第44話 興味
その日は一旦、キエントに帰り、ギルドにてランタンのオイルや
ランタンがあるのに松明を使うのは、蜘蛛の巣を焼き払ったり、万一の戦闘時に地面に投げ落としてもランタンと違って割れたりせず、しばらくは燃え続けるからだ。
普段はかさばるので持ち歩いておらず、値段も高くないので、いつも最寄りの町で調達することになる。
ロープも多めに買い込んだ。
また、迷宮攻略の作戦も練った。
万一、バラバラになったときは、笛を吹いて互いの位置を確認することにした。
一人一つずつ持ち、吹き方によって『救助要請』、『待機』、『そちらに向っている』などの合図とすることを定める。
パーティーのフォーメーションの確認も必要だ。
先頭は当然、レンジャーで、迷宮の内部も知っているアクトだ。
それに続くのが冒険に慣れているユナ、そして投擲の得意な俺が続く。
真ん中に、治癒術師のジル先生。
そしてミウが続き、ミリア、最後尾にユアンが備える。
万が一の、背後からの攻撃に関しては、彼が盾になる。
また、パーティー全員で逃げたりする必要がある場合、例えばミウやミリアが転んだならば、それを抱え上げて走るのも彼になる。
こうした準備を周到に行うにつれて、今回の作戦、単なるピクニックではなく、重要な任務であるとの認識に変わっていく。
そのあたり、その気にさせるのは、さすがはレンジャーのアクトであると感心させられる。
この日は、
その夜も、酒場にて全員で食事。
昨日の反省から、酒は控えめ。
この日も陽気なアクトに、少し酔っているユナが絡む。
「……ねえ、本当はソフィーと運命の糸で結ばれているっていう占い、気に入っているんでしょー」
「ははっ、馬鹿なことを……会ったこともない、十四歳も年下の子供をか?」
「あー、馬鹿にしてる! 私も同い年なのにー!」
この二人、最初会った時から思っていたが、凄く仲が良い。
それが、俺に取ってはちょっと気に入らないわけで……。
「ソフィー、すっごくかわいいのよ。私よりずっとモテてだんだから!」
「そりゃ、大抵の女の子はユナよりモテるだろう?」
「ひどーい! 私だって、好きだっていてくれる人、いっぱいいたのよ!」
「へえ……まあ、俺も嫌いじゃないけどな」
俺は、内心ハラハラしながらその会話を聞いている。
ユナ、大分酔っているな……。
「あ、やっぱり? 私のどこを気に入ってる?」
「調子に乗るなよ……ほら、彼氏が拗ねてるじゃないか……」
と、アクトは俺の方を見る。
「ごめーん、タク。アクトに聞いているのは、そーゆー意味じゃないのよ。ただ、私とソフィーが『双子みたい』ってよく言われてたから、私の事気に入っているところがあったら、ソフィーも同じだよって言いたかっただけ!」
……そうか、ユナは、アクトにソフィア姫のことを、気に入ってもらおうとしてるんだ。
ちょっと安心。それにしても……俺が彼氏って言葉、否定しなかったか……。
「ユナと双子? ……おかしいな、ソフィーは大人しくて可憐な少女と聞いていたけどな」
「あ、それ、猫かぶってるだけ。本当のソフィーは、明るくて、快活で、行動力もあって、みんなに慕われて……そう、まるでおとぎ話に出てくるファナ王女みたいなのよ!」
……その一言に、アクトは、敏感に反応した。
カタン、とスプーンを落とし、真剣な表情になる。
「あ……」
ユナも、今の言葉はまずかった、と、顔を引きつらせた。
だが、彼はすぐに元の笑顔に戻って、
「……なるほどな。あの話の主人公みたいなんだったら、それは面白そうだな……恋愛対象にしたならば、相当振り回されそうだが、それも嫌いじゃないな……」
と、冗談を交えて場を和ませた。
ファナ王女は、アクト……本名、アクテリオスの実の母親だ。
そして彼女は、アクトを産むと、すぐに亡くなった。
彼は、母親の愛を知らない……。
その後、店内に飾られていたリュートを、吟遊詩人と思われる旅人が奏で、そして歌い始めた。
しっとりとした曲調で、かなり上手だ。
俺達を含む、全員が聞き入ってた。
「……ファナ王女に似ている、か……」
アクトが、ぼそりと、少し寂しそうに呟いた。
彼は、ほんの少しだけ、ソフィア姫に興味を持ったのかもしれない――。
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