Hydrol Kingdom Ⅱ

「どうして信じてくれないの?わたしもお姉ちゃんみたいに魔法を操ってみたいのに、勉強したいのに、どうしてできないの?」

 わたしは左頬に印を持っているのに、わたしはお母様にもこの国の人たちにも全く相手にしてもらえない。どうして?

「それは君が必要とされていないからだよ。」

わたしは誰か2人の男の人に話しかけられた。わたしが必要とされていない?

「お姉さんは生まれてすぐに印が現れて、将来絶対に必要となる存在だからあんなに大切にされて、勉強とかもしっかりやるようにされている。でもあなたはどう?印があるのにも関わらずに家族に信じてもらえないよね?それは、お姉さんの方があなたよりも大切だからだよ。あなたがだから。」

「ジャマ?」

「そう、なの。だからいなくなったとしても誰も探してくれないし、誰も悲しんでくれない。こんな国、いるの嫌でしょ?ボクたちについてくれば、あなたにたくさんの勉強も教えてあげるし、訓練もさせてあげるよ。」

「ほんとに?」

お姉ちゃんと同じように、勉強も訓練もさせてくれるの!?わたしは目を輝かせた。

「うん、ほんと。ボクたちと一緒に力をつけて、この国に。」

男の人たちがにやりと笑う。わたしはフクシュウの意味がよく分からなくて、2人に質問した。

「フクシュウ?なにそれ?」

「いずれ分かるときが来る。さぁ、ボクたちと一緒に行こう。」

そう言って、彼らはわたしの手を強引に引いた。


シェーン様―!どこですかー?」

国中でわたしのことを探してくれている。町中にわたしを捜索するためのポスターが貼られていた。これは、わたしの記憶じゃない。たぶん、姉さんの記憶がわたしの頭に流れ込んできているんだ。

オブストメントの2人は間違っていた。わたしはんだ。わたしはんだ。それにずっと気付かず、わたしはここまでいろんなものを壊してしまった……。

シェーンの幸せはなに?」

 誰かの言葉が、わたしの耳に届いてくる。この声は、?わたしの幸せ?わたしはパッと思いつかなかった。頭の中でその言葉を反復して、わたしは考えを巡らせていく。わたしの幸せは……


 微かに規則正しい間隔で電子音が聞こえてくる。そして消毒液のにおいが部屋中に充満していた。目をゆっくり開けると、蛍光灯や淡い白い壁が視界に強く差し込んで眩しい。気が付くとわたしは真っ白いベッドの上で寝かされていた。この状況が理解できなくて、わたしはここに来る前に何があったのかを必死に思い出してみる。そっか、わたしはお姉ちゃんと一緒に地面に落ちて意識を失ったんだ。頭がガンガンする。わたしは頭を押さえながら、隣に寝ている人のことを見た。よく見ると、わたしとよく似ている。

「お姉ちゃん?」

わたしはベッドを降りてその人の顔を見てみた。やっぱりよく似ている。ベッドにムルと書かれた名前のプレートがかけられていた。すると、部屋のドアが勢いよく開く。

シェーン様、お目覚めになられたのですね!」

部屋の中に入ってきた白衣を着たお医者さんのような人がわたしを見てこう叫んだ。

シェーン様だけでも無事でよかった……。」

その人の言い方にわたしは少し引っかかった。

「え、どういうこと?お姉ちゃんはどうしたの?」

ムル様は……。」

その人は目線をわたしから逸らして何か言い辛そうにしている。そんなに状態が悪いの?わたしは不安になる。その後にお医者さんが渋々口を開いた。

ムル様は魔力を使い果たし、となっています。」

わたしはお姉ちゃんのことを見た。そしてすぐにお姉ちゃんのところへ駆け寄る。

「え、なにやってるの?お姉ちゃん、ばっかじゃないの!?こんなわたしの為に魔力使い切るなんて……。」

わたしはお姉ちゃんの肩を強く揺すりながら言った。でもお姉ちゃんはピクリとも動かない。さっきと同じように、電子音が一定間隔で鳴っていた。自然と涙が出てきて、その涙が1滴ずつお姉ちゃんの顔に落ちていく。

「なんで……?早く起きてよ。明るく嘘だよって言ってよ、ねぇ……。」

わたしは膝から崩れ落ちた。そして手で顔を覆い、大声をあげて泣き始める。わたしの泣き声が、部屋中に響き渡った。


 自分の気持ちが落ち着いてから、わたしは部屋の外へ出た。そして気の向くままに建物の中を歩いていく。途中でピュールたちに会った。あれ?なんかちょっと雰囲気が変わった気がする。

「あれ?ムル、体調良くなったの?」

笑顔でわたしにそう話しかけてくる。わたしはムッとしてピュールに掴みかかった。

「わたしはシェーン!お姉ちゃんなんかじゃ……」

わたしは途中でさっきのお姉ちゃんのことを思い出し、大粒の涙が出てきた。わたしは泣き顔が見られないように横を向いてからピュールを掴んでいた手を離し、そのまま強烈なビンタを食らわせる。

「ちょっと、シェーン!」

わたしはその言葉を聞きながらも無視して廊下を走っていった。ピュールたちに追いつかれないように……。


 そしてどれくらい走ってきてしまったのだろう?私は気付いたらお城の奥のほうまで来てしまった。横には、外に出られるように突き出したベランダのような場所がある。わたしは急に外の空気を吸いたくなって、そこに出た。そこからヒュドール王国が一望できる。すると、わたしは信じられない光景に目を丸くさせた。草木は枯れ、空は厚く黒い雲に覆われて闇に閉ざされている。暗黒の雰囲気が、私の見ることのできる風景全体を充満していた。なにこれ……?わたしは膝から崩れ落ちた。そして瞳から涙が頬を伝い、下に落ちる。その涙が、わたしの着ていた服に黒いシミを作った。すると、目の前にフロッシブとフリケティブが現れて、私に問いかける。

「この光景はフォンセが作ったんだよ?フォンセの持っていた辛さや恨み妬みの感情がこの素晴らしい光景を作り上げたんだ。」

これは、わたしがすべて変えてしまった……。わたしがすべて壊してしまった……。次第に涙が増えていく。その涙が、周りに黒い水たまりを作った。

「なにを今更泣いているの?だって、母国に復讐できたでしょ?むしろ喜ぶべきなんじゃないのかい?」

涙が止まらない。わたしはなにかを少しずつ吐き出していくように、ポツリポツリと呟いた。

「前まではそう思ってた。ヒュドール王国にわたしはって思われてるって、わたしなんてなんだって……。でも本当は違った。みんなわたしのことを。わたしのことを必死に探してくれていた。」

わたしは2人のことを睨んだ。そしてその場で立ち上がる。

「わたしは、自分が変えてしまったもの、壊してしまったものをもう一度元通りにしたい。」

わたしの言葉を聞いて、2人が鼻を鳴らす。

「何を言っているの?そんなのできるわけないじゃない。」

「そうだよ。そんな身勝手なことを認めてくれる人なんていない。」

わたしはムッとして顔をゆがめる。だけどすぐに下を向いた。そんな、身勝手なことなんて……。でも確かにそうだ。これは、わたしの身勝手な考え。私のこの気持ちを、考えを、認めてくれる人なんて……

「いるよ、ここに。」

後ろから声が聞こえてきて、私は後ろへ振り返った。わたしは目を丸くする。そこには、ピュールウィントオスカールーチェソヌスの姿があった。

「ほんと、姉妹揃って身勝手なんだから。」

ウィントがやれやれといった表情をしながらこう言った。お姉ちゃんもこの5人のことを身勝手に振り回していたのか……。わたしはそう考えて涙を拭きながら笑ってしまう。

「あたしたちはもう敵じゃない。みんなシェーンだから。」

「…え?」

「やはりあなただったのですね、使は。」

ソヌスの言葉を聞いて、わたしは固まってしまう。時空間の力?わたしがその力の使い手?どういうこと?すると、わたしの左頬がピリピリと痛んだ。わたしは思わずそこを押さえる。すると、たまたま視線に入った水たまりに白い光が浮かんだ。わたしの印が、黒から……?わたしは後ろにいるフロッシブとフリケティブの方に向いた。

「わたしはもう1人じゃない。わたしを必要としてくれた人が、こんなにがいることを教えてくれた。」

わたしは拳を握りしめた。そして2人のことを見て決意を口にする。

「もうあなたたちの言うことは聞かない。あなたたちの好きにはさせない!」

「それはどうかな?」

フロッシブとフリケティブの2人は目配せをして、呪文を唱えた。

「「グラマー ソンブル!」」

すると2人がディソナンスとなって巨大化し、地面へと着地した。ドンという地響きと共に、地面に大きなひびが入る。

「「「「「グラマー 」」」」」

フー!アイレ!トネール!ルーメン!トーン・スピア!

みんなが下へ飛び降りていく。すると、わたしの肩に誰かの手が触れた。

シェーン、ここはわたくしたちが食い止めます。だから、シェーンムルのところへ行ってください。」

「え?でもわたし、ここまでどういう道で来たのか覚えてないし、お姉ちゃんは昏睡状態で何もできない……。」

「大丈夫です。道のりは神様のお導きがあります。自分が行きたい方向へ進んでみてください。ムルのことも大丈夫です。ムルのところへ行ったら、こう唱えてあげてください。」

そう言ってソヌスはわたしに耳打ちしてきた。わたしは意味がよく分からなかったけど、今はソヌスの言われた通りにやるしかない。わたしは強く首を縦に振った。そしてみんなに背を向けて、わたしは走り始める。素敵な仲間たちのこと、そしてお姉ちゃんのことを頭に思い浮かべながら……。


 相変わらず消毒液のにおいが充満し、心電図が一定間隔で電子音を鳴らし続けている。わたしはやっとの思いでお姉ちゃんのところに戻ってきた。わたしはお姉ちゃんの顔を撫でてあげる。その途中で、お姉ちゃんの右頬にまだ薄く印が残っているのに気づいた。この印が消える前に魔力が切れてしまったのか……?わたしは目を閉じた。さっきソヌスから教えてもらった呪文を頭の中で思い出す。そして、お姉ちゃんがまた目覚めることを願いながら呪文を唱えた。

「お姉ちゃんの時間を戻して!グラマー エスパシオ!」

すると、お姉ちゃんの体が白い光に包まれた。わたしは思わず目を覆う。その後、すぐに光が弱くなってわたしは覆っていた手を離した。お姉ちゃんの右頬に浮かび上がっていた印が消えている。わたしはお姉ちゃんのそばに寄って姉さんのことを呼び続けた。

「お姉ちゃん!起きてよ、お姉ちゃん!」

「なぁに?もう、うるさいなぁ……。」

そう言ってお姉ちゃんはゆっくりと目を開けた。そしてわたしの顔を触ってくる。

「ちょっと、くすぐったいでしょ?お姉ちゃん。」

「あ、私生きてたのね。シェーンの呼び方が変わってるしさ、もしかしてあのまま死んじゃって、天国で夢でも見ているのかと思ったよ。よかったー!」

お姉ちゃんのマイペースなところを見て、やっぱりわたしと似ていると再確認する。って、そんな場合じゃなかった。

「お姉ちゃん、大変なの。フロッシブとフリケティブがディソナンスに変身しちゃって、みんなが今戦っているの。」

「嘘でしょ!?それ早く言ってよ!」

そう言ってお姉ちゃんは素早く起き上がった。わたしは頭同士でぶつかりそうになったところを紙一重で避ける。そしてお姉ちゃんが部屋から出ていこうとした。

「ちょっと待って!お姉ちゃん、わたしを置いてかないで!」

そう言ってわたしはお姉ちゃんの腕を掴んだ。その瞬間、わたしとお姉ちゃんを白い光が包み込む。お姉ちゃんが驚いたような顔をしてわたしに振り返ってきた。そしてお姉ちゃんがわたしの左頬に触れる。

「え?なに?」

わたしがこう聞くと、ムルは顔に笑顔を浮かばせた。

「やっぱり、シェーンは敵じゃなかったんだね。私たちのだったんだね。」

お姉ちゃんの目に涙が浮かぶ。わたしは強く頷いた。それを見て、お姉ちゃんが頷き返してくる。

「終わらせよう、この戦い。」

「分かったよ、お姉ちゃん。」

わたしとお姉ちゃんは手を繋いで、呪文を唱えた。

「「グラマー 」」

オー!エスパシオ!

すると、周りの光が水色に変わって一層光を増した。そして気付くと、わたしの手には白銀に輝く剣が握られていた。


 私たちが戻ってくると、5人が気付いて駆け寄ってきた。

「あれ!?みんな、目の色が変わってる!?」

「うん。2人が寝ている間にヒュドール王国のお城をくまなく探したら、俺らの両親全員がお城の中で監禁されているのを見つけたんだ。」

「そこでうちらは王冠に埋め込まれた宝石に出会って、記憶を取り戻したってわけ。やっと、うちらが地球に行く前に何があったのか、ムルシェーンの間に何があったのかっていうのが理解できたよ。」

みんなのはじける笑顔がそこにある。私は後ろで睨んでいるディソナンスのことを見た。

「じゃあこうやってみんな揃ったことだし、ここで戦いを最後にして、みんなの幸せを取り戻そう!」

「「「「「「うん!」」」」」」

こう言って全員でディソナンスの方へ向かっていく。

「そんなことはさせない!ここをお前たちの最期にしてやるよ!」

ディソナンスが私たちに向かって、なにか墨のような塊を投げてくる。私はそれを避けながらディソナンスに接近していった。後ろから銃弾、矢、槍が飛んでくる。それらが、目の前でディソナンスに命中していくのが分かった。

「こんなもん、跳ね返してやる!」

フロッシブの力で、ピュールたちの攻撃が跳ね返される。そして強い爆風が私たちを襲った。ピュールルーチェソヌスはそれでも諦めずに攻撃をしていく。

「くそ、うざったいなぁ。」

そう言って、今度はフリケティブの力で私たちの攻撃の時間を止めてしまった。私たちとディソナンスの間に、多くの銃弾や矢そして槍が空間に散乱する。

「チャンスだよ、みんな!」

ルーチェの言葉を筆頭に、私とシェーンが飛び出していく。そんな私たちを目掛けて、ディソナンスは攻撃を強めてきた。ウィントが扇で風を起こし、ディソナンスの攻撃を弱めていく。そして私たちに当たりそうな攻撃を、オスカーが冷静に対処していった。私とシェーンは、お互いに剣を握りしめて時間の止められたピュールたちの攻撃を乗り継いでディソナンスに近付いていく。そして頂点まで登りつめると、私たちは同時に上へと跳び上がった。剣を両手で握りしめる。その後に剣を大きく振りかぶった。すると、ディソナンスの左手が私たち2人の方に向いて、私たちの視線を覆う。

「ここでボクたちがチャンスをあげると思った?残念でした。」

その言葉が発せられた後、私たちは台風のように強い爆風に襲われた。私とシェーンはお城の方まで飛ばされて、壁に強く打ち付けられる。他のみんなは、同じ爆風によって時間を止められていた自分たちの攻撃に襲われてしまった。みんな傷だらけになってお城の壁にもたれかかる。

「甘いんだよ、お前ら。たかだか数日前まで高校生だった子たちが、オレらを倒すことなんてできない。」

さっきぶつけた腕がビリビリと痛む。私たちの周りが、暗い雰囲気に包まれていくような感じがした。そう、私たちは数日前まで普通に高校生として過ごしていた。友達とはっちゃけて、勉強して、部活で汗を流して……。ある意味、ここまで私たちは自分の印の力才能でここまでやってきたのかもしれない。ここまでの覚悟がまだなかったのかもしれない。じゃあ、私たちはどうすればいい?どうしたら、私たちはこのディソナンスを倒すことができるの?どうしたら、幸せを取り戻すことができるの?すると、隣にいたシェーンがゆっくりと立ち上がる。そして、1人でディソナンスに向かって歩いていった。


 わたしは一人でディソナンスに向かって歩いていく。傷だらけの体を引きづって……。ここにいるみんなの力になりたくて、ここまで裏切ってきてしまったみんなを助けたくて。

「確かに、わたしたちはついこの前まで高校生だった。一人ひとりはすごく不安定で、弱くて、もろい存在かもしれない。でも、たとえ一人ひとりが弱くても、わたしたちは力を合わせることができる。力を合わせて、息が合えば、自分たちも驚くほどの力を発揮できる。みんなバラバラな音が合わさって、一つのハーモニーが、音楽が、アンサンブルができるみたいに……。わたしはそう信じてる。」

わたしはディソナンスとなったフロッシブとフリケティブの方を見て言った。

「なにきれいごと言っちゃってるの?今まで敵だった人たちの味方しちゃってさ……。」

「そうだね。わたしはあなたたちにとっても、お姉ちゃんたちにとっても裏切り者。でも、わたし気付いたの。わたしの幸せは何かって……。」

そしてわたしは一度深呼吸をした。この言葉を発したら、ここでわたしはフォンセというなかったことにはできないけれど、オブストメントの2人とんだ。

「わたしの幸せは、ここにいるみんなを幸せへ導くこと。平和も、希望も、情熱も、知性も、安らぎも、思いも、そんなみんなの幸せをかすこと。そのために、わたしはみんなを導く道になってみせる!」

すると厚い雲が切れ、暖かな太陽の光がわたしのことを包み込んだ。その光が、わたしに呪文を教えてくれたみたいに、一つの言葉が頭の中に浮かぶ。

「ハピネス エスパシオ!」

そう唱えた瞬間、わたしの手に指揮棒のような細い棒が落ちてきた。

「それって、時空間のタクト!?」

「そんな、楽器ヒュロイトもないのに……。」

後ろからみんなが呟く声が聞こえてくる。そっか、これがオブストメントの2人が言っていた噂のタクトってものなんだ。

「響け!再生のハーモニー!Aアー dourドゥア!」

そしてわたしは三拍子を描くようにタクトを三角形に動かす。すると豊かなオーボエの響きでAEC♯ド♯の音が聴こえてきた。わたしはその音を聴いてタクトを一回転させる。するとイ長調のハーモニーがわたしの耳に届いてきた。

「ハピネス! リバース・エスパシオ!」

わたしがこう唱えると、ディソナンスが白い光で包まれる。そして、闇の力が少し弱まった感じがした。それを見たみんなが、またディソナンスに向かって攻撃をしていく。ディソナンスの悲鳴が聞こえ、力を使えないみたいで破裂させることも時間を止めることもなかった。

「みんな!止めだよ!」

すると、ソヌスがみんなに指示を出す。

「すべての力が集まった時だけにできる攻撃があるんです!」

そしてみんなを集めて耳打ちし、教えてくれた。そしてみんなが一斉に呪文を唱える。

「「「「「「ハピネス 」」」」」」

オー!フー!アイレ!トネール!ルーメン!トーン!

みんながタクトを手にした後、順番に一列に並んだ。

「「「「「「「響け!7人のハーモニー!」」」」」」」

B♭べーCツェーDデーEsエスFエフGゲーAアー

自分の音を順番に言いながら、みんながタクトを縦に構えていく。

「「「「「「「ハピネス! SeptetセプテットEnsembleアンサンブル!」」」」」」」

呪文を唱えてからディソナンスの方へタクトの先を向けると、それぞれのタクトから音符がたくさん出てきてそれが一つの帯になった。それが虹のように寄り合って、ディソナンスに巻き付いていく。それにディソナンスが抵抗して、体をくねくねとくねらせた。みんながタクトとくるくると回していく。すると、帯が光を放ちだし、その光でディソナンスを包み込んだ。

「オレたちは決していなくならない。人に憎しみの感情がある限り、何度でも蘇る……。」

この言葉を残して、ディソナンスは消えた。


「終わったんだ、これで。」

 隣にいたお姉ちゃんが小さく呟く。みんなの変身が解除され、それぞれが自分の楽器ヒュロイトを持ちながらヒュドール王国を眺めていた。でも、ディソナンスが消えても闇の力は完全には消えない。わたしは自分の楽器ヒュロイトであるオーボエのことを見た。キーが白銀に輝いている。

「わたしの音色で、闇の力は消えるかな?」

「消えるよ、絶対に。」

お姉ちゃんの一押しで、わたしは息を吸ってオーボエの音色を響かせた。艶があってのびやか、でもどこか悲しげな音が空気を泳いでいく。すると、お姉ちゃんがクラリネットを構えてわたしの音に重なってきた。すると、後ろにあった大きな穴に水が溜まり、それが運河に流れていく。そのあとにピュールも同じようにフルートを構えて音を出し、そしてルーチェがトランペットで暖かなベールを奏でて、わたしたちのデュオにアクセントをくわえてくる。空を覆いつくしている雲が次第に切れていき、暖かな日の光と熱が目の前を包んでいく。オスカーのテナーサックスが裏メロをわたしたちの旋律に加えてきた。町全体に電気が灯って明るくなる。最後にウィントのホルンとソヌスのトロンボーンがリズムを刻み始めた。優しい風がわたしたちの間を通り抜け、枯れていた草木たちが元気になっていく。そして町の様々な場所で音が奏でられ始めた。平和の音希望の音情熱の音知性の音ファ安らぎの音思いの音再生の音。この星全体にまたが、が訪れる。わたしたちのEnsembleで────




















人は皆、使命を持って生まれてくる

でもその使命はすぐには分からない

もしかしたら、自分や周りを幸せにする使命かもしれないし、逆に過酷な使命かもしれない

それでも私たちは立ち向かう

たとえどんな使命や試練だったとしても、私たちは力を合わせれば乗り越えられると信じているから


--Fine--

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