第56話 逃走
今回から第三章に戻ります。
ユナを迷宮に置き去りにした後の話となります。
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『アルジャの迷宮』の扉を閉めた後、俺達は、黒服の男達の増援を警戒しながら、元来た道を引き返すこととなった。
ミリアの広域詳細探知魔法によれば、一人の男性を発見したが、かなり早い速度、おそらく馬に乗って遠ざかっているということだった。
二時間ほど歩いて、乗ってきた馬車に辿り着いた。
また、すぐその側に、十数頭の馬を発見した。
おそらく、迷宮内に石になって閉じ込められた十三人の男達のものだろう、ということで意見が一致した。
なお、馬車は荒らされていることを懸念したが、荷物を含め、特に問題はなかった。
ただし、積んでいた食料と水だけは、毒を盛られたことを警戒して廃棄した。
その後は、馬車でひたすら走った。
やはり、黒服の男達の増援が恐ろしかった。
ユアンとジル先生が交代で御者を務め、夜の間もぶっ通しで走った。
後方の見張りには、俺やアクトが交代で当たった。
また、ミリアには、定期的に探知魔法を使ってもらい、追っ手が来ないことを確認した。
そこまで警戒を強めたのは、もちろん、俺達が呪怨の黒杖、解呪の白杖という、歴史上最強クラスの魔道具を持っていたからだ。
古都キエントには立ち寄ったが、そこで宿泊することはなく、馬車を新しいものに変え、水と食料を買い直して、素早く街を出た。
現状を記した伝書便をセントラル・バナンにも放った。
そしてまた王都を目指して、ひたすら走り始めた。
丸一日、長時間の休憩を取らずに走り続けた結果、馬が一頭倒れた。
さすがに無理をさせすぎた、どうしようか、と考えていたところで、セントラル・バナンから、馬に乗った三十人近い騎士達と、馬車がやってきて、合流することができた。
伝書便を見て、ユナが帰れなくなった現状、解呪の方法を得たこと、そして何者かに襲われたことを知った王が、こちらに対して増援を送ってくれたのだ。
それでやっと、俺達全員が安堵することができたのだった。
その後、馬車で仮眠をとり、さらに一日移動して、ようやく王都セントラル・バナンに帰って来ることができた。
しかし、休む間もなく、俺達は王女の元へと連れて行かれた。
黒杖と白杖、それそれについては移動中に騎士隊長に話しており、それがすぐに政務官、大臣、そして国王へと伝言され、早速呼び出されたというわけだ。
例の小さな教会のような部屋に、冒険者姿のまま連れて来られた俺達。
十人以上の騎士、政務大臣、デルモベート老公、ジフラール、そして国王と王妃が、既に待ち構えていた。
国王が、帰還の挨拶を聞く間も惜しむように、まずは我々の旅をねぎらい、
「疲弊しているところ、申し訳ないが……」
という言葉をかけた上で、解呪の白杖の使用をアクトに命じた。
彼は、嫌な顔一つせず、ただ頷いた。
緊張の面持ちで、彼は祈りを込めて、白杖を振った。
――一瞬、ソフィア姫の体が、白い光で覆われた。
そしてすっとそれが消え……あっさりと……まるでさわやかに朝日を浴びたときのように、彼女は目を覚ました――。
国王陛下と王妃様は、ソフィア姫に駆け寄った。
意識ははっきりとしており……自分は、城内の中庭で、訪問してきた患者達に治癒魔法をかけていたはずだが、それ以降の記憶がない、と語った。
その後、ずっと長い夢を見ていたようだ、とも。
そしてそれは、正しい記憶だった。
彼女は、後遺症が残ることもなく、完全な状態で目覚めたのだ。
父親である国王陛下、母親である王妃様に交互に泣きながら抱き締められ、戸惑いながらも、もらい泣きしてしまうソフィア王女。
騎士達は万歳と叫び、俺達も、ようやく本来の目的を達成出来た、と安堵のため息をついた。
しかし……俺達は、騎士達のように心の底から喜ぶことはできなかった。
その様子と、冒険者の格好である俺達を見て、ソフィア姫は俺達の事を気にかけてくれた。
すると、国王陛下は、簡単に、
「この者達が、呪いで眠り続けていたおまえを助ける旅に、困難な旅を続けて、そして解決の為の手段をもたらしてくれたのだ」
と、紹介してくれた。
ソフィア姫は、大きく頷き、そして感謝の言葉をかけてくれた。
元気になり、顔色も良くなった彼女は、本当に美しかった。
そして、
「どうしてそんなに苦しそうな表情をしているのですか?」
とも言ってくれた。
俺は、病み上がりの彼女に、ユナのことを言うべきではないと考えていたのだが……アクトが、
「姫様の親友であるユナが、貴方を助けるための旅において敵に討たれ、死の淵にたたされています」
と、正直に言ってしまった。
「えっ……ユナ? あのユナが!? それって、どういうことですか!?」
ソフィア王女が、大変な剣幕でまくしたてたものだから……アクトを含む、その場の全員が、あまりの豹変ぶりに目を見開いて驚いてしまった。
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ここまでの話を聞いたユナは、
「ね、私が言った通り、ソフィーは猫かぶってただけでしょう?」
と言って、笑ったのだった。
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