300字小説倉庫

凪野基

Twitter300字ss 写真館にて

 写真館って初めて。似合わぬ貸衣装に身を包んだ娘はそばかすの散る頬をぎこちなく持ち上げた。


「なァに、大したことはございません。いちにのさん、で素敵なお写真の出来上がりです」

「でも、写真を撮ると魂を取られるって……」

「まさか。さ、おかけ下さい」


 撮影技師はちょいと笑ってみせた。ですよね、と娘も口許を緩める。


「何デタラメ吹いてんの。写真てそもそも魂を焼き付ける技術やんか。まさかも何も、実際うちらは魂ちょびっともろてんのに」

「し、聞こえる」

「はい、何か?」


 いいえ、何も。技師はシャッターを切り、フィルムを取り上げて現像する。艶やかにして上品な、深窓の美女が印画紙で笑む。

 さて、見合いの行方は如何に。



(300文字)

「Twitter300字ss」企画参加作品/お題「写真」


作者注:「うちらは魂ちょびっともろてんのに」=「私たちは魂を少しもらっているのに」


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