お題「地」

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