第15話 ドレイク王国11

 城に戻ると直ぐにヒューリたちを会議室に呼び出す。

 今後のことについて話し合わなくてはならない。レンが国家樹立を宣言すれば、当然だが周りの国が黙ってはいないだろう。ヒューリの治めるドレイク王国は問題ないにしても、他の近隣諸国がどう動くかは、レンには予想が出来ないことだ。


「ヒューリ、もし国家樹立を宣言したら他の国はどう動くと思う?」

「分かりかねます。最悪武力侵攻もあり得るかと」

「出来れば争いは避けたいんだがな……」


(戦争なんてしたくない。誰かに殺されるのも嫌だが、誰も殺したくはない。この世界では甘い考えなのかもしれないが、俺には命のやり取りは無理だ)


 レンはそれでもある程度の覚悟はしていた。

 命を助けてくれたグラゼルとの約束もある。ドラゴンのことを託された以上、ドラゴンが危険に晒されたら、迷わず相手を殺せと命じる覚悟はあった。

 仮に命に序列を付けるとするなら、忠誠を誓うドラゴンの命が、レンの中では何より優先されている。

 ヒューリの話に耳を傾けながら、レンは争いを避けられないかを考えていた。


「各国へ国家樹立の書状を送られた後、武力衝突を避けるためにも話し合いの場を設けるのがよろしいでしょう」


(なるほどな……。国家樹立を宣言すれば、先ずは各国との話し合いなるのか。当然だが何れは各国のお偉いさんとも会談しなければならないと……。常識で考えて俺にそんなことが出来るはずがない。何の知識も無い子供が、いきなり首脳会議に参加するようなものだ。だからと言って逃げ出すことも出来ない。そんなことをすれば、話し合いをすっ飛ばして武力抗争になってしまう。取り合えずこの場は保留だ。先延ばしという素晴らしい切り札で切り抜けよう)


「ヒューリ、そう急がなくともよい。国家樹立は国の基盤が固まってからだ」

「しかし、レン様の配下はみな強大な力を持つドラゴンです。他の国に知られたら間違いなく騒ぎになります」


(厄介な事だ……)


「情報封鎖はできないのか?」

「他の国でもドラゴンの群れが移動しているのは確認されていると思われます。恐らく難しいかも知れません。ある程度の時間稼ぎはできると思いますが……」

「それで構わん。情報封鎖を行え、私のことも知られないようにしろ」

「承知いたしました」

「カオスに相談したいことも出来た。明日は新たな居城に行く。お前たちもよいな?」

「畏まりました」


 同席するアテナたちに視線を向けると、ニュクス、アテナ、ヘスティアは一斉に頭を下げて頷き返す。それからは、情報が漏れた時の近隣諸国への対応などを話し合い、会議は程なく終了した。

 翌日は新しい居城へ向かうための準備を行い、ヒューリや世話になった竜人ドラゴニュートに挨拶を済ませて街の外までやってきた。

 荷物はレンの登山用バッグとヒューリから貰った大量の衣類と食糧だが、ドラゴンの姿に戻った古代竜エンシェントドラゴンであれば楽に運べる量だ。


「ニュクスは私を運べ。アテナとヘスティアは荷物を頼む」


 言葉に頷いたニュクスはレンを爪先で優しく摘まみ上げ、手の平にそっと乗せた。


「頼んだぞ」


 レンの声に頷き、ニュクスは翼を広げて大地を蹴る。

 風を切る轟音がなり響き、砂煙が舞い上がると、その巨体は天高く舞い上がっていた。見る間に大地は遠ざかり、ドレイク王国の城が徐々に小さくなっていく。

 後ろを振り返れば、アテナ、ヘスティアが優雅に空を舞っていた。

 レンは心地よい風を受けながら大地を見下ろす。城が見えなくなる頃には、眼下には広大な緑と湖、素晴らしい景色が広がっていた。

 距離が短いのか、それとも移動速度が速すぎるのか、空の旅は程なくして終わる。

 ゆっくり高度が下がり目に映るのは、直径4キロメートル程の大きな湖だ。その中央に直径2キロメートル程の島。その島を全て覆うように巨大な城が建てられていた。

 城は高さにして400メートルはあるだろうか。正方形の城の四隅には、見張り台と思しき巨大な塔が建てられ、その上には4体の下位竜レッサードラゴンが鎮座している。城の正面からは長い橋が対岸まで伸び、城までの唯一の陸路となっていた。

 ヒューリの城に造りは似ているが規模が違う。

 城の上部には古代竜エンシェントドラゴンが降り立てる開けた場所まである。ニュクスはそこに降り立つと身を屈めてレンを降ろした。ウェンザー山脈の居城と同じく、真っ白な美しい城だ。

 ニュクスたちは人間の姿に変わると、レンを中へと案内した。

 城の中も真っ白に輝いていた。柱や扉、一つ一つに細かな彫刻が施され、所々に調度品が置かれている。

 先ずは寝室だ。3メートルはある両開きの扉を開けると、部屋の中央には10人が横になれる巨大なベッドが置かれており、壁際には20人以上が座れる豪奢なソファセットも備えられていた。部屋の端に並ぶチェストの上には、趣向を凝らした豪奢な調度品が数多く並んでいる。まるで度が過ぎた成金の部屋だ。

 奥に見える窓からは広いバルコニーが見えた。寝室は城の頂上付近にあるらしく、バルコニーへ出ると湖と雄大な草原が見下ろせた。

 何より部屋が広い、天井が高い。地球で暮らしていたレンの家が2軒は入る大きさだ。

 部屋の中とバルコニーをグルッと一周し、ちらりとアテナに視線を向ける。


「アテナ、素晴らしい見事な城だ」


 アテナは頬を赤く染めて深く一礼する。

 呼吸が荒いように見えるのは気のせいではないだろう。


「お褒めのお言葉ありがとうございます。そのお言葉だけで全ての努力が報われます。レン様に喜んで頂けるように誠心誠意、思いを込めて創世いたしました」

「そ、そうか、私のためによくやってくれた。これからも頼むぞ」

「はい、勿論でございます」


 アテナは瞳を潤ませながら見つめ返す。

 それをニュクスとヘスティアは悔しそうに横目で見ていた。


(争わないように言い聞かせたが嫉妬心は健在か。参ったな。部屋が広いから狭くして欲しかったんだが……。アテナの嬉しそうな顔を見ていたら言えなくなってしまった。部屋は狭い方が落ち着くんだが、まぁ仕方ないか……)


「アテナ、会議室はあるか?」

「はい、ございます」

下位竜レッサードラゴン以外全員集めろ。今後について話し合う」

「畏まりました」

「ニュクス、会議室まで案内を頼む」

「はい、お任せ下さい」


 ニュクスの案内で会議室まで移動するが、これがまた大変だ。会議室までは何度も階段を降りることになり、移動だけでも汗だくになる距離があったからだ。レンの寝室は上層にあり、会議室は中層にあるらしい。

 流石にこれにはげんなりする。


(この城はどれだけ広いんだ。もう20分は歩いたんじゃないのか?)


 さながらウォーキングだ。

 レンは移動しながら広すぎる城に思わず溜息を漏らした。

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