第48話 ラスボスバトル

「……いい指揮と対処だ……」


 アクトは、なぜか大魔法を使った女性三人ではなく、何もしていないはずの俺を褒めた。


「指揮? ……そんなつもりはなくて、ただ思いついたことを言ってただけだけど……」


「自覚がなかったのか? おまえの指示に、みんなが従っている……おまえが自然と、このパーティーの指揮を執っているということに」


「俺が? ……いや、それはアクトであって……」


「そうじゃない。俺はこの迷宮を知っているからアドバイスしているだけで、いざというときの指示はおまえの方が的確だ……そもそも、このパーティーのリーダーは、おまえだ」


「……本当に、そんなつもりはなかったけど……」


 これは俺の本音だったが……。


「アクト、タクはこういう人なの。今までずっとそうだったのに……」


 ユナが、あきれ顔でそう話した。


「タク、真竜と対峙したときもそうだったでしょう? タクの指示はいつも的確だった。無茶しようとしていた私を、真竜から逃がしてくれたし、逆に自分が無謀な事をしてでも、私達を助けてくれた……真竜の吐息ブレスと片目を奪ったのは、タクよ」


「……いや、あのときはただ、夢中で……」


「夢中でそれが出来る事が、すごいことなんです……私なんか、足が震えて何もできなかった。今日もそう……いや、それが普通のはずなんです」


 今まで黙っていたジル先生が、そう付け加えた。


「私の時もそうでした……夜中だったのに、無理矢理馬車を借りて、ユアンを助ける為に、駆けつけてくれました……本当にすごく、感謝しているんです」


 これはミウのセリフだった。


「国王陛下の前で占いを成功させて、みんなをここまで導いたのも、タクヤ、君だよ。もし僕に、その占いの能力があったとしても、とてもここまでの行動力はなかった……本当に尊敬するよ。それに、あの水竜を倒すための策をこんな短時間で思いつくなんて、すごい才能だよ」


 ユアンまでもが、俺を持ち上げてくれた。


「……ただ、俺は夢中でやってただけなんだけどな……」


「それがタクの凄いところ。普通、恋占いでここまでやる人なんて、いないよ」


 ユナは微笑んでいた。


「私、思うんだけど……タクの、究極縁結能力者アルティメイト・キュービッド って、タク自身の能力も強化されているんじゃないかな……だから、恋人同士をくっつけるための旅においては、時にとんでもないタイミングで、抜群に効果のあることをやってのける……」


「……なるほど、与えられた『能力』で一時的に強化されているのなら、それもあるのかもしれない」


 俺は素直に、ユナの意見を受け入れた。

 考えてみれば、争いの嫌いなはずの、冒険者ですらなかった俺が、ここまでの大冒険を、これだけのメンバーと繰り広げているのは、神から与えられた能力に導かれているからだ……そう考えれば納得がいくような気がした。


「……まあ、俺はそれだけが理由だとは思わない。タクヤの資質によるところも大きいと思うが……なんにせよ、今のお前は、少なくとも今回の探索に関しては、十分にリーダーたる条件を満たしているような気がするな……それで、この後、どちらに進めばいい?」


 アクトは、俺をおだてるようにそう言った。

 それに対し、俺は少し照れながら、彼から伸びる糸ラインの方向を指差したのだった。

 

 貯水池は、ミウが表面を凍らせてくれたおかげで、泳がずとも歩いて渡ることができた。


 そこから二百メルほど歩いたところに、またもや大扉が待っていた。

 アクトが罠に警戒しながら慎重にそれを開くと、そこは高さ二十メル以上、左右、前後の奥行きが百メルを超えるような大広間になっていた。


 真竜より一回り大きな鉄製のドラゴン像が、なぜか氷漬けの状態でそびえていた。

 それを皆で診て、ミウに


「もう凍結呪文で倒したのか?」


 等と冗談を言い合っていたのだが、突然、その氷が急速に溶け始め、一部湯気にまでなっていたのを見て、即座に戦闘態勢を取った。


 ――鎧の真竜(Armored true dragon)との戦いは、熾烈を極めた。


 元々の真竜の攻撃力は失われぬまま、全身を強固な金属鎧で覆われたドラゴンに対しては、そのままではアクトやユアンの物理攻撃は全く歯が立たない。


 ミウの凍結呪文も、元々覆われていた氷を溶かすほど加熱された金属鎧には無効だった。

 ユナの雷撃呪文も、鎧を伝って地面に流れるようで効果がない。

 ミリアの爆撃呪文ですら、単発では明確なダメージを与えられないように見えた。


 それでいて竜の動きは速く、顎や尾、四肢の爪による近距離攻撃に加え、炎まで吐くそぶりを見せた。


 それに対し、アクトが言うように俺自身に究極縁結能力者アルティメイト・キュービッドの恩恵が発動しているためか、対抗策が次々と閃いていく。


 鎧竜の炎のブレスに対しては、ミウに『氷の障壁』を作るよう指示して対抗。ほんの数秒だが、パーティー全体が直撃を免れることに成功する。


 そしてやはり、突破口を開くのはミリアであると判断。

 空中浮遊の魔法で、上方から、鎧竜の右脇腹を連続で狙うように指示。

 彼女の場合、たとえブレスを吐かれたとしても、自動回避能力が働くので直撃することはない。


 とはいっても、ミリアにだけ攻撃が集中するのはまずい。

 ユナも『魔法光弾』などの雷撃系以外の魔法で牽制、ユアンには、ダメージはあまり与えられないものの、斬撃を飛ばして援護するように指示した。


 ミウには『氷の障壁』での防御を継続させ、アクトにはジル先生を護衛するように指示。


 そのジル先生は、誰祝於為輝フォアサム・ワンなどの攻撃支援魔法、及び火炎に対する抵抗力を持つ防御魔法をかけてもらった。


 そうなると、俺だけが弱点なのだが、竜の本体が迫ってくれば全力で逃げ、追いつかれそうになったらユナとミリアが攻撃を加えて牽制してくれる。


 そしてミリアの三発目の爆撃魔法が鎧竜の右脇腹を直撃して、ようやくその部分の鎧が破損し、生身の肉体が露出した。


 しかし、この時点でミリアが限界を迎えた。

 加熱された彼女の体を、ミウに冷却するように指示。

 ここで主攻撃を、ユアンの『延長剣突ロング・ソウ』と、ユナの雷撃呪文に切り替えた。


 いままでほとんどダメージを与えられなかったが、露出した右脇腹に対しては有効打となり、鎧竜は苦悶の咆吼を上げ、大量に出血して次第に弱っていく。


 ここにきて、ミウの冷却を受け、魔結晶を摂取したミリアが復活。


 最後は、今までの攻撃で大きくえぐれた鎧竜の右脇腹に、鎧の内部から炸裂するような爆裂呪文を叩き込み、遂に最強、最後の守護者ガーディアンは倒れたのだった。


 全員、ヘトヘトに疲れていたものの、大きな怪我を負った者はなし。

 俺は夢中で指示を送り続けただけで、ろくに攻撃に参加していなかったのだが、それでもその活躍ぶりを、全員から絶賛された。


 どうやら、やはり究極縁結能力者アルティメイト・キュービッドは、俺に相応以上の判断能力をもたらしているようだった。


「……でも、そうだとすれば、これはアクトとソフィア姫をくっつけようとする、天使の力によるものだよ」


 とアクトに返すと、彼は苦笑しながら、


「だったら、俺も本気で結婚を考えなきゃならないんだな……」


 と、思ってもいないような事を口にしていた。


 この時点で、俺は、おごり高ぶっていた。

自分の、究極縁結能力者アルティメイト・キュービッドは、ある意味無敵の能力なのかもしれない、と。

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