第13話 ドレイク王国9
翌日、アテナの深夜の行動も調べたが真っ黒であった。それでもニュクスの様に体に触れることはない。ヘスティア同様、布団の上から添い寝をするだけに抑えていた。
もう添い寝を許してもいいのでは? そう思うレンだったが、彼女たちの溝が深まる恐れもあり、簡単には許可できずにいた。殺し合いでもされたら後悔してもしきれない。どうしても慎重にならざるを得なかった。
更に数日が過ぎ、カオスが飛び立ってから2週間が経とうとしていた。
既にレンの居城は出来上がり、アテナたちが死の大地に行き作業をすることもなくなっている。後はカオスを待つばかりである。
その願いが通じたのか、その日の午後にカオスが戻ってくる。12体の
カオスが戻った知らせを受けてレンが寝室に戻ると、ソファに座っていたカオスは立ち上がり、恭しく頭を下げた。久し振りに見るカオスは、相変わらず凛とした面持ちで強い忠誠心を窺わせた。
女たちが争い始めると、見て見ぬ振りをするのが玉に
レンはテーブルを挟み、カオスの向かいのソファに腰を落とした。カオスは直立不動のままで座る気はないらしい。
「
「勿体無いお言葉、時間が掛かり申し訳ございません」
カオスは時間が掛かってしまったことに落ち込んでいた。本来であれば、もっと早く戻る予定が、想定外のことが多く時間を取られていた。
しかし、例えどんな理由があろうとも言い訳でしかない。カオスは如何なる処罰でも受ける覚悟でいた。
「それは問題ではない。お前が無事でなによりだ」
レンの言葉を聞くや先程までの重苦しい気持ちが晴れていく。
「私ごときのためにそのような……。慈悲深きレン様のお言葉に感謝の言葉もありません。各地より呼び集めた
「それでは街の外まで出向くとしよう。ヒューリにも紹介する必要があるな。誰か使いの者を出してくれ」
「はっ」
レンが出向くことにカオスは逡巡するが、この城には人の姿になれない
カオスは仕方ないと割り切り、扉の前に控える
ヒューリの行動は早かった。直ぐに馬車の手配をすると露払いを行わせた。
レンたちが乗る馬車と、ヒューリとその重臣が乗る馬車が数台連り城の前に用意された。先頭の馬車にレンたちが乗り込むと、カオスの指示で馬車は動き出す。その馬車の中では五人が久し振りに顔を合わていた。
「カオス、随分と帰りが遅かったけど、何かあったのかしら?」
もっともな質問だ。アテナの問いにカオスは顔をしかめた。
「殆どの
人間という言葉にニュクスが敏感に反応する。
「人間に紛れて? 劣等種と戯れるなんて、何て恥知らずなのかしら」
レンとて元は人間だ。
グラゼルの力を受け継ぎ竜王になったが、今でも自分は人間だと思っている。外見は勿論のこと生活様式も人間のままだ。
人間という種族を否定されて、レンは徐々に怒りが込み上げてくる。
(なんで人間を認められないんだ! 確かに人間は
レンは思わず怒気の孕んだ声で叫んでいた。
「ニュクス! 私も元は人間だ! そして人間と共存したいと願っている! お前は私も恥知らだと言いたいのか!」
途端にニュクスの体はビクッと跳ね上がる。
怒声を浴びたニュクスは見る間に青白くなり口を僅かに開閉させている。声を出したくても上手く出ない。早く弁解しなければ、その思いが強ければ強いほど言葉が出なかった。
「どうした! 何か言うことはないのか!」
ニュクスの瞳からは大粒の涙が止めどなく零れ落ちる。
レンに嫌われてしまった。その思いはニュクスを絶望感に染め上げていく。
確かにレンは以前から他種族との共存を望んでいた。それはここにいる誰もが知るところだ。
何よりニュクスの発言は、元は人間であるレンのことを、劣等種の恥知らずと言っているのと同じである。
迂闊な発言をしたニュクスの失態を誰も庇うことはない。カオス、アテナ、ヘスティアは静かに成り行きを見守るだけだ。
「お、お許し下さい……」
ニュクスは震える唇で謝罪の言葉を吐き出す。
小さな、その余りに小さな声は本来であれば聞こるはずがなかった。だが幸いにも馬車は防音仕様で中は静寂に包まれていた。それが幸をなし、ニュクスの消え入るような謝罪の言葉はレンの耳にも微かに届いた。
一方のレンも言い過ぎたと反省する。
涙を流して震えるニュクスを目の当たりにして、レンは思わず俯いた。
(俺は何をやっているんだ。冷静に考えれば俺の言っていることに無理がある。人間の姿になっても中身は
時間が経てば経つほど自分の過ちが鮮明になる。
「ニュクス、謝るのは私の方だ。お前たちにはお前たちなりの考えがあるにも関わらず、押し付けるような真似をしてしまった。愚かな主を許してくれ」
レンはニュクスに対し深く頭を下げた。
(嫌われても仕方ない。だが謝罪だけは行なう必要がある。主という立場で全てが許されると思ったら大間違いだ。そんな生き方では周りを不幸にするし、誰もついて来てはくれない)
「おやめください! レン様が頭を下げるなどあってはなりません。レン様は他種族との共存を望まれていたというのに、それに配慮もせずに発言した私こそが全て悪いのです」
ニュクスが叫ぶように訴えかけた。
顔面蒼白のその目には今もなお涙が溢れている。
「ニュクス、お前は悪くない」
レンは隣に座るニュクスの肩を優しく掴み、頭を抱くようにそっと自分の胸元へ引き寄せた。
ニュクスは吸い寄せられるように倒れこみ、レンの胸に顔を埋めて声を上げて泣き出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます